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経営層のAIに対する理解が不十分

9月30日の日本経済新聞によると、AIを活用すると答えた企業は98%にも上ったものの、実際に分析に必要なデータは十分そろっていると答えた企業は1割しかいなかった。これは日経と日経BP社が国内大手133社にアンケート調査した結果だという。AIは始まったばかりの新しい分析技術であり、社会問題を解決するための重要なテクノロジーになる。

この記事では、「調査では『データはあるが使えない』企業が35%に上り『収集できていない』も2割を占めた。『どんなデータが必要か分からない』も含め6割の企業がAI導入に悩む」と報じているが、AI、特にディープラーニングを使って、コンピュータに画像認識や音声認識、文字認識などを学習させる場合、画像や音声や文字などのデータを加工する必要がある。例えば、クルマの画像を学習させる場合、一つの画面のなかのどれがクルマでどれが人なのか、道路なのか、木々なのかを紐づけする作業が必要である。現在はこれを人間が行っている。

さらに、データを分類したり細くしたりするなど、この前処理工程を人間が担っている。加えて、ディープラーニングで画像を学習させる場合、ニューラルネットワークの手法を使って、データ×重みの演算を各ニューロンに渡って並列演算し、学習させる教師データと比較・修正していかなければならないが、なかなか収束しない場合も多い。重みづけのデータをどのように振っていくか、という作業にも現場の勘と経験を必要とする。また、推論をサポートしたり結果を共有するなどの後処理作業にも人手がかかる。

また、様々なデータを多変量解析のように分析すると、因果関係が不明瞭のまま、ブラックボックス化しやすい。だからといって、AIでは「判断がブラックボックス化するという懸念を示す」だけでは進まない。73%の企業がこの懸念を持つという。説明できるように、モデルベースのシミュレーションも組み合わせればよい。

データフォーマットの統一化に関してもデータ形式がばらばらであることを問題としているが、これは、AIを使った分析を行うことを前提に全社的にデータフォーマットを整えれば済む話だ。この記事では、AIに対して漠然とした不安を持つ企業が多いことがわかった。

17年に別の調査会社がアンケート調査した結果、AIを熟知している企業の経営層が米国の5割、ドイツが3割に対して、日本はわずか7%だったという。AIはこれから生産性、売上額、応用拡大、付加価値などを高めるのに必要な分析手段である。正しい理解を経営者が持てない企業は生き残れなくなる時代に来ている。

日本政府もAI戦略策定を定めると、28日の日経が報じているが、AIはデータ分析の手段であり、活用できなければ企業は生き残れなくなるため、企業の問題であり経営者の意識の問題でもある。政府がまとめてどうしようというのか、明確ではない。

日本企業が海外と比べてAIで出遅れていることは確かではある。しかし、AIは今始まったテクノロジーだ。いかに早く進め、挽回からリードに転じていくかことが重要になる。ただ、日本大手企業の「遅さ」に関しては、やはり気になる記事が28日にあった。例えば、NTTドコモがIoT専用のセルラーネットワークである、NB-IoTとCat-M1規格の内、後者をLTE-M方式として10月1日から提供することを28日の日経産業新聞が報じたが、LTE-MというCat-M1規格によるサービスは2018年1月からKDDIが、4月からソフトバンクがすでに先行してサービスを開始していた。日本最大手の「遅さ」は海外と競う場合の最大の内なる壁になろう。

一方で、AIを使ってIoTで集めたデータを分析するための未来に向けた投資活動も始まっている。村田製作所は400億円を投資して島根県に電子部品の新工場を建設すると28日の日経が報じた。生産するのは村田が得意とするセラミックコンデンサ。直近ではスマートフォンやクルマ用にノイズ対策や無線通信などにセラミックコンデンサ必要不可欠になる上、今後、AIやIoTを駆使したデジタルトランスフォーメーションが起きると、セラミックコンデンサの需要はどこまで成長するのか、計り知れない。ムラタはそこまで見据えた戦略を持っている。

海外でも後工程OSATの台湾の力成科技が1800億円を投じて、FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)やSiPなどの小型高集積LSIパッケージのための工場を新竹に建設すると26日の日経が伝えている。素早い実行力が未来を勝ち取ることになろう。

(2018/10/01)
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