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IoTはすでに実装のフェーズに

IoTの実装に向けた開発が進んでいる。交通渋滞を解消するため信号機の点滅時間を交通量に応じて変えて最適化する試みや、地震の揺れを数値化したアルゴリズムを組み込んだMEMSセンサなどが登場している。IoT製品を開発するためのプラットフォームツールも入手可能になってきた。

12月11日の日経産業新聞は、NTTデータが英国のImtech Traffic & Infra社と共同で交通渋滞緩和技術に取り組むと報じた。NTTデータはこれまで衛星のGPSを利用した交通シミュレーションによる信号制御技術を持ち、中国吉林市でGPSデータを用いたバス運行のシミュレーション実験を2014年に行ってきた。しかし、GPSだけでは精度が悪い。Imtechは、道路にセンサを設置し、交通量を測定しながらアダプティブに信号を制御するリアルタイム信号制御システム「SCOOT」を実証してきた。しかし、道路にセンサ(IoT)を設置するにはコストがかかりすぎる。

今回、両社の技術を持ち寄って、それぞれのメリットを生かした開発を進めるだけではなく、コンソーシアムも構成する。英国のスマートシティ・イノベーションを推進するInnovate UKファンドを活用し、NTTデータの英国子会社NTT Data UKを軸にコンソーシアムを組み、共同研究を進めていく。コンソーシアムには両社の他にVaisala社、Exeter大学、エクセタ市委員会、デボン郡委員会が参加する。IoTを利用して交通渋滞を緩和するシステムこそが、IoTの産業利用の典型である。NTTのGPS利用システムはローコストで信号機のない交差点でも有効で、Imtechの方法は精度の高い渋滞解消につながる。

オムロンはMEMSを利用した振動センサや転倒センサを開発してきたが、2016年1月に発売する地震センサには演算のアルゴリズムも組み込んでいる、と11日の日刊工業新聞が伝えた。地震の建物への影響を数値化したSI(Spectral Intensity)値の演算アルゴリズムをセンサに組み込んだ。加速度とSI値とはある程度相関はあるが、SI値は応答スペクトルや周期、減衰定数なども含んだ数式で表されるため、加速度だけでは求められない。ただ、SI値と計測震度とは相関が高いという。オムロンはこれにより、震度5強以上の揺れを高精度に判定し、装置や設備の停止タイミングを的確に判定できると日刊工業は報じている。地震センサを組み込んだIoT端末をクラウドで観測しながらビッグデータを蓄積・解析することでさらに地震の精度は高まるであろう。

既に使われている民生用IoTの例として、テニスラケットのグリップ端にセンサを取り付けた商品がソニーから出ている。「Smart Tennis Sensor」と呼ぶこのIoT端末を取り付けたラケットで球を打つと、スイングの種別やボールの速度・回転方向、インパクトした位置や速度を計測する。そのデータをリアルタイムで計測、コーチのタブレットなどでショットごとに確認するという。こういった事例を10日の日経産業が報じた。これらのデータをクラウドに上げ解析すればコーチ無しでも納得のいくスイングや最適なインパクトのとらえ方などテニスの上達につながる。

IoT端末は、基本的にセンサ、アナログ回路、マイコン、送受信機、電源から出来ている。さまざまな顧客が望むデータを取るIoT端末を設計するための開発ツール「Renesas Synergyプラットフォーム」をルネサスエレクトロニクスが提供し始めた。このツールは、動作保証されたソフトウエアパッケージ、マイコン、開発環境、ソリューション、ギャラリーから出来ている。ソフトウエアパッケージは、基本ソフトと追加ソフト、検証ソフトからなり、基本ソフトと追加ソフトはルネサスが提供し、検証ソフトはユビキタス社、図研エルミック、ACCESS社、グレープシステムなどのパートナー企業と共に追加ソフトとして提供する。マイコンにはネット接続機能を持つ新製品S7シリーズを推奨し、デバッガやコンパイラなどの開発ツールももちろん提供する。ソリューションとは製品開発例であり、ハードウエアリファレンスボートを指す。ギャラリーは、ソフトウエアパッケージなどこれらのツールを使うための登録ページであると同時に、登録後は開発環境のライセンス取得やマニュアルなどのサービスも提供する。開発ツールは、製品の用途を広げる上で欠かせない。

(2015/12/14)
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