EV市場に向けパワー半導体、電池、セキュリティなど新市場広がる
EV(電気自動車)を中心核に、パワー半導体とバッテリ技術を巡る動きが活発になっている。パワー半導体関連では東芝デバイス&ストレージ社が2022年度に1000億円の設備投資を行い、ニコンも200mmウェーハでi線のステッパーを生産する。電池の最大の悩みはコスト高。コスト削減努力が活発に行われている。EVのセキュリティを強化するため鴻海はTrendMicroと組んだ。
図1 床一面に電池セルを敷き詰めるEVプラットフォーム 写真はTeslaのModel S 出典:筆者撮影
東芝D&S社は、前年度比45%増の約1000億円を設備投資に使うと3月22日の日本経済新聞が報じた。「23年春から生産子会社の加賀東芝エレクトロニクス(石川県)敷地内で新製造棟の着工を予定しており、建屋や製造装置への投資を始める。既存の製造棟内にも新ライン導入を進めており、パワー半導体の生産能力を全体で約2.5倍に高める目標だ」、という。半導体だけではなく、ハードドライブ(HDD)にも投資し、30TBまでの技術を開発しており、製品化につなげる考えだ。
17日の日刊工業新聞は、ニコンは2024年度までに150〜200mmウェーハに対応したi線の半導体露光装置を投入する、と報じた。i線リソグラフィ装置が車載用を中心に需要が広がるパワー半導体向けなどで引き合いが増えているという。プロセスノードが250nm以上のパワー半導体は車載用や産業用、FA用などのモータドライブやPWM制御などに使われており、大電流のIGBTだけではなく汎用のパワーMOSFETは大量に使われている。
半導体プロセスの最先端では、歩留まり向上のため不良品を作らないための技術にAI(機械学習やディープラーニング)が使われており、半導体製造企業の多くがAIエンジニアやデータサイエンティストを採用している。TSMCの熊本新工場でも募集中だ。17日の日経は、東京エレクトロンが24年3月期までの2年で現在の2倍強にあたる約1000人の専門人材を採用すると報じた。システムLSIなどの複雑な半導体チップは、製造工程も複雑になり、どの要因が歩留まり低下に寄与したのか、簡単に見出すことが難しくなっている。このため多変量解析やAIを使うことが増えている。ロジックだけではなくメモリでも半導体メーカーはデータサイエンティストを採用するようになっている。
また3次元や2.5次元のインターポーザ技術などを使ったICパッケージ技術の重要性が増していると15日の日経は報じた。AMDの最新のCPUプロセッサにはチップレットを使ったパッケージを発表した。AppleのMac用半導体チップのM1 Ultra(参考資料1)は、シリコンのインターポーザで昨年10月に発表したM1 Max(参考資料2)を2個接続しており、2.5D/3D技術が本格的に使われるようになっている。実際にパッケージ技術を手掛けたのはファウンドリのTSMCであり、同社は先端パッケージにも手を広げている。
電池関連では、Volkswagenがコバルトやニッケルを手掛ける中国2社と合弁企業を設立することで合意したと22日の日経が伝えている。電池の正極材となる材料を確保することが狙い。韓国のロッテケミカルは1600億円規模を投じて韓国や米国で電解液などの工場建設を目指す、と18日の日経が伝えた。さらにLG化学やポスコも増産を表明しており、電池の増産に向けて韓国が動き出している。また、パナソニックもニッケルを半減する正極材料技術の開発を目指す、と18日の日経が報じた。ソフトバンクも現行のリチウムイオン電池の2倍の容量次世代電池の商用化を2026年に目指す計画を、17日の日経産業新聞が報じている。
EV用のバッテリは、BMS(バッテリ監視システム)用のICを使うため、ここでも小型パワートランジスタやドライバ、マイコンなどの半導体が使われる。
EVでは車載のミドルウエアを自動更新するOTA(Over the Air)技術が使われ始めているが、無線で自動更新するためサイバー攻撃されやすい。そこで、サイバーセキュリティソフトウエアの大手TrendMicroが、鴻海精密工業が中心となっているEVの共同開発プロジェクト「MIH」に参加する、と22日の日経産業が伝えた。具体的にはEV開発者向けの開発ツールである「EVKit」にTrendMicroのセキュリティソフトを搭載する。
参考資料
1. 「Appleの新CPU「M1 Ultra」はSiインターポーザ技術で実現」、セミコンポータル (2022/03/09)
2. 「Appleの新型SoC、GPU・ビデオ機能を充実しながら消費電力を削減」、セミコンポータル (2021/10/20)