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東芝・富士通の携帯電話機部門の統合は半導体ビジネスにとって吉か凶か

半導体産業に直接大きなインパクトを与えるようなビッグニュースは先週なかった。半導体デバイスの応用の一つとしての携帯電話機部門を東芝と富士通が一緒にするというニュースはあったが、国内競合2社がまとまるだけのリストラ的色彩の強い合弁新会社となりそうだ。

日本の携帯電話事業は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクという3大通信業者(キャリヤ)がいて、その下に携帯電話機メーカーがそのキャリヤに納入するという構造だ。キャリヤの作る仕様通りの電話機を作ればキャリヤが全て買ってくれる。このため通信仕様はどのメーカーも同じだが、周辺機能、すなわちカメラの性能・機能やGPS、スクリーン解像度などが競争すべき機能となる。この周辺機能が携帯電話機メーカーの差別化要因となっている。この周辺機能の競争を国内で広げてきただけにすぎない。

富士通はNTTドコモに強く、東芝はKDDIに強い携帯電話機製品を持っている。両社が合体することで、NTTドコモとKDDIと両キャリヤに豊富な製品を納めることができる。このことで市場シェアを拡大したいというのが両社の思惑といえる。このビジネスモデルは、これまでのキャリヤが上で、電話機メーカーが下、という上下関係が保たれていれば、製品がオーバーラップせず、製品ポートフォリオを広げることができるはず。

ところが最近、SIMロック解除という動きがある。現在の3G電話機ではSIM(subscriber identity module)カードが内蔵されており、携帯電話機が各キャリヤのネットワークでしか使えない。このためのロックがかかっている。SIMロック解除とは、それ以外のキャリヤのネットワークも使えるという仕組みである。例えば富士通の電話機なら今は、NTTドコモのネットワークからしか入れないが、SIMロックが解除されるとKDDIの電話機にも使えるというものである。海外では、例えばノキアの携帯電話を使って電話すると、キャリヤ名が表示されるが、そのキャリヤは欧州では英ボーダフォンだったり、フランスのオレンジだったり、英O2だったり、日時や場所が違うとキャリヤも勝手に変わってしまう。SIMロックが解除されるようになると、東芝・富士通合弁の携帯電話機メーカーにとっては製品のポートフォリオは拡大しにくくなるだろう。製品が補間関係ではなくダブることになるからだ。

NTTドコモは、ソフトバンクは同じW-CDMA方式で周波数も同じなら使えるが、KDDIはCDMA2000方式で周波数も違うため使えないとしている。しかし、半導体のベースバンドとRFのチップをデュアル方式に対応できるように用意すれば両方とも使える。半導体メーカーにとってはSIMロック解除に対応したチップを作る絶好のビジネスチャンスとなる。加えて、この技術を元にCDMA2000とW-CDMAのデュアルチップは米国市場にも少し手直しするだけで使えるようになる。半導体メーカーにとっては世界へ乗り込めるビッグチャンスとなるはずだ。

SIMロック解除は、iPhoneなどのスマートフォン向けキャリヤの開放にもつながる可能性がある。これまでアップルは、iPhoneを世界各国のナンバーワンキャリヤにしか提供しないという方針を打ち出していた(唯一の例外が日本)が、この方針はグーグルのアンドロイドフォンが出てくると変わる可能性がある。

現実に、米国でiPhoneのキャリヤであるAT&Tは、iPhoneだけではなくアンドロイドフォンにも力を入れており、アンドロイドフォンはキャリヤを問わない。アップル側もAT&T以外のキャリヤへも使わせようという含みもみられる。英国では、iPhoneはすでにどのキャリヤも使えるようになっている。

こういったSIMロック解除の動きは、半導体チップメーカーにとって、極めて大きなビジネスチャンスになる。デュアル方式のチップを設計、売り込むのである。売り込む相手は富士通・東芝連合だけではない。AT&T、ベライゾン、スプリントなど米国キャリヤ向けの携帯電話機にも使える。もちろん、欧州の3GないしはLTE、LTE-Advanced(すなわち4G)などへの拡張性を考えながらデュアル方式を設計するとビジネスチャンスはさらに広がる。自社でできなければ、デュアル技術を持つベンチャーと提携、あるいは買収してしまえばよい。世界には優れた通信技術やソフトウエア無線技術を持つベンチャー企業が多い。

(2010/06/21)
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