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ルネ・富士通・パナの半導体連合ニュースから今の半導体産業を分析する

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今年になって前向きの明るいニュースが日本からあまり出ていない。先々週は、民生家電メーカーの赤字見通しが発表され、工場閉鎖のニュースも出ている。先週は、ルネサス・富士通・パナソニック3社の半導体事業統合が報じられ、この件そのものに関しては速報性を重視してブログ(参考資料1)に掲載させていただいた。

この統合話は、日本経済新聞が2月8日に報じたのに続き、日刊工業新聞も10日に報じた。日経は日経産業と共に9日にも同様に報じた上に、日刊工業も日経の記事内容を否定しなかった。この統合話は、ほぼ事実であろう。半導体業界の人たちは、日本の活力低下を一様に嘆いている。問題は多く、DRAM成功体験を引きずっている、マーケティング力がない、技術一辺倒、垂直統合へのこだわり、国内市場重視、経営判断が遅すぎるなどなど。そのような中で、今回の統合の話が出てきた。

しかし半導体業界の常識から見てその内容には疑問点が多く、この話が業界の同意を元に語られているとは思えない。このまま3社連合が成功するだろうか。3社連合=誰も責任を取らない、という図式がこれまでと変わらないからだ。日産自動車の復活は、作成したサバイバルプランを1年で実行できないのなら社長を辞める、と最初に社員に覚悟を示したことが最大のモチベーションとなっている。かつてエルピーダを再建した社長も同様に、親会社2社が投資しないのなら自分で出資先を見つけてくる、と経営者としての手本を示した。共に社長が覚悟を示し、自分ができることを社員に見せつけたことが社員の気持ちを引きつけた。いわゆる「サラリーマン社長」ではできないことだ。

米国がかつて、弱まった半導体産業を90年代に復活させた原動力も、各社が各社のアタマで戦略を立て、生きるべき道を自分で見つけたことによる。2000年代に米国を取材してはっきりわかったことは、連合を組み復活した訳では決してないということだった。各社がそれぞれ独自に生きる道を見つけたことが復活につながった。パソコン用プロセッサに特化することを決めたインテル、日本並みの高品質を追求したサイプレス、アナログに特化したTIやナショナルセミコンダクタ、コモンプラットフォームというサービス提供でプロセス資産を生かしたIBMなど、どのメーカーを取材しても、連合を組んだことを復活の理由に上げた企業は1社もなかった。ナショセミの元CEOのチャールズ・スポーク氏は、日本がDRAMで席巻してくれたおかげで、自分の会社を真摯に見つめ直すことができた、と2001年のElectronic Business誌で語っていた。

このことを今の日本の半導体メーカーに当てはめるとどうなるか。各半導体メーカーが自分で自分の道を見つけることに尽きる。なぜ今これができないか。理由の一つは親会社が支配しているからだ。今の国内半導体メーカーが独自の道を歩むとしたら、人事権を握る親会社が半導体メーカーの社長を解任する可能性がある。これでは独自改革はできない。親会社からの独立を果たすことが、最初にやらなければならないことだと思う。シーメンスから独立したインフィニオンでは親会社の持ち株は10%程度、フィリップスから独立したNXPではそれは2年前に0%になった。インフィニオンは自らリストラを実行すると共に市場に向いた成長戦略を打ち立て、インテルに売却した通信部門以外の売り上げは昨年2ケタ成長を遂げたという。NXPはNFC通信でナンバーワンの地位を目指している。経済産業省が民間企業を手助けするのであれば、数社連合を組むという昔からの方策ではなく、親離れが成功するように法整備などのビジネスインフラを支援すべきだろう。やはり国を豊かにするためには、「民間企業が自分の責任で自由にビジネスできる社会の創出」というサッチャー理念が必要ではないだろうか。

2000年代前半から中ごろにかけてNXPやアバゴ(HPの半導体部門)が親会社からの独立を果たした直後に取材した時、両社とも「これから大変になるが、やりがいをとても感じる」と意欲的だった。独立することで、資金は自分で集めなければならないし、全ての責任は新経営陣にかかってくるわけだから気を引き締めていた。しかし、そのことよりも自分で好きなように会社の成長に舵を切れる、という晴々とした様子の方が先立ち、取材した社員はみんな興奮していた。

NTTドコモが総合電機メーカー(半導体メーカーの親会社)数社と手を組み、ファブレス半導体の会社を設立すると昨年暮れに発表した時に、このグループの中からルネサスを排除した。これは制裁という意味もあると業界では言われている。というのはルネサスがノキアと手を組み、LTEのファブレス会社、ルネサスモバイルをすでに設立していたからだ。日本にはまだこのような古臭い体質の企業が多い。こういった『上から目線』では決して世界企業とのコラボはできない。コラボは、差別意識を排除し、互いを認め合い、尊敬し合うことが大前提だからである(参考資料2)。垂直統合から水平分業へと口で言っても、意識が『上から目線』では、水平分業は絶対に達成できない。この意識の壁を突破することも新しいグローバル化時代にふさわしい企業に変わることにつながる。

参考資料
1. 「企業は人なり」を忘れるな、半導体業界再編の重要な視点を再認識せよ (2012/02/08)
2. コラボの基本、パートナーシップを成功させるには日本企業の意識改革が必要 (2011/08/02)

(2012/02/13)

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