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重電の2強、日立と東芝の社長交替劇の真相を探る

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先週、大手エレクトロニクスメーカーの日立製作所と東芝の社長交替というニュースが発表された。日立は2009年3月期に7000億円にも上る赤字を計上する見込みがはっきりしてきたことに対する「事実上の引責」と日本経済新聞は伝えた。同じ日経新聞が東芝の人事を西田社長から佐々木則夫副社長の昇格を、「選択と集中加速」という見出しで伝えている。東芝と日立の伝え方に温度差がある。

日立製作所次期社長兼会長の川村隆氏、東芝次期社長の佐々木則夫氏
日立製作所次期社長兼会長の川村隆氏東芝次期社長の佐々木則夫氏


確かに東芝の人事に関しては、佐々木氏がウェスチングハウスの買収をやり遂げた実績を評価し、今後の柱である、半導体と原子力のうちの原子力畑の人材を登用したことで、異論の声は聞かない。西田厚聡社長がこれまで改革を加速してきた評価には誰も異論をはさむ余地はなさそうだ。業界関係者や東芝関係者の声を総合しても極めて評判がいい。社長を佐々木氏に譲り本人は代表権のない会長に退くという潔さも評価されている。

一方の日立の場合は事情が違う。不透明な部分が多く、業界関係者の口も重い。代々、日立の社長は重電出身者が多い。古川一夫社長(62歳)が、日立プラントテクノロジーと日立マクセルの会長を務める川村隆氏(69歳)と交替する。古川社長は重電以外の出身者で初めてともいえる通信事業出身だった。いわゆるITのことがよくわかる初めての社長だった。

今回、社長人事を日立が発表したとき、業界関係者の誰しもが首をかしげた。常識的に考えて、70歳に近く、しかも会長職に退いていた川村氏を起用すること自体、何か変だと思わせる。川村氏が精神も肉体も40~50歳代と思われるほど若い感じの人で、強いリーダーシップを発揮してこれまでさまざまな改革をやってきた人であれば納得がいく。それについては判断できないが。

むしろ、現会長の庄山悦彦会長の身のふり方こそが不透明で疑心暗鬼を呼ぶ結果になっている。次期社長となる川村氏は会長も兼任する。古川氏は副会長に就任し、庄山会長は取締役会の議長という立場になる。本来、会社法人という組織では、社長やCEO、執行役のトップと、取締役とは役割が違う。取締役は実際の経営がうまく機能しているかどうかをチェックするのが本来の役目である。取締役会会長は、取締役会の議長を務めるのがこれまでの慣例だ。日立が言う、取締役会議長の役割とは何か。会長とは何が違うのか。これに言及した新聞は残念ながらない。

このような不透明な人事だからこそ、業界筋では、院政を敷いた人事だともっぱらの評判だ。川村次期社長は、庄山次期議長が社長であった時代に副社長を務めた、庄山氏の腹心である。庄山氏が人事と会社をコントロールしていると見るアナリストや業界関係者は多い。

これが事実であれば、日立製作所の未来は暗い。実際に働く人間の意欲を削ぐからである。となると、従業員が一生懸命に働いて、日立を何とかしようという気持ちは薄らいでしまう。従業員のモチベーションが下がると企業としての活力は間違いなく低下する。となると、企業の業績は落ちる。だから暗くなる。2兆5000億円もの有利子負債は5年経っても一向に減っていない。

本日の日経新聞に解説記事として、「経営の視点」と題して、ソニーの人事も日立の人事と同様に改革意欲が後退したことを取り上げ、今回の社長交代によって、時計の針を巻き戻す結果になっていないか、と疑問の声を上げている。

この人事の結果は株式市場に反映される。また、結果が出てくるのに1年はかかるだろうが、それまでにどのような改革ができるのか、市場が答えてくれるだろう。


(2009/03/23 セミコンポータル編集室)

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