ジェイデバイスの攻勢と、富士通・パナ統合のニュースを考える
先週、ルネサスは後工程3工場をジェイデバイスに売却することで合意したというニュースを発表した。続いて富士通とパナソニックの半導体事業を統合するというニュースが2月1日に報道された。
ルネサスエレクトロニクスは、設計のRTLプログラミングから、製造の前工程、後工程まで自前の工場を持ってきたが、この垂直統合モデルは世界の半導体ビジネスとは大きく異なる。世界はファブレスとファウンドリに分かれている。特に製造はファウンドリに特化することで、さまざまな企業からの注文を受け工場を維持・稼働させるというビジネスモデルへと変わってきた。1社で設計・製造を維持・稼働させるためにはメモリのような数量の多い品種を生産するしかない。後工程は台湾を中心に専門のコントラクタ(ファウンドリ)が存在感を増している。
大分県に本社を置くジェイデバイスは、もともとアムコアと東芝が出資した仲谷マイクロデバイスを母体とし、代表取締役社長の仲谷善文氏も60%出資する後工程ファウンドリ企業である。昨年、富士通セミコンダクターの宮城と会津、鹿児島県川内にある富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジを買収した。今回はジェイデバイスが後工程のファウンドリ事業を積極的に進める一環として、ルネサスの後工程工場を買うことになった。ルネサスは工場を処分する方向でリストラを進めてきたが、今回、ジェイデバイスへの売却が決まった。これにより、ジェイデバイスは後工程ファウンドリとして単純計算でトップ5位に入る見込みになり、ルネサスを顧客として獲得したことになる。
ルネサスが手放すのは、100%子会社であるルネサス北日本セミコンダクタ(北セミ)の函館工場、ルネサス関西セミコンダクタの福井工場、そしてルネサス九州セミコンダクタの熊本工場、北セミの100%子会社である北海電子の4社4工場。ルネサスは、2月末に最終契約を締結し6月上旬に譲渡する予定である。1月31日付け日本経済新聞北海道版には、地元函館の自治体や経済関係者の安堵の声を伝えている。早期退職した従業員100人のうち89人がハローワークに求職したが再就職が決まったのはわずか4人だという。同じく日経北陸版でも300人強が福井工場を早期退職したが再就職が決まったのは39人にとどまっているとしている。
2月1日の日経夕刊では、富士通とパナソニックの半導体事業統合を伝え、翌2日の朝刊は、システムLSI事業の統合に向け、設計・開発に特化する新会社を2013年度中に設立すると報じた。1月30日の日刊工業新聞は、ルネサスと富士通、パナソニックのLSI事業統合において、先端工場の売却交渉が暗礁に乗り上げていると伝えていた。これら3社の事業統合は1年前からも伝えられてきたが、3社の現場からは絶対にうまくいかないスキームと指摘され続けていると日刊工業は述べていた。
2日の日経は、ルネサスにしびれを切らし、2社だけで先行統合する見通しとなった、と伝えている。この新会社はファブレスのようだが、なぜ2社を統合させるのか、そのメリットについては新聞記事からは見えてこない。今回の話は、1社だけのためには動かないが複数社まとまるなら協力するという霞が関の影が見え隠れする。霞が関が政府系ファンドの投資先を見つけてくれるのではないだろうか。
富士通は画像処理LSIが得意で、それを生かしたカーエレクトロニクスに最近力を入れている。日経は、パナソニックは家電を効率制御する技術が豊富だ、と述べているが、効率制御するための半導体として富士通はARM Cortex-Mシリーズをコアとする制御用マイコンにも力を入れている。富士通セミコンダクターにとって、パナソニックと組むメリットが何なのか、やはり見えない。
ルネサスはスマートフォン向けの製品は統合新会社に売却する方向で継続協議する、と日経が報じているが、これもメリットが見えない。ルネサスはノキアと合弁で設立したルネサスモバイルを持つ。この合弁会社はスマホ向けのモデムチップのデザインインを進めており、特に海外比率が7〜8割と極めて高い。世界のデザイン拠点がフィンランドだけではなく米国、インドにもあり、社内公用語が英語という文字通りグローバル企業である。このルネサスモバイルが、日本的な富士通・パナソニック連合と組むとどうなるか。ルネサスモバイルの現場はうまくいくと考えるだろうか。