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東芝四日市工場の瞬時停電から学び、アドバンの前向き戦略を高く評価する

先週は、アドバンテストが米国のLSIテスターメーカーのヴェリジー社の買収提案を行ったというビッグニュースがあった8日、シリコンウェーハメーカーであるSUMCOの赤字幅が2009年よりも拡大した、というニュースが話題を呼んだ。10日には東芝の四日市工場で瞬時停電による影響でプロセスが止まるという大騒ぎがあり騒がしい1週間だった。

東芝の四日市工場は、世界第2位という東芝NANDフラッシュメモリーの生産工場である。落ちた電力の期間がわずか0.07秒という短い時間であったが、電圧が半分にまで下がり、その分のエネルギーをカバーしきれなかった、と10日の日本経済新聞は報じている。2011年1〜2月におけるフラッシュメモリーの生産量が最悪の場合、20%くらい低下すると懸念されているが、10日にはライン稼働の回復のメドが立つとしている。

新聞報道で読む限り、NAS電池やバックアップ電池は働かなかったのだろうか、という疑問がある。電圧がたとえ半分に低下したとしても、時間が0.07秒なら電力量をカバーできるような気がする。しかし、電圧低下分の電力を補えなかったということは、たとえ電池を備えていたとしても電池の応答速度が間に合わなかったということなのだろう。ということは、高速キャパシタと制御回路が必要だということになる。しかし工場全体をカバーできるほど大容量・高耐圧の高速キャパシタや電池の実現はそう簡単ではない。

逆にUPSのような無停止電源は工場全体の電源を補えないだろうから、装置ごとに設置せざるを得ないことになる。特にプラズマ装置は瞬停を嫌う。プラズマプロセスが複雑に変わり、ウェーハ歩留まりの低下が大きく懸念される。このため装置ごとにUPSを付けるなら、プラズマ装置から導入されるだろうが、もしそうなるとUPSに使うIGBTなどのパワートランジスタに大きな市場が開けてくることになる。しかし、UPSを設置するリスクをとるためのコストが上がってしまう。

今回のような事件を工場単位で対策を打つとすればコスト高になり競争力で負けてしまう危険性がある。逆に国際競争力で負けないようにするためには、こういった瞬停に対するソリューションとして、やはりマイクログリッドやスマートグリッドのような仕組みが求められることになろう。ここには国家からの国際競争力に見合った援助がマイクログリッド作りに必要となるかもしれない。マイクログリッドは半導体ビジネスにとっては巨大なマーケットになるが、瞬停を嫌う全ての工場で利用される可能性はある。

テスターメーカーのアドバンテストが米国のシステムLSIテスターメーカーであるヴェリジー社に対して買収を提案した、と12月8日の日本経済新聞が伝えた。ヴェリジーは、1999年にヒューレットパッカードからスピンオフしたアジレントテクノロジーの計測器部門として2006年に独立したメーカー。もともと高周波に強かったHPの伝統を引き継ぎ、ワイヤレス技術に欠かせないRF回路やミクストシグナル回路、プロセッサなどのシステムLSI、さらにはメモリー半導体にまで手を伸ばしてきた。片や、アドバンテストはメモリーテストで定評のある日本の計測器メーカーだ。

今回の買収劇は、アドバンテストがヴェリジーを600億円で買収するという提案をした。ヴェリジーは11月にミクストシグナルのテストに強いLTXを買収することで両社は合意していたが、LTXを買収するヴェリジーそのものをアドバンテストが買収することになった。アドバンテストにとって円高は買収の追い風になり、「LXTも含めた安い買い物」になる。新聞報道ではシステムLSIテスターで第2位のアドバンテストが第3位のヴェリジーを買収して第1位のテラダインを追い抜く、というようなトーンで書かれていたが、アドバンテストが欲しいのはヴェリジーの持つRF回路とLTXの持つミクストシグナル回路向けのテスター技術だ。高周波測定器ネットワークアナライザはワイヤレス技術だけではなく、高速のシリアルインターフェースのような有線技術にも欠かせないため、定評のあるヴェリジーの技術を求めたのであろう。

攻めのアドバンテストに対して、2009年に半導体不況のどん底が来て、2010年は黒字回復の企業が多い中、シリコン結晶第2位のSUMCOの業績が振るわない。赤字幅が拡大している。どうやら太陽電池用に結晶シリコンのビジネスがうまくいっていないようだ。単結晶シリコン事業から撤退を表明している。

そもそも太陽電池の単結晶の工場を運営してきたという意味がわからない。太陽電池は、安物の半導体フォトダイオードであり、結晶性よりも価格が最優先される。従来のpnダイオードなら、結晶性がよくリーク電流が少なく動作電流が十分取れることが求められるため、リーク電流は少なく順方向電圧は低いことが必要となる。しかし、太陽電池では光が当たったときだけ電流が流れるため、光による逆電流が大きく、しかも電力として取り出すため順方向電圧の高いことが要求される。クリーンな半導体から見れば、でき損ないの特性を持つpnフォトダイオードこそ、太陽電池なのである。

結晶系の太陽電池は、単結晶を引き上げたシリコンインゴットから、テールとフロントのみを安いから使い、結晶性の優れたおなかの部分のインゴットは半導体LSIプロセスに使う。太陽電池用の結晶を作るとは、まさに安くて結晶性の悪いシリコンを作るという意味である。だから、結晶性の悪いシリコン結晶を、結晶メーカーがわざわざ作る意味がわからない。このために投資する意味もわからない。太陽電池のために四角い形状の結晶や、薄いリボン結晶などの特殊な製法で結晶を作っても単結晶や薄膜との競争は難しい。

(2010/12/13)
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