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ルネサスの記者発表が先週2件あるもメディアの採り上げが少ないのはなぜか

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先週、ルネサスエレクトロニクスが立て続けにパワーデバイスと産業用SoCの2テーマの記者会見をした。ルネサスは100日プロジェクトが終わり、その計画についての発表会である。マイコン、SoC、アナログ&パワーというこれまでの路線を踏襲するだけで終わっているが、細かい部分で新しい戦略が盛り込まれてはいるものの大きな改革は出てきていない。

セミコンポータルでは、パワーデバイスに関する記者会見では、コモディティの色合いの濃くなってきたパワーMOSFETの細かい戦略を伝えたが、大きな戦略の変更は見られず、日本経済新聞をはじめとして、余り大きく採り上げられることはなかった。産業用SoCとなるとさらにわかりにくく、今得意な製品を伸ばしていくことを中心に会見したが、やはり一般紙では大きく採り上げられることはなかった。細かい部分での戦略の理解はできるが、やはりそれだけで大きな成長戦略図を描いているとは言えない、というのがメディアの受け取り方であろう。

ルネサスの得意なマイコンに関しては、その前の週に記者会見したが、日経新聞は英国のIPベンダーARMのマイコン分野への進出について報じながら、ルネサスのマイコン事業記者会見の様子を交えて分析した。マイコンに関してARMは後発組だが、ARMのプロセッサIPコアをマイコンに応用することは決して難しいことではない。むしろ、マイコンで世界トップの地位についているルネサスの方が厳しい状況にさらされている。

マイコンを使って電子機器を設計するマイコンユーザーから見ると、半導体チップは一般に2社購買するのがリスク分散の常識だ。その場合、もっとも望ましいのは、1つのアーキテクチャで2社が製造する半導体製品(マイコン)である。ARMのアーキテクチャは日本の東芝が作り、米国のテキサスインスツルメンツやフリースケールセミコンダクタが作り、欧州のSTマイクロエレクトロニクスが作っている。このためユーザーはARMのアーキテクチャを持つマイコンを東芝からもTIからも買うことができる。地政学的リスクを避けることは十分にできる。どこで地震や災害、戦争が起ころうともマイコンユーザーはこれら大手から2社を選ぶことができる。

ところが、ルネサスのマイコンは全くその逆だ。2つのアーキテクチャを1社が持つ訳だから、ユーザーは首をかしげてしまう。地政学的リスクは極めて大きい。SHマイコンの生産が停止せざるを得ない状況にもし陥ってもV850のマイコンで即座に変えることはできないからだ。全く別のアーキテクチャで動作するルネサスのマイコンは、とたんに苦しい立場に置かれることになる。

しかし、このことに関するルネサスからの説明はまだないようだ。日経新聞ではソフトウエア環境を充実させることで世界トップを維持するというような趣旨が書かれているが、ソフトウエア開発のエコシステムではルネサスよりもARMの方が1日の長がある。ARMでは開発環境の充実、ソフトハウスのネットワークなどサードパーティの協力体制は増加の一途をたどっている。ルネサスへの追い上げは急速になろう。

では、ルネサスはこのまま手をこまねくのか。まず、ユーザーの立場に立って考えると、ルネサスのSHアーキテクチャをマイコンの得意ではないメーカーにライセンス供与する戦略を進めるべきだろう。技術の漏えい云々ではない。ロームやエプソン、富士通、サムスン、NXPなどにライセンス供与することをなぜもっと積極的に検討しなかったのだろうか。ARMをたたくには1つのアーキテクチャを複数社に作ってもらうことが望ましい。

今や、世界の超大国として君臨してきた米国が普通の国になろうとしている。欧州での戦争中止と経済優先を願ったEUが揺れている。テロの危険性をはらんだ中東、中華思想と共産主義を併せ持つ中国、世界ではさまざまな地政学的リスクが付きまとうようになっている。こういったリスクは何としても避けることが半導体ユーザーにとって電子機器の安定生産につながる。地政学的リスクがますます大きくなる現在の状況では、ルネサスのSHあるいはVアーキテクチャのライセンス供与こそ、マイコン王者を不動の地位にさせる王道だと思うが、いかがだろうか。

(2010/10/04)

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