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ムラタがMEMSのVTIを買収、またも京都の企業が外国企業を買う傾向強まる

セミコンポータルが今年の5月17日に紹介した(参考資料1)、フィンランドのMEMSメーカーVTI Technologies社を村田製作所が買収した、というニュースが衝撃的だった。2009年の4月に最初に紹介したVTIとKionixの内(参考資料2)、Kionixをロームが買収、今回はムラタが買収した。面白そうな企業は京都の企業が買収する傾向がある。

10月12日の日本経済新聞と日経産業新聞によると、ムラタはVTI社の経営陣らから全株式を1億9500万ユーロ(約200億円)で譲り受ける契約を結んだ。VTIはかつてのASIC会社のVLSI Technologyとは全く無縁のフィンランド企業であり、MEMSに注力している。VTIは、MEMS技術を利用した加速度センサーやジャイロセンサー、共振器などを製品として持ち、これまで自動車用や医用圧力センサーなどの市場に強かったが、これからはスマートフォンやゲームなどの民生用にも力を入れていきたいと5月の時点で語っていた。

一方のムラタは、コンデンサ技術を生かした圧電セラミックスを持ち、圧電素子や焦電素子を使ったセンサーを手掛けてきた。主力のコンデンサはスマートフォンに使われ、そのコンデンサを通じてアップルや韓国サムスン電子と密接な関係を築いていると言われている。ムラタは成長が期待される分野には着実に参入し、スマホやカーエレクトロニクス、スマートグリッド(スマートホーム)などにセンサー需要が大きいと見ている。ムラタはパッシブ部品が得意なものの、アクティブなMEMSは持っていなかった。アクティブなMEMSデバイスの方がセンサーとしての感度は高い。

今回ムラタはVTIを手に入れることでこれからのスマホやタブレットをはじめとする成長分野でMEMSセンサーをコンデンサと共にユーザーに提案していくことができる。いわばソリューション提案が可能になる。MEMS技術を手に入れるということはCMOS集積回路も手に入るため新しく半導体産業に自然と入り込むことができるようになる。ムラタはこれまでもセンサー信号をジェスチャーに対応するためのアルゴリズムの開発を自社で手掛けてきており、MEMS信号をジェスチャーに対応させるためのアルゴリズムの開発も得意とする。いわばシステムLSIの世界に食い込む技術を持ち合わせているという訳だ。いつムラタが半導体産業に参入してもおかしくない状況が出てきている。

すでにムラタはルネサスからも送信回路技術を手に入れたため、スマホやカーエレ、ヘルスケアなど成長分野に必要なワイヤレス技術を揃えていることになる。ムラタはワイヤレス回路に必要な高感度の共振器をMEMSで作る技術も手に入れられるため、今後の成長に向けた有力企業としての準備を着々と整えているといえよう。

もう一つのニュースは、タイの大洪水による半導体産業への影響である。タイは、進出した外国企業の中で日本企業の数が最も多い国だけに、日本企業の現地子会社の影響が気にかかる。これまでのところ、半導体関連では、東芝の半導体組み立て工場、リードフレームの三井ハイテック、フラックスやバリ取り洗浄のリックス、樹脂モールドやリードフレームのアピックヤマダなどの工場自体は浸水被害を受けていないが、操業停止に追い込まれているという。山坂の多い日本とは違い、緩やかな地形の多いタイでは水が引けるまでに時間がかかり、ビジネスへの影響が懸念される。

ここ最近の景気後退はとうとうDRAMの低迷という事態にまで発展してきた。エルピーダメモリが2011年4~9月期の連結最終損益が570億円の赤字になったと発表した。DRAMのメモリ容量はもはや鈍化傾向にあり、大量生産としてのDRAM市場は鈍化傾向にある。DRAMだけに特化してきたエルピーダはここにきていよいよ正念場を迎えることになる。NORフラッシュなどの不揮発性メモリへ展開するか、需要が依然として旺盛なNANDフラッシュへ行くか、あるいはシステムLSI向けのファウンドリビジネスを強化するか、少量多品種のDRAMに変身するか、素早い決断が求められている。残された猶予は少ない。

一方、明るい話題として、東芝とルネサスからそれぞれ自動車用画像処理SoCが発表された。自動車の安全性を高めるためのナイトビジョンや白線認識などカメラからの映像を素早く処理するためのLSIである。カメラの数が4台以上カバーできると、日産自動車のエルグランドに搭載されているアラウンドビューモニター機能を実現できるようになる。すなわちクルマの四隅にカメラを設け、それを1点で結ぶような角度に調整することで、自分のクルマをまるで上から見下ろすかのように画像処理して画面に映し出す機能だ。クルマ用の半導体は特に欧州で盛んだが、米国でも遅ればせながらカーエレクトロニクスを強化し始めたため、海外市場を狙えば成長できるチャンスは大きい。

参考資料
1. MEMS特集:ファウンドリ、ファブライトに集中して製品群を広げるIMT、VTI (2011/05/17)
2. これからのMEMSデバイスは信号処理ICと賢いアルゴリズムが付加価値をもたらす (2009/04/01)

(2011/10/17)
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