台湾のIPベンダーAndes TechnologyはなぜRISC-Vで成長できたか
オープンソースでカスタマイズしやすいISA(Instruction Set Architecture)を持つ新しいRISC(Reduced Instruction Set Computer)ベースのCPUアーキテクチャ、RISC-VコアIPベンダーの台湾Andes Technologyが存在感を増している。新製品のロードマップを着実に打ち出し、実績を伴ってきた。すでに30種類以上のコアを揃え、AIチップのコアを充実させている。来日した同社社長兼CTOのCharlie Su氏に聞いた。

図1 台湾Andes Technologyのチーム 中央がCTO(最高技術責任者)兼社長のCharlie Su氏
CPU IPベンダーであるAndesは2025年3月に創立20周年を迎える。米カリフォルニア大学バークレイ校のDavid Patterson教授、Krste Asanovic教授らが開発した、RISC-Vアーキテクチャを推進するRISC-V Internationalを創設したプレミア企業の1社である。同社はRISC-Vが登場する前からCPUコアを手掛け、ファブレスのIPベンダー経験19年であり、RISC-Vコアのサポートを特長とする。これが同じCPU IPベンダーのSiFive(サイファイブと発音)との最大の違いだとCharlie Su社長は言う。
RISC-Vコアは米国のGoogleやMeta、AmazonなどのITサービス業者だけではなく、Nvidiaや、Western Digitalも採用しており、一気に採用が増えている(参考資料1)。WDはフラッシュコントローラをRISC-Vで作っており、中国のファブレス半導体メーカーも採用事例が増えているという。最近は欧州までもRISC-V採用が増えてきた。日本では、デンソーやルネサスエレクトロニクスが積極的だが、それ以外の半導体メーカーは発表がまだ少ない。RISC-V Internationalの会員数は4000社を超え、ラピダスと提携したTenstorrentやVentana、RivosなどRISC-Vチップのスタートアップも増えている。Su氏は、AppleもRISC-Vを採用する可能性が高いと見ており、その理由はRISC-Vを熟知した人を続々採用しているからだとしている。
SiFiveは日本にオフィスを開設したものの(参考資料2)、元ザイリンクスジャパンの社長で、サイファイブジャパン社長のSam Rogan氏はすでに今年退社している。アカデミアからのスタートアップは運営が難しいと思う、とSu氏は述べている。IPライセンスビジネスでは、IPのサポートが重要であり、「当社にはたくさんのノウハウの蓄積がある。ドキュメンテーションやアプリケーションも多い」とサポートの充実ぶりをSu氏は語る。
Andesはこれまで新製品を続々出荷し、今後の新製品としてAIチップに使うベクトルプロセッサに力を入れ、そのロードマップを充実させている(図2)。ライセンスを提供してきた企業は400社以上に上り、これまで組込システム向けにAndesのコアを集積したSoCは累計で150億個以上になるという。開発システムAndesSight IDEのユーザーは10万人以上に達する。
図2 AI用に最適化されたベクトルプロセッサのロードマップ 出典:Andes Technology
では、AndesはRISC-Vで何を成長のエンジンとしようとしているのか。これまでは組み込みシステム向けのSoC狙いがメインだった。これが実は今やAI(人工知能)向けにフォーカスしつつある。2019年に最初のベクトルプロセッサコアNX27VをRISC-Vで作製したという実績がある。2023年にはMeta(旧Facebook)向け7nmプロセスのAIチップMTIA(Meta Training/Inference Accelerator)-1を開発、24年4月にはTSMC 5nmプロセスによるアクセラレータを開発した。
さらに進化させるロードマップを描いている。整数演算4ビットから64ビットまでの演算から、浮動小数点演算FP8ビットまでのAI向けのプロセッサを計画している。また、モバイル向けのアプリケーションプロセッサもロードマップを用意している。AIチップにRISC-Vが向いている最大のメリットはAI向けに最適化しやすいことだ。GPUのアーキテクチャは確かにニューラルネットワークと同様であるが、最適ではない。RISC-Vならもっと消費電力を下げることができる。
単なるチップライセンスだけではなく、AIチップに対してはAI開発環境AndesAIREも用意している。AI用のSoCではハードウエア+ソフトウエアが重要であるため、AI向けのニューラルネットワークモデルライブラリAPI(Application Programming Interface)やドライバなども用意している。
もちろん、SoC開発で重要なコラボレーションを軸としたエコシステムの構築の充実も目指している。CPUとアクセラレータを組み合わせたサーバー向けのチップを開発しているスタートアップの米Rivosは、AndesのRISC-Vコア「NX45」を採用すると9月に発表した。Rivosには、元Cadence Design SystemsのCEOであったLip-Bu Tan氏が出資している。AndesはRISC-V向けのソフトウエアのコンソーシアムRISE(RISC-V Software Ecosystem)の創設メンバーの1社でもあり、エコシステムの形成には力を注いできた。商品化に欠かせないRISC-Vのコミュニティには台湾系のネットワークが出来つつある。
参考資料
1. 「急速に広がっているオープンスタンダードのRISC-Vコア」、セミコンポータル、(2024/01/31)
2. 「ハイエンドからローエンドまで、宇宙用途まで、用途を拡大するSiFive」、セミコンポータル、(2023/01/12)