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東芝の中計、NANDフラッシュを成長のエンジンに据える

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先週の5月22日、東芝が中期計画を発表し、電子デバイスを成長のエンジンに据える方針を明らかにした。電子デバイス事業を2016年度に2.2兆円の規模、CAGR(年平均成長率)が24%に相当するという中期計画を描いている(図1)。

図1 2016年度の稼ぎ頭は電子デバイス ROS (Rate of Sales) は経常利益率 出典:東芝

図1 2016年度の稼ぎ頭は電子デバイス ROS (Rate of Sales) は経常利益率 出典:東芝


東芝の電子デバイス部門は、半導体とHDDから成り立っているが、その中でも際立って成長のエンジンとなっているのがやはりNANDフラッシュ。この事業だけの目標金額や実績を明らかにしていないが、成長の方針は定まった。成長を実現するためには設備投資は不可欠。そのためのアグレッシブな投資をこの1〜2年で行う。14日の日経によると、東芝はSanDiskと共同で合計5000億円を3D NANDフラッシュのために投資する。東芝はこれとは別に、すでに4000億円の投資も決めている、と日経は昨年報じた(参考資料1)。

東芝は微細化と3次元(3D)構造のNANDフラッシュの生産時期をオーバーラップさせる方向で投資していく(図2)。これまでの19nmNANDフラッシュ製品を第2世代の15nmへと微細にし、この4月から生産を開始した。また3D構造のNANDフラッシュは2014年度のサンプル出荷を予定している。


図2 15nmプロセスと3D化2015年度後半にオーバーラップ 出典:東芝

図2 15nmプロセスと3D化2015年度後半にオーバーラップ 出典:東芝


NANDフラッシュに重点を置くのは、その市場がさらに大きく成長しそうだからだ。NANDフラッシュは当初、携帯電話のストレージから始まり、デジタルカメラのストレージ、最近ではスマートフォンやタブレットのストレージに大量に出荷されている。これからはSSDへの応用が本格化すると見込んでいる。すでにIBMはSSDへ1000億円規模の投資を昨年春に発表している(参考資料2)。東芝はHDD部門も持っているため、SSDの市場や顧客に対してHDDのビジネス顧客基盤を最大限に活用する、と代表執行役社長の田中久雄氏は述べている。

NANDフラッシュでは、3D NAND向けの設備を大きく変えなければならない。これまでのプレーナ型のメモリセルで用いられてきたポリシリコンのフローティングゲート構造ではなく、シリコン窒化膜を利用する構造へと変換する。このためのCVD、エッチャーだけではなく、スパッタやメッキ、CMPなど3D構造専用の設備が必要になる。今夏竣工予定の四日市工場のY5棟第2フェーズで15nmラインの量産を立ち上げた後、Y4、Y3棟の既存の生産棟と連携して投資額を削減できるように、新規にN-Y2棟をY3棟に隣設する。N-Y2棟は3D専用工程の補助棟となるとしている。2015年夏に竣工する予定だ。ここに次世代露光装置、成膜、エッチングなどの最先端装置を順次導入していく。2015年後半ごろが3D構造への移行時期になるという。


東芝がNANDフラッシュを軸に成長戦略を立てたもう一つの背景には、2013年度(2014年3月期決算)に電子デバイスグループの売上高が、2012年度の1兆2866億円から、31.6%増の1兆6934億円と急成長したことがある。営業利益は、前年度の977億円から13年度には2385億円となった。営業利益率は14%と2ケタ台に伸びた。なお、半導体事業で、ディスクリートとシステムLSIも黒字体質へ変えると田中社長は述べたが、その道筋は示さなかった。

東芝の不安要素は、NANDフラッシュの大手ユーザーが社内にいないことだ。スマホやタブレットの大手はAppleやSamsungであり、SSDを利用する大手ITベンダーも社外にいる。22日の経営説明会では、電子デバイス事業の他に、電力・社会インフラ事業、コミュニティ・ソリューション事業、ヘルスケア事業、ライフスタイル事業についても話があった。しかし、これらの事業分野とNANDフラッシュの市場とがかみ合っていない。図1に示すように営業利益が最大になる事業は電子デバイスと設定しているが、将来、電子デバイス事業の設備を投資する場合には、外部顧客とメガトレンドを見据えることは不可欠である。

参考資料
1. サムスン、3次元縦構造NANDフラッシュ量産開始を発表 (2013/08/12)
2. IBM、フラッシュストレージの新規開発に10億ドルを投資、東芝はどう出る? (2013/04/17)

(2014/05/26)

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