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「企業は人なり」を忘れるな、半導体業界再編の重要な視点を再認識せよ

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「ルネサス・富士通・パナソニック、半導体事業統合交渉」と題した記事が2月8日付け日本経済新聞の1面トップに掲載された。3社が統合し、設計会社と製造会社に分けるという再編のシナリオだ。半導体産業の人たちは、このシナリオで半導体産業の再生が可能だと思うだろうか。

このニュースで疑問を覚えたことは、設計と製造を分離させるのなら、なぜ3社を統合するのか、という点だ。世界の半導体の潮流は、確かに設計と製造への分離へと向かっている。だったら、各社で設計と製造が分かれればよい話だろう。なぜ、3社が統合しなければならないのか。ここに霞が関の気配を感じる。EE Times日本版は、「この青写真には経済産業省の官僚の“指紋”がべったりと付いている」と表現している。

霞が関は民間企業1社のためには決して働かないことをモットーとしてきた。複数社集まれば補助金なり資金集めなり業界指導なりに動くことがある。その際には、天下り先の確保が暗黙の条件となっている。こういった見返りと交換に「業界指導」を行う。戦後一貫してこういった古い体質が染みついている。

しかし、半導体やICTなど経営判断のスピードが求められる世界ではこういった古い考えは全くそぐわない。霞が関だけではない。大手企業もまた、経営スピードに関して鈍感である。パナソニックが三洋電機を買収・合併させた時、大坪社長は経営判断を素早くするためと述べている。しかし、企業を巨大にさせて経営判断を速めたという実例を私は知らない。かつて台湾エイサーのスタン・シー会長に、すでに1万人以上の企業に成長したエイサーはどうやって経営判断を速めているのかを聞いたことがある。彼は、会社を分社化し、子会社トップに予算権限を与えすべて彼らの責任で運営してもらうことで、迅速な経営判断を可能にしている、と答えた。自分は取締役会会長としてレポートを受けるだけであり、経営に口を出さない、と続けた。この回答に納得した。

だからこそ、大坪社長が述べられた経営スピードは理解できなかった。今回大きな赤字を出し、リストラをさらに加速しようとしている。パナソニックはこれまでもリストラに次ぐリストラを繰り返してきたため、社員のモチベーションは下がる一方だった。これでは業績を上げることはできない。企業は人だからである。

かつて「Uniphier」という民生用システムLSIの共通プラットフォームを部門リーダーの古池進氏が打ち立てた時、パナソニックの半導体には勢いがあった。これは共通機能の多いチップであり、ASSPとしても取り扱えるという素晴らしいチップだった。このリーダーを失ったパナソニックの半導体にはもはやその面影はない。リストラを数年に渡り行ってきたパナソニックにとって半導体工場の譲渡は願ってもないチャンスと映るだろう。

今回の構想でよくわからないのはGlobal Foundriesの役割だ。国内には優秀なプロセス技術者が多いことは何度も述べてきたが、3社を統合させる必要性やメリットがGFにとってあるとは思えない。GFが日本のプロセス工場を欲しいのなら、どのメーカーのどこの工場が欲しい、と指定すればすむことだからだ。なぜGFの名前が出てきたのか、日本のプロセス工場を買う可能性のある企業はGFだけとは限らない。すでにタワージャズは西脇市のマイクロンの工場を買った。

もう一つわからないのは、成長戦略とも言うべき、何を価値として統合会社はビジネスを行うのか、何も見えないことだ。技術や製品の価値を明確にせず、システムLSIをやると言っている限り100%失敗することはこれまで学んできたはず。誰を想定顧客としてその顧客にとってどのような価値を与えることができるのか。ここが最大の、しかも成長するのに大事な考え方だ。今のところ、この考えは日経の記事からは何も出てこない。だから、3社連合でなぜ成長できるのか、どうやって成長するのか、そのポジショニングも出来ていなければ、成長戦略もない。これでは全く心もとない。

結局、今回の統合劇もShot-gun wedding(親同士が勝手に決めた結婚)になり、その結果はこれまでと変わらないものになる恐れは十二分にある。

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