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コラボの基本、パートナーシップを成功させるには日本企業の意識改革が必要

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最近、パートナーシップ、コラボレーション、水平分業、アライアンス、エコシステム、といった言葉がこの業界で飛び交うようになってきた。しかし、コラボレーションやパートナーシップを本当に実行するためには高い「意識の壁」があるように思える。これらの言葉は、完全に差別を排除するという気持ちがなければ実現できないことを指摘しておく。

図1 コラボ作りは対等なパートナーシップという意識がマスト

図1 コラボ作りは対等なパートナーシップという意識がマスト


かつて日本のものづくり産業には、大企業があり、その下に1次下請け、さらに2次下請け、時には3次下請け、という構造を持っていた(図1)。最近でこそ、この構造が崩れつつあるが、いまでもこの構造を維持している企業はまだまだ多い。しかし、このような構造に慣れきっていると、コラボレーションとかパートナーシップといった関係を構築することは極めて難しい。例えば、経済産業省の一つの指針として「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」がある。これは企業が適正に下請けを使っているかをチェックするためのガイドラインである。しかし待てよ、なぜ「下請」という言葉を使うのか。そこには「上から目線」の意識が潜在的に潜んでいるからに他ならない。企業によっては下請と思わずパートナーと思っている企業もあるだろう。にもかかわらず、企業と何らかの取引しているサプライチェーンの上流の企業を下請けと呼ぶのである。霞が関がこの意識だと日本にはまだまだ差別意識が根強いといえる。

かつて日本経済新聞社の法務部門の方のレクチャーを聴いたことがある。その講師は「差別は意識の深い所にあるものです。差別化を差異化と言葉を言い換えても意識が変わらなければ、意味はありません」と述べていた。メディアによっては製品の差別化という言葉を差異化にわざわざ言い替えている所もあるが、それは単なる上っ面の言葉にすぎない。これではいつまでたっても弱者を傷付ける記事を書いてしまう。

私のような技術ジャーナリストは差別用語に気を付けている。言葉を置き替えるのではなく、言葉が誰かを傷つけているかどうか、で判断する。マスター・スレーブ方式という言葉は日本語で言えば「主人と奴隷」方式という意味である。祖先が奴隷だった人たちはこの言葉を不快に思うはずだ。だからこそ、親機、子機あるいは親回路、子回路という呼び名を使うように心がけている。

ジャーナリストだけではなく世の中が気をつけなければならないのは、誰とも平等につきあうという意識を持たなければ誰かを傷つけてしまう、ということだ。セクハラはとんでもないが、上司が部下を怒鳴り付けるようなパワーハラスメントも上から目線の意識である。米国の企業ではたとえ誰であろうとオフィス内において大声で怒鳴ると即、クビになる。お互いに相手を尊重し合うという意識こそが重要になる。パートナーシップをうまくやるためには、この意識を持つことだ。

米国はかつて男女差別、人種差別などが横行していたからこそ、ここ20〜30年に渡って差別しない、人類はみんな同じ、という教育を継続してきた。企業も差別しないように気をつけてきた。お互いに尊敬し合う。リスペクト(respect; 尊敬)という言葉を米国企業の経営トップはよく使う。

しかし、日本では男女差別の意識がまだ非常に強い。日経ビジネスが7月26日にWebに掲載した、「なでしこ報道で露呈した “ニッポン”の未熟な女性観」という記事は、まさに的を得ていた。日本のマスコミは女子サッカーのワールドカップで優勝した日本チームの選手たちに、プレイの素晴らしさ、プロ意識としての心がけ、モチベーションの保ち方、などを聞くのではなく、「彼氏はいるの」、「結婚はしないの」といった質問をしたという。男が女性を差別する視点で見ていることを痛烈に批判した記事だ。男のサッカー選手には「結婚しないの」「彼女はいるの」といった質問を浴びせないことはまさに古臭い男の見方にしかすぎない。日本のマスコミのレベルはこの程度の意識で男女差別意識がまだまだ根強いことを物語っている。

海外の企業で成功しているところは、水平分業というやり方を意識するのではなくて、プロジェクト方式でお互いがそれぞれの強みを持ち寄って、それぞれの得意な分野の技術を提供するという方法を熟知している。これがコラボであり、結果的に水平分業になっている。参加する企業はどの国の企業でもかまわない。グローバルな相手はそれぞれ世界トップの技術を持っているところが多い。日本の企業同士で世界レベルの技術(ハード、ソフト、サービスなど)を持っているところを探すのは難しいが、相手を世界中に広げればいくらでも見つかる。

海外企業と組む場合はなおさら、相手の文化や技術を尊重し、認め合い、さらに相手と一緒に対等な立場で仕事に取り組むことが求められる。日本企業がいろいろな分野で世界レベルの企業同士で仕事することは極めて大きな力になる。それを上から目線でアジア企業を見たり、欧米企業には自虐的にへりくだったり、してはならない。どこの国であっても尊敬の念を忘れず接すると同時に、自社の強みに誇りを持つことがコラボを成功させる第一歩である。

(2011/08/02)

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