セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

Mouser、日本市場での急成長に大きな期待

|

かつてテキサスのTexas Instrumentsを中心とした地方の電子部品ディストリビュータだった、米Mouser (マウザー) Electronicsがグローバル展開を進め、日本への進出を強めている。2006年からグローバルにアジアと欧州に販売し始め、日本にも2015年に進出(参考資料1)して以来、地保を固めてきている。

図1 Mouser社Global Services & APAC and EMEA担当SVPのMark Burr-Lonnon氏

図1 Mouser社Global Services & APAC and EMEA担当SVPのMark Burr-Lonnon氏


MouserはDigi-Key(参考資料2)と並んで、半導体からセンサ、コンデンサ、抵抗、コネクタまでさまざまな電子部品をワンストップショッピングできるディストリビュータである。エレクトロニクス設計者は1回で、CPUやLSIなどの半導体から全電子部品を購入し、実験してみたいはず、とMouser社Global Services & APAC and EMEA担当SVPのMark Burr-Lonnon氏(図1)は語る。エンジニアは、半導体や電子部品がそれぞれの店舗へ行かなければならないというわずらわしさから逃れて、設計に集中したいからだ。

Mouserは、かつて北米しかビジネスを展開してこなかったが、2006年ごろからアジアと欧州へも販売するようになり急成長してきている。2000年から2017年までの平均年率成長率CAGRは20.2%と高い。半導体市場がややマイナスになっていた2015年でさえも3%成長となり、16年は11%増と順調に伸ばしてきており、17年は26%成長の見込みだ(図2)。特に今年は半導体景気を追い風にして、北米は17%増の見込みだが、欧州(EMEA:Europe, the Middle East and Africa)が35%増、アジアも35%増、日本は43%増とみている。


図2 グローバルには北米よりも欧州とアジアに成長の余地がある 出典:Mouser Electronics

図2 グローバルには北米よりも欧州とアジアに成長の余地がある 出典:Mouser Electronics


日本は、今年になって急速に伸びており、9月の第3四半期までは前年比で50%の業績を上げ、3000万ドルを超えることは間違いないだろう、とBurr-Lonnon氏は言う。また、顧客の数も伸びており、2015年6月に日本法人を設立したころは4500名ほどしかなかったが、2016年に6000名、2017年には7500名の顧客数が増えている。

日本が急増しているのは、これまで存在が小さすぎたため。2017年におけるアジアでの売り上げの内、中国市場が最も高く43.9%を占め、次いで韓国の10.7%、さらに日本が10.1%と続くが、日本の売り上げはもっと高くてよいはず。日本は回路設計が強い国であり、Mouserが対象とする客は研究開発、製品開発のエンジニアであり、量産工場のテクニシャンではないからだ。

Mouserのビジネスモデルは、Dig-Keyと同様、製品開発/研究開発のエンジニアを対象としており、特に研究開発に従事するエンジニアのいるOEMが最も多い。次いで小規模のEMSなどだ。OEMの中では工業用が33%と最大で、RFおよび通信が11%、航空宇宙海洋が10%、計測9%などとなっている。アカデミアは意外と少なく全体の3~4%しかいない。

小規模のEMSは1万~10万台生産の少量多品種生産対象としているが、たまにはJabilやFlextronicsのような大手EMSからの注文が入る場合がある。これは、生産計画に狂いが出て部品が不足したような場合だという。量産になると部品の価格は下がるため、OEMが利用する代理店を通して販売することになる。日本では、マクニカが量産品を扱っている。

Mouserの強みは、部品の種類の数だという。現在、部品名称で80万7466種類の部品を扱っており、最も多いとしている。他のディストリビュータの中には、サイズの異なるリールの数を別種類と数えているところもあるという。Mouserはサプライヤからの部品番号を1種類とみなしている。加えて「豊富な在庫を揃えるための投資を怠ることなく、5年間で3億ドル弱を在庫に投資してきた。在庫の少ない所は成長が遅い」と同氏は言い切る。

もう一つの強みは半導体の種類が多く、全ての電子部品の中の半導体と組み込みセンサ(MEMSやCMOSセンサなど)の種類が全体の46%も占める。コネクタや配線ケーブルなどは20%、抵抗やコンデンサのような受動部品は20%、リレーのような電気機構部品が14%となっている。それらの部品の販売成長率を見てもやはり半導体が圧倒的に高く、2017年は30%成長の6億ドル弱になる。今年は全体で13億ドルの売り上げ見込みである。


図3 新規のアカウントが急増 出典:Mouser Electronics

図3 新規のアカウントが急増 出典:Mouser Electronics


日本でのビジネス上でのMouserの特長は、セールスパーソンがいないこと。その代わり日本での拠点はカスタマサービスとマーケティングにフォーカスすることである。例えば、2017年の第2四半期には新たに14万2353件のアカウントができ、そのうち53%が米国以外の顧客だという(図3)。これは毎日949件の新規アカウントが取れたことになる。さらに実際に電子部品や部材などを購入したエンジニアやバイヤーは55万6441名だった。マーケティング部門はこのような時に、コネクタを購入した21万7985名に対して新しいLEDが製品化されると真っ先にお知らせするのだという。マーケティングはモノを直接販売するのではなく、Mouserが持つコンテンツ情報を提供する仕事だとしている。

国際的には顧客のインターネットでの取引も多い。1日当たりのウェブを訪れる訪問者数(ビジット数)が最近は40万件近くなった。ある1日にMouser.comに来るリクエストに対してBOT(ソフトウエアロボット)を使って挙動を判断し、例えば中国やロシアからホワイトペーパーなど情報をダウンロードできるものだけを取ろうとするリクエストに対しては拒絶するという。ある日は2700万リクエストに対して1020万件が悪意のあるリクエストだったとしている。表示された製品数は2500万件で、訪問者数は37万件、ユニークユーザーは25万件と極めて多い。

また、エンジニアのウェブの使い方を見ると、アマゾンのような消費者向けのウェブサイトとは大きく違う、とBurr-Lonnon氏は述べる。アマゾンだと一度ウェブの商品を見るだけで購入するのに対して、Mouser.comではいろいろなウェブサイトを比較している設計者が多いという。BOM価格はさほど問題ではなく、購入しやすい、サービス、セキュリティ、サプライチェーン、テクノロジーなどの項目を広く深く比較しているという。これも量産品の購入とはずいぶん違う。

Burr-Lonnon氏は、日本のエンジニアに対して、「技術は非常に良いものが多く、センサやIoT、マイコンなど今後成長できるデバイスがある。これらを使って組み込みシステムを作る開発力もある。だから将来、AIが普及しても日本は強いだろう」と日本への期待は大きい。日本だからといって特に自動車市場に注目している訳ではなく、日本のエンジニアがフォーカスしている全ての市場に期待できると述べている。

参考資料
1. 新製品の数で勝負する電子部品商社Mouser (2015/10/14)

2. 解雇のないDigi-Key、ハードとソフトに投資、業務改革でライバルに差 (2017/9/29)

(2017/10/25)

月別アーカイブ