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新製品の数で勝負する電子部品商社Mouser

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今年の6月、日本にオフィスを構えた独立系電子部品商社Mouser Electronics(図1)は、新製品をいち早く出せる体制を構築した。NPI(New Product Introduction)と呼ぶ、この作戦は、製品を開発・製造する500社以上のパートナーと密に仕様や開発ツールなどについてディスカッションし、新製品のタイミングを早く捕まえ、新製品を揃えていく。

図1 テキサスの広大な敷地に拠点を構えるMouser Electronics 出典:Mouser Electronics

図1 テキサスの広大な敷地に拠点を構えるMouser Electronics 出典:Mouser Electronics


これまで、電子部品商社といえば、メーカー系と独立系があり、メーカー系はデザインハウス的なASIC設計まで担当する企業もあった。メーカー系は部品の種類が限られており、ワンストップショッピングで電子回路設計に必要な全ての部品を揃えることはできない。ところが、独立系は、全ての部品を手に入れているため、求める顧客にワンストップで納入できる。外国企業を拠点としていても日本に3日で送ってくることが可能だ。

このため、独立系の電子部品商社が近年伸びてきている。主な独立系には、米国のDigi-Keyや英国RS Components、国内のチップワンストップなどがいる。Digi-Keyは、世界に拠点を一切持たず、ミネソタ州の田舎町Thief River Fallsの拠点から世界中に部品をワンストップで届ける。米国内でさえ、この田舎町以外に支社も支店も持たない。その代り、業界メディアに広告を出し、知名度アップに努める。かつては謎のディストリビュータといわれていた(参考資料1)。RS Componentsは、国内は横浜にオフィスと倉庫を構え、在庫があれば翌日配送が可能で、在庫品の翌日配送率は99.9%に及ぶという。インターネットの日本語サイトがあるため、外資系でさえ素早い対応ができるようになっている。

このような中に割り込んできたのがMouser Electronicsである。今年の6月に日本に拠点を置き、日本市場の拡大を図っている。むしろ日本市場への参入が他社に比べて遅れてきた。そこで、ウェブサイトを活用、インターネットによる電子取引を増やしてきた(図2)。販売の51%がインターネットを通じた取引で、新しい顧客は83%がネット取引だという。同社は世界で63のウェブサイトを持ち、20種類の通貨での取引があり、16ヵ国語に対応している。1日の訪問者数は22万、ユニークユーザーは15万5000人だという。


図2 インターネットの活用でビジネスを伸ばす 訪問者数は伸び続けている 出典:Mouser Electronics

図2 インターネットの活用でビジネスを伸ばす 訪問者数は伸び続けている 出典:Mouser Electronics


インターネットの時代はグローバル展開を図りやすく、7万5000平米の倉庫から世界中に電子部品を届けるが、米国内よりも海外売り上げを伸ばしている(図3)。これからは、地域の比率を米国から欧州、アジアに伸ばしていく。「ブランディングはグローバルに、狙う顧客はローカルに」、を掲げている。


図3 売上額のグローバル比率をさらに上げていく

図3 売上額のグローバル比率をさらに上げていく


「Mouserの特長を一言で言えば、新製品の数が多いことと、マーケティングとコンテンツ(部品の中身)に注力していることだ」、と同社EMEA & APAC事業担当シニアVPのMark Burr-Lonnon氏(図4)は述べている。同社はNPIの数は、直近の1年間で2200種類もあったとしている。月に平均すると185製品を毎月出しており、他社の多い所でも毎月117種類と分析している。


図4 MouserのNPIチーム 左から2番目がシニアVPのMark Burr-Lonnon氏

図4 MouserのNPIチーム 左から2番目がシニアVPのMark Burr-Lonnon氏


電子部品商社は、倉庫にはすぐに発送できる部品を多数保持しており、メーカーは在庫を多く抱えることを嫌うが、商社はむしろ在庫(資産)を増やすことに投資する。現在、65万6202種類の部品番号を在庫に持っているとしている。Mouserには専用のNPI立ち上げチームを持ち、彼らが重要な顧客の新製品開発にもコンサルティングとして参加する。顧客の欲しい部品情報をいち早く捉え、メーカーに伝える。

扱う部品製品の43%は半導体、21%がケーブル、20%が抵抗やコンデンサなどの受動部品、機構部品は16%となっている。MEMSは機構部品ではなく半導体部品に含めている。というのは、MEMSはIoTのセンサに使われるので注目しているからだという。

これらの電子部品は、小さなものから大きなものまで至っているが、全て一つの箱に入れてFedexとUPS配送業者(国内のヤマト運輸と提携)を通じて、顧客の元に届ける。部品の数としては5個、10個、20個を購入する顧客が代表的だが、たとえ1個でも受け付けるという。

これらの電子部品を使って電子機器製品を製作する訳だが、モノづくりの上流から、(1) 製品コンセプトを生み出すR&D、(2) 機能テスト、(3) 回路設計、(4) 試作、(5) NPI兼パイロット生産、(6) 少量生産、という流れの中で、同社はより上流へと向かう。大量生産となると同じグループのTTI社(注)を通して扱うとしている。

主な顧客にはOEM(電子機器メーカー)が多く、その他中小のEMS(電子機器組み立て専門の請負業者で、JabilやFlextronicsなどの大手は含まない)、FA(オートメーション)、エンジニアリングなど。学校や学生・ホビイストの比率は小さいが、実はここ最近急増しているという。

これはメーカーズムーブメント(Makers Movement)のトレンドと一致しており、米国ではモノづくりの復権、優秀な学生のハードへの復帰、といった動きがここ数週間で出てきているという。メーカーズムーブメントは、電子設計の知識の深い人たちがプロフェッショナルのメーカーではなく、個人としてモノづくり会社を起業する、あるいは素人だがモノづくりをやってみたいという人たちのトレンドを指す。優秀な学生はこれまで金融やサービス業へ流れてきたが、今やモノづくりに移ってきたとMouserのあるセールスエンジニアは言う。

(注) Mouserは、米国を代表する投資家のWarren Buffet氏率いるBerkshire Hathaway Groupに2007年買収され、今はその傘下にある。受動部品やケーブルなどに強い部品商社TTIも同じころBerkshireの傘下になった。BerkshireはBill Gatesも取締役になっている企業で、資金力は抜群。2014年の同グループの売り上げは20兆円、利益は3兆円を超す巨大企業。

参考資料
1. 「ミネソタから世界中へ電子部品を届ける−謎のディストリビュータDigi-Keyの素顔に迫る」、EDN Japan (2006年5月)

(2015/10/14)

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