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Samsung、Note 7スマホの生産中止、発火原因は不明のまま

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韓国SamsungのファブレットGalaxy Note 7の発火事件以来、リコール、返金や新品との交換といった選択肢を提示、交換してもまた発火事故が消えなかった。このことを受け、Samsungは11日、Note 7の生産を中止することを発表した。原因は何だったのだろうか? その解明はこれからだ。

日本経済新聞は10月12日にSamsungがNote 7の生産を打ち切ったことを報じた。14日にはNote 7の販売停止の影響は2016年10月〜2017年3月までの半年で3兆ウォン半ば(3000億円強)に及ぶと発表している。日経は得られるはずの機会損失に加え回収費用などを合わせると7.5兆ウォン(6800億円)になりそうだと見積もっている。

Samsungが生産中止を決める前、Note 7の航空機内への持ち込み禁止などを世界の航空業界が打ち出し、Samsungはリコールによる回収策を素早く打ち出した。米国ではSamsungのGalaxyは、AppleのiPhoneと並んで人気が高くかなり普及している。このため米国当局までも、Samsungのリコールに対して、Note 7の代金支払いか同機種の交換を選択肢としてテレビで放送していた。

米国の有力紙USA Todayは、9月19日に調査会社のSurvey Monkey社が米国人507人からオンライン調査してリコール条件について聞いた(参考資料1)。その結果、返金の希望者35%、iPhone 7との交換の希望26%、Samsungの別機種との交換希望21%だったが、Note 7との交換を希望する人は18%しかいなかった。

Samsungは2社からバッテリを調達しており、この時点では、Samsungの子会社の一つSamsung SDIのバッテリから発火し、香港のAmperex Technology(TDKの子会社になっている)のバッテリは発火しなかった。リコールではNote 7のバッテリを全てAmperex製に交換した。しかし、交換した新しいNote 7からも発火事故が報告され、原因はバッテリではない、という説が出てきた。

10月12日には、EE Timesは、プロセッサがNote 7火災の原因ではないかという記事を載せている。ここでは電池の問題ではないとの立場で、プロセッサを疑っているような見出しを付けているが、その根拠は示されていない。15日の日経では、バッテリ内部のアノードとカソードを分離するためのセパレータ材料に言及しているがこの品質は問題なさそうだ。

バッテリの充電では、最初は急速に80%程度までは大電流で充電しても問題ないが、その後は充電→電荷測定→判定というサイクルを繰り返し、少しずつ電荷を注入していく。バッテリマネジメントのある専門家は、「1升瓶に水をこぼさずに早く入れる技術に似ている」という。リチウムイオン電池では、満充電を絶対に超えてはならないためだ。

満充電とはいっても100%だと電子回路上、危険であるため、マージンを取って95%とか90%を満充電と定義する。このマージンの取り方で使える電池の時間が決まる。バッテリマネジメントの定義と、安全なマージンを取るためのアルゴリズムも重要な技術のカギとなる。精度よく電荷状態を測定できる技術を持っていればこのマージンを狭めて、長期間使えるようにできるが、この電荷を精度よく測定するアルゴリズムにノウハウがあり、バッテリの良し悪しにも大きく影響する。だからこそ、バッテリマネジメント技術も重要な一つだ。

バッテリ構造側から言うと、リチウムイオンバッテリは、アノード電極材料のLiイオンがカソード側へ移動することで外部に電流を流すという原理である。充電はその逆の過程で、カソード側に寄っているLiイオンをアノード電極に戻す作業。両者のショートを防ぐ役割がセパレータで、Liイオンだけを通すポーラスな膜である。これがなければショートする恐れがある。アノード電極には結晶格子にLi原子が元のさやに納まらなければならない。きれいな結晶構造であれば、元に戻りやすいが、そうでなければLiイオンが収まるべき結晶構造における格子サイトが失われ、Liイオンは行き場を失う。電極の持つ電圧は下がり、アノード電極はLi原子が不足してしまう。このため完全に近い結晶構造を保つための製造技術が電池メーカーには求められる。

今回の事故に関しては、Samsungはまだ原因を特定するまでに至っていない。ただし、事故に対するSamsungの対応は早かった。被害をできるだけ最小に食い止めようという姿勢は評価できるだろう。他山の石としてこの問題を捉えたい。


参考資料
1. Samsung Galaxy Note 7 replacements arrive in U.S., but few may want them USA Today (2016/09/20)

(2016/10/17)

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