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フリースケールがカーレースのメインスポンサになった理由(わけ)

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フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンはカーレーシングチーム「OGT! Racing」のメインスポンサである(図1)。今年度からカーレース「ポルシェカレラカップジャパン(PCCJ)」にも参戦してきた。優勝経験もある。なぜフリースケールという半導体メーカーがカーレースに力を入れるのか。

図1 フリースケールの持つポルシェ 右がデビッド・ユーゼ社長、左が専属レーサーのイゴール・シュスコ氏

図1 フリースケールの持つポルシェ 右がデビッド・ユーゼ社長、左が専属レーサーのイゴール・シュスコ氏


フリースケールは車載向け半導体メーカーの大手の一つである。クルマなどのOEMメーカーの要求に従って半導体チップを作り供給するという古臭いビジネスモデルから、世界の半導体メーカーはユーザーの望む仕様を一足先に提案していくビジネスモデルへと変わってきた。インテルやクアルコム、ブロードコムなど成長し続ける半導体メーカーは提案型ビジネスへと急速に舵を切っている(例えば、参考資料12)。

フリースケールはかつてモトローラからスピンオフし、しばらくは通信用チップで強かったが、モトローラの携帯電話事業が不調になってくるとフリースケールの業績も悪くなった。このため脱モトローラ戦略を進め、最近ではカーエレクトロニクスに力を入れている。車載用マイコンではルネサスがトップではあるものの、車載用の半導体全製品に関してはフリースケールも負けてはいない。

フリースケールはクルマメーカーの要求を聞くだけではなく、その先にあるものを探ろうとした。クルマメーカーの気持ちになって要求を先んじて採り入れることが狙いである。乗用車とレーシングカーとは全く違うと思われるかもしれないが、実は極めて通じるものがある。

クルマメーカーを取材すると、彼らのポリシーは、どのような人がどのような乱暴な運転をするかわからないため、絶対安全なクルマを目指すことである。レーシングカーは、急発進、急ハンドル、急ブレーキなど極めて過酷に操作され、しかも雪国をはじめ熱帯や砂漠おいても使われる。クルマメーカーには「想定外」といった能天気な言葉は許されない。レーシングカーは乗用車の極限的な使い方をされる乗り物である。室内の温度は40~50°にもなり、レーサーは汗だらけで運転する。また、できるだけ車体を軽くしているため電気的ノイズの多い環境である。レーシングカーでのデータこそ、極限の乗用車に要求される案件に近い。だから、レーシングカーをベースにして乗用車を設計するのである。次世代ADAS(クルマの安全システム)の要求を知り、提案することが大きな目的といえる。

これに加えて、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのデビッド・ユーゼ代表取締役社長は、「勝つ」という精神を身につけることもカーレースに参戦した理由だとしている。さらにFreescale Semiconductor本社に日本法人としてのプレゼンスを見せつけるという思いもある。こういった理由から同氏は、本社から予算を獲得した。

レーシングカーのデータを得るため、クルマだけではなくドライバーの負荷も測定した。ドライバーのイゴール・シュスコ氏の身体に大きく分けて二つのセンサを装着した(図2)。一つはモーションキャプチャセンサ(慣性計測ユニットDIMOTION)である。3軸加速度センサと、同じく3軸ジャイロセンサを搭載しWi-Fiでデータを送信する。両腕と両足、胸の5カ所に取り付けた。モーションキャプチャセンサは運転中のドライバーの身体の動きを検出し、コースでの直線的に走る、カーブを曲がる、ブレーキを踏む、といったハンドルを握るドライバーの身体の動きを検出する。クルマ自身にも同じモーションキャプチャセンサを取り付け、その差分を見ることで、クルマの動作と身体の動作を対応させている。Wi-Fiからのデータを車内のパソコンで受け、記録保存する。


図2 ドライバーのイゴール・シュスコ氏の身体にセンサを多数取り付ける

図2 ドライバーのイゴール・シュスコ氏の身体にセンサを多数取り付ける


もう一つのセンサは、心電図や筋電図、発汗などのデータを採るためのセンサである。カーブや直線での身体の変化からストレスを測定する。実際のクルマではストレスを解消するようなシステム作りに生かす。現在は、これらのデータを解析している最中だ。

こういったセンサやデータの取得・解析は、外部の協力の元で進めている。慣性計測ユニットではエー・アンド・ディ、ジースポート、心電図や筋電図などの身体測定には東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻の浅間研究室・山下研究室とコラボレーションをしている。

フリースケールは、77GHzのミリ波レーダーを使った衝突防止システムや360度サラウンドビューシステムもポルシェに搭載している。これら全てのシステムの状態やデータを取り、解析してクルマメーカーに提案していく。

参考資料
1. 「技術で何ができるかが重要」というジョブズ氏の言葉を反映したクアルコム (2012/01/27)
2. リニアテクノロジー、バッテリ管理ICの精度を上げ、低コストEVを目指す (2012/11/09)

(2012/12/14)

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