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スティーブ・ジョブズ氏が残してくれた、ビジネス成長への示唆

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先週のビッグニュースは、なんといっても米アップル社会長で元CEOのスティーブ・ジョブズ氏の逝去である。彼の社会に与えた影響はあまりにも大きい。超薄型パソコン、音楽プレイヤー、スマートフォン、タブレットなど、革命者といっても良いくらい私たちの生活を変えた。彼の死後、社会はどのようになるか、想像しにくい。

写真 若き日のスティーブ・ジョブズ氏(右)、スティーブ・ウォズニアック氏(左)と共にアップルコンピュータを設立した  出典:Apple社

写真 若き日のスティーブ・ジョブズ氏(右)、スティーブ・ウォズニアック氏(左)と共にアップルコンピュータを設立した 出典:Apple社


まずはアップルの取締役会の言葉がプレスリリースに流された。それを紹介する;

私たちは、本日スティーブ・ジョブズ氏がご逝去されたことを深い悲しみの中でお伝えしなければなりません。スティーブの聡明さと情熱とエネルギーが、数え切れないイノベーションを生み出しました。そのイノベーションは私たちの生活を十分豊かにし、向上してくれました。スティーブのおかげで世の中は計り知れないほど便利になりました。彼の大きな愛は、妻であるローレインと家族に向けられていました。私たちの気持ちは彼の家族に向かい、また彼の素晴らしい才能に触れられた全ての人たちに向けていきます。

スティーブが残したメッセージや時代の流れの中から、半導体産業にとってこれから成長していくためのヒントが隠されている。それを指摘したい。

最初のパソコン、マッキントッシュは、二人のスティーブ(写真)がゼロックスのPARC(パロアルト研究所)を訪問し、アラン・ケイ博士が考えた使いやすいパーソナルコンピュータ「ダイナブック」の話を聞いて生まれた。アラン・ケイ氏は、プルダウンメニューからなるGUIとマウスを考案、誰でも使える「メディア」としてのパソコンという概念を生み出した。これを具現化したのが二人のスティーブである。特に、ウォズニアック氏はハードウエア技術の天才であり、ジョブズ氏ももちろん技術のバックグラウンドを持っているが、営業・マーケティングの天才である。二人が協力して作ったマックには、音楽メロディも加わっており、アラン・ケイ博士が自分はミュージシャンだから音楽をパソコンに採り入れることは当たり前と10年ほど前に取材した時に語っていた言葉通りだった。

ジョブズ氏はその後、経営陣からアップル社を追いだされるという不幸な目にあったものの、ジョブズ氏のいないアップルの業績は落ちていく一方だったため、1997年に呼び戻された。その後、ヒット商品を飛ばしアップルを再生させたことは周知のとおりである。

iPod、iPhone、iPadが出てきた時、日本のエレクトロニクス業界の反応はイマイチだった。その重大なインパクトを全く理解していなかったからだ。iPodが出る前からMP3プレイヤーはあったが、どれもこれも鳴かず飛ばず。iPodがビッグヒットし、それまでのポータブルCDプレイヤーやMDプレイヤーなどは拭き飛んでしまい、MP3プレイヤーは息を吹き返した。iPodはデザイン性や、iTunesという新しいビジネスモデルという点でこれまでにない新規性を持っていた。iPhoneが出てきた時に初めてスマートフォンという言葉が生まれた。それまで北米ではブラックベリーが新型携帯として数年間企業の間で注目され、営業ツールにも広く使われていたが、スマートフォンとは言われなかった。そしてiPadが出てきてタブレットPCという言葉が生まれた。

これらの新商品に共通するものは、「楽しさ」と「わかりやすさ」である。これまで仕事中心のPCにはない人間味あふれた商品である。CEATEC初日の講演でインテル社の吉田和正社長が、これからの電子機器には人間的な「思いやり」が必要だ、と述べたこと(参考資料1)と共通する。ハードウエアとしては、2本指のタッチセンサーとジェスチャーで機能を表現するといったタッチセンサーコントローラ(X,Y方向に沿ってスキャンしながら複数指の動きを検出)を開発した。それまでのタッチスクリーンは1本指であり単なるボタン代わりにすぎなかった。

任天堂のWiiが登場した時も「楽しさ」を感じた。この楽しさを表現するハードウエアがMEMSの3軸加速度センサやジャイロセンサであり、ソフトウエアが楽しさの表現と電気信号をつなぐアルゴリズムである。このことを2年前の電子通信情報学会で講演した時にも述べた(参考資料2)が、首を傾げられた方もおられた。しかし、ジョブズとのインタビュー映像をテレビで先日見て、彼は10年も前からこの楽しさを強調していた。「わかりやすさ」についても、取扱説明書が要らない電子機器としては画期的なことだろう。不明な点はヘルプ機能で対応できるからだ。

スティーブ・ジョブズ氏の魂や思いを引き継ぐことこそ、次のヒット商品となり、そのカギとなる半導体製品のビジネスが成長できる道ではないだろうか。ご冥福をお祈りします。

参考資料
1. CEATECでわかった、半導体ビジネスのこれからのあるべき姿 (2011/10/07)
2. MEMSとCMOSの融合議論を楽しめた電子情報通信学会シンポジウム (2009/09/24)

(2011/10/11)

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