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CEATEC 2016、キーワードは「社会」(前編)

CEATEC 2016はIoTであふれており、社会問題をIT/エレクトロニクスで解決する、という傾向が鮮明になっている。もはや民生でも産業でもない。「社会」こそが新しいIT/エレクトロニクスが進むべき道という方向が世界のIT/エレクトロニクスの動向になっており、国内でも部品メーカー、システムメーカーが社会を意識した提案を行っている。

出展する半導体メーカーはもはや、ローム(ラピスセミコンダクタ含む)とソシオネクストだけになったCEATECだが、ロームは工場や農場におけるIIoT(工業用IoT)の応用を提案している。工場では水を流して液面を検出したり、モータの振動を利用したりするようなエネルギーハーベスティングなどを提案し(図1)、工場が欲しいセンサの開発につなげようとしている。


図1 工場応用でのIIoTのデモ

図1 工場応用でのIIoTのデモ


図1の工場システムでは機械の状態をモニターするマシンヘルスのデータを採る。アナログセンサ信号を4〜20mAで出力し、既存の工場にそのまま適用できるシステムになっている。液体の色をカラーセンサで検出、液面上の気圧を測定したり、EnOceanのエネルギーハーベスティングのスイッチ(参考資料1)を利用して明かりをつけたり、工場内モータの振動を利用したエネルギーでファンを回すなどのデモを行った。ロームは国内で最初のEnOcean仕様のエネルギーハーベスティング技術を採用した半導体メーカーだ(参考資料2)。

圧巻は、配管内の液面をテラヘルツセンサで検出するといったユニークなシステムだ。テラヘルツ波は小さな共鳴トンネルダイオード(図2)を発振させて0.4THz程度の電磁波を発生させる。ミリ波よりも波長の短いテラヘルツ波は光のように直線性が強く、水に吸収されるため空気か水かを判別できる。しかも光と違って樹脂の配管も突き抜けるため、受信機を配管の外側に取り付けることができる。従来のテラヘルツ送信機は周波数逓倍方式を使って高調波を発生させていたため、装置は大きく、配管に取り付けることは困難だった。


図2 従来の逓倍方式と今回の共鳴ダイオードによるテラヘルツ発振器の大きさ比較

図2 従来の逓倍方式と今回の共鳴ダイオードによるテラヘルツ発振器の大きさ比較


農業では、ロームは土壌のpHや電気伝導度、温度を測定するセンサを取り付け、さらに信号を処理するマイコンとサブGHz帯の送信機を一体化した「土壌環境センサ」を試作展示した(図3)。農地に挿して使うが、消費電流が計測時は35mAだが、待機時は30µAであるため、ボタン電池2個を1年間使えるという。もちろん、測定のデューティ比による。ロームは農業従事者と共同でこのセンサを開発した。最適なpHは、キュウリやナス、芋などの農作物によって異なるため、土地にあった最適な作物を提案できるという。また、土の水分を測定することで土砂崩れを予想し、避難勧告ができるようにしたいとする。ロームはこのセンサで、CEATEC AWARD 2016 グリーンイノベーション部門にてグランプリを受賞した。


図3 土地のpH/電気伝導度/温度を測りデータを送信するロームの土壌環境センサ

図3 土地のpH/電気伝導度/温度を測りデータを送信するロームの土壌環境センサ


IoTのセンサを意識したガスセンサを「匂いセンサ」という形で、太陽誘電が提案している。アセトンやトルエン、アンモニアなど7種類のガスを検出する7個のセンサを組み合わせる。ベンチャー企業のアロマビットと共同で開発中だ。これは、感圧膜にガス分子を吸着させることで、その重さが変わるため容量の変化を検出できるというセンサ(図4)だ。


図4 太陽誘電が提案する匂いセンサ 数種類のガスセンサを使いそれらの検出強度から匂いの物質を推察する

図4 太陽誘電が提案する匂いセンサ 数種類のガスセンサを使いそれらの検出強度から匂いの物質を推察する


一つのセンサ膜に一つのガス分子を吸着させる。例えば、ある匂いを最大7個のセンサで検出し、反応した3個のセンサの強度パターンを、匂いの物質を判定する。このようにして様々な匂いで実験を繰り返し、匂いのデータベースを作成する。通常、分子の吸着を利用するガスセンサは、過熱することで初期化することが多いが、今回はどのように初期化するのかについては明らかにしない。

また、太陽誘電は、PbTiO3などの強誘電体圧電素子を使って、椅子に座った時の腿の動脈を検出して脈拍をモニターし、クルマの運転手の自律神経や精神状態をチェックするというデモも示した。ドライバの過密スケジュールによる心身の負担を測定できれば業務改善や事故防止につながる。すでに7つの病院と共同で実験を始めているという。

IT/エレクトロニクスを医療にもっと役立てる試みもある。ミツミ電機は、富士通と共同で眼鏡方式のディスプレイを開発している(図5)。眼鏡の上部分に小さなイメージセンサを置き、眼鏡の片方の内側に超小型投射型ディスプレイを配置する。このメガネは、白内障など水晶体の働きが劣化してよく見えない人たちに福音をもたらす。センサからの映像をMEMSミラーで走査して投影する訳だが、結像する焦点面をレンズではなく網膜に持ってくるように設計する。水晶体レンズに不具合があってよく見えないような患者が見えるようになる。


図5 ミツミと富士通がそれぞれ展示した水晶体の疾患でもよく見える眼鏡 眼鏡の外側にカメラ、内側に左目用ディスプレイが搭載されている。

図5 ミツミと富士通がそれぞれ展示した水晶体の疾患でもよく見える眼鏡 眼鏡の外側にカメラ、内側に左目用ディスプレイが搭載されている。


CEATEC2016レポートの後編(参考資料3)では、さらなる社会システムを紹介する。

参考資料
1. 電池不要ワイヤレス送受信機の標準化に力を入れる欧州のエンオーシャン (2010/07/16)
2. ローム、低消費電力ワイヤレスに注力、HEMSにはWi-SUM規格のモジュール導入(2014/04/08)
3. CEATEC 2016、キーワードは「社会」(後編) (2016/10/18)

(2016/10/07)
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