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電気自動車の巨大な半導体需要に備え電気・電子のエンジニアを採用する動き

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先週は特に大きなビッグニュースはなかった。ただし、気になるニュースをいくつか上げてみると、未来をドライブする新しい分野に向けた準備がボチボチ見えている。電気自動車、電子ブック、エネルギーハーベスティングである。それに伴い、設備投資も活発になっている。

図 三菱自動車の電気自動車i-MiEV(アイミーブ)

図 三菱自動車の電気自動車i-MiEV(アイミーブ)


電気自動車i-MiEVを販売してきた三菱自動車工業は今後5年間で電気・電子系技術者を中途採用すると8月5日の日本経済新聞が報じた。これまで自動車産業は、自ら自動車向けのエレクトロニクスエンジニア、半導体エンジニアを育ててきたが、国内外の企業、研究機関などからエレクトロニクスエンジニアを採用するとしている。

電気自動車になると、現在高級車に使われている半導体部品の割合が30%から70%に一気に高まるといわれている。ガソリンエンジンの大衆車だとまだその比率は10〜15%であるからいかに半導体需要が高まるかがわかるというもの。

電気自動車は基本的にリチウムイオン電池とモーターで動くため、素人でも作れると思われがちだが、現状のガソリン自動車並みの性能、機能、インフラ、便利・快適、居住性、運転しやすさなどを求めようとすると実は簡単ではない。ただ動かすだけなら、ちょっとした知識さえあれば誰でも作れるが、安全性やトラブル対応までを考慮すると、やはりエレクトロニクスの知識が最大限に必要となる。例えば、日産自動車は「リーフ」を開発する上で、苦労した点は急加速後のリンギングを抑えることだったという(関連記事1)。モーターはガソリンエンジンよりもトルクが大きいため、加速性能は優れている反面、オーバーシュート気味のリンギングを起こすことがある。

電気回路的にはモーターというインダクタンスLを使う場合にはこのリンギングは起こりやすい。性能を下げずにこの波形をどうなまらせるか、が難しい。こういった知識はやはりエレクトロニクスエンジニアでなければ処理しにくい。しかも電気信号波形はノイズだらけの環境で動作させるため、シグナルインテグリティやノイズ対策など電子回路の基礎知識も求められる。加えて、リチウムイオン電池の充電状況を正確に把握する方法、直列接続するリチウム電池の特性を揃えたり、バラつきを統計的に利用したりするなど電池周りの電子回路も必要だ。さらに電池の消耗を減らすために低消費電力が一層求められることからハロゲンランプに替わるLEDランプ、インテリアに使う有機EL照明などとその制御回路、調光回路とそのデバイスもいる。充電スタンド情報を提供するITインフラとそのためのクラウドコンピューティング、M2M(machine-to-machine)通信モジュール、運転席を補助するディスプレイなどIT系半導体も使われる。

逆に言えば、エレクトロニクスエンジニアは今後、売り手市場になる可能性がある。エンジニアはますます自分を磨いておくことが必要かもしれない。

電子ブックに関してはNTTドコモと大日本印刷が電子書籍事業で提携すると発表した。大日本は子会社のCHIグループが10万点のコンテンツを揃えた電子書籍書店を今秋開設する。丸善やbk1、ジュンク堂、文教堂など書店と連携して事業を進める計画だが、コンテンツを流す通信キャリヤとしてNTTドコモと提携した。これにより、ソニー、凸版印刷、朝日新聞社と共同で出資するKDDIグループの合弁会社、iPadを使ってアップストアからコンテンツを流すソフトバンク、という3大キャリヤグループの電子書籍プロジェクトが出そろったことになる。

一方、出版業界では角川グループがNTTグループと合弁でNTTプライム・スクエアを設立している。課金システム業界としてはセブン&アイがiPhone/iPadのアプリ「セブンde立ち読み」を通じて書籍やコンテンツを購入すると出版社に成功報酬を与えるというビジネスモデルを発表している。

日本の出版業界では、出版社からトーハン/ニッパンなどの問屋を通じて書店へ卸すという流通ルートが根付いており、価格を維持する再販制度が確立している。電子書籍は、昔ながらの制度を保ちながら採り入れていくという方式で進んでいるため、場合によっては出版業界が取り残されてしまう危険もある。というのはアップストアやアマゾンという海外勢ネット書店が古臭い日本の出版業界慣習を無視してしまう可能性があるからだ。

自然界のエネルギーだけで電子回路を動かすエネルギーハーベスティング(関連記事2)に関しては、国内の村田製作所やパナソニックエレクトロニックデバイスなど10社がコンソシアムを発足させた。この5月にはNTTデータ経営研究所が音頭をとって標準化するためのコンソシアムを設立している。しかし、先行するエンオーシャン・アライアンスが整えた標準規格を無視して日本独自の標準規格を作る意味は何だろうか。エンオーシャン・アライアンスの規格に準じた製品だと海外にも販売でき、市場を広げることができる。日本独自の規格を作っても日本にしか売れない。メーカーの視点に立てば、よりたくさん売れる市場を狙うのに決まっている。表向きは国内のアライアンスに参加しながら、実際には海外規格に向けた製品を作るのなら、やはり無駄なグループ作りとなりはしないだろうか。

関連記事:
1) 電気自動車時代の到来から見えてきた巨大な半導体需要 (2009/12/25)
2) 電池不要ワイヤレス送受信機の標準化に力を入れる欧州のエンオーシャン (2010/07/16 )

(2010/08/09)

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