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MEMSとCMOSの融合議論を楽しめた電子通信情報学会シンポジウム

20年ぶり、30年ぶりだろうか、電子情報通信学会で講演するのは。大学を卒業してメーカーに入り、まだ半導体のエンジニアだった頃、北海道大学で開かれたこの学会、当時は「情報」がなく電子通信学会と称していた時に高周波MOSトランジスタのノイズの問題を発表した。今回新潟大学で開かれたこの学会で、「More than Mooreを実現するMEMS融合LSI技術」と題したシンポジウムでお話しさせていただいた。

私が行ったのは、「More than Mooreを目指したビジネス展開」と題して最近の半導体ビジネスの大きなトレンドと、そのトレンドの下でのMEMSの世界的なトレンドについてである。セミコンポータル会員の方々はすでに、「これからのMEMSデバイスは信号処理ICと賢いアルゴリズムが付加価値をもたらす」「MEMSモーションセンサーを利用、12個のコマンドをプログラムできるASIC」などでMEMSを使った新しい応用について紹介した。

このシンポジウムでは、MEMSとCMOSとの融合、あるいは集積化がテーマであり、若い学者がMEMSについて熱心に耳を傾けておられるのに深く感銘を受けた。MEMSとCMOSとの違いや対立を議論することで新しいアナロジーや新しい視点が生まれてくる。例えば、このシンポジウムをオーガナイズされた東京工業大学の益一哉教授は、MEMSは微小な機械であり、機械工学から生まれ、古典力学的であり、取り扱う経済産業省の中でも産業機械課である一方、CMOSは電子工学から生まれ、量子力学的な半導体であり、経産省は情報通信機器課であるとした。

機械的と電子的を融合するわけだから、一緒になりにくい技術の融合ということになる。ただし、共通しているのはシリコンを使った加工技術という点である。シリコンを電子が流れる半導体としてではなく、原子が共有結合している単結晶材料をエッチングやデポジション、リソグラフィなどの加工を通して機械的な形状を作り出す。材料がシリコンであり、加工技術がシリコンプロセスである。ここが半導体技術と融合する原点となる。

1980年代中頃、私が日経エレクトロニクスの記者時代に、シリコン圧力センサーに関する10ページ程度の解説記事を取材・執筆した。機械計測器メーカーの方は、これまで使っていた金属材料の歪ゲージと比べてシリコンは機械的に強い、とおっしゃっていた。金属材料だと何度も折り曲げを繰り返すと金属疲労を起こし、最終的にはポロっと切れてしまうが、シリコンは何度曲げてもびくともしない、丈夫だなあと感心しておられた。だからシリコンの歪ゲージに替えるのだそうだ。

シリコンが機械的に強い材料だなんて、半導体エンジニアは知らない。金属の機械部品は同じように十年以上使っていると必ず金属疲労で劣化する。自動車エンジニアに取材したときは金属の機械部品をできるだけシリコンに置き換えたい、とおっしゃっていた。だから今、カーエレクトロニクスへと向かっているのである。ハンドル操作でさえ、ステアリング・バイ・ワイヤーという、配線とモーター、半導体で自動車の方向を自在に操作できる制御技術がすでにある。

シリコンの機械的に強い特性と、電子の流れをオン/オフできる半導体の性質を一緒に利用するのがMEMSとCMOSとの融合だ。加工技術とシリコン材料という共通点はあるものの、もう少し詳細にみると違いは大きい。CMOSは今や65nmあるいは45nmという商品がある一方で、MEMSは1μm(1000nm)程度を加工する。リソグラフィ、エッチング技術はあまりにも違いは大きい。歩留まり良くMEMSセンサーとCMOS信号処理回路を同時に作ることは難しい。

回路線幅が0.35μm程度までなら1チップに集積する意味はあるだろうが、45nmCMOSだと別チップで作りSiPパッケージに入れる、というのが常識的な考えだ。45nmCMOSとMEMSセンサーを無理に1チップに集積することの価値がどれほどあろうか。もちろんはっきりとした価値があるのであれば無理にでも集積化すべきだろう。むしろ、今やアップル社のiPhone 3GSや任天堂のWiiに使われるMEMS加速度センサーのヒット商品の価値を考えると、MEMSからのセンサー信号をどう扱うか、どういうアルゴリズムで楽しさを表現するか、に大きな価値があるのではないか。だからMEMSと信号処理アルゴリズムとは切り離せない。私の講演の結論はこれである。

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