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ビジネスにつながるテーマに限り資金を提供する英国政府・技術戦略委員会

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2007年に生まれた政府の技術戦略委員会TSB(Technology Strategy Board)が、イノベーションを生み出す企業の支援を始めてから5年たった。最初の2008年の英国特集(参考資料1)では、TSBの役割がまだ明確ではなかったが、既存の業界から新ビジネスに結び付くようなイノベーションを支援することで経済成長を加速させる方針がはっきり固まってきた。

図1 BIS(経済産業省に相当)のイノベーション策定担当Fergus Harradence氏

図1 BIS(経済産業省に相当)のイノベーション策定担当Fergus Harradence氏


リーマンショック以来の金融危機が欧州、米国に及ぼした影響はいまだに大きく、ユーロ安・ドル安の傾向が続いている。英国の金融業界はそれ以前に行っていたベンチャー企業への投資額を減らさざるを得なくなっていた。そのような中、イノベーティブなベンチャー企業のプロジェクトを支援し、促進するための資金源の一つとしてTSBが機能してきた。TSBにはイノベーションこそが経済成長の原動力になるという認識があるからだ。

技術的なテーマは、政府のビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS:Department for Business, Innovation and Skills:日本の経済産業省に相当)傘下のTSBが決める。ヘルスケアやICT、高付加価値製造技術、ナノサイエンス、交通、衛星技術などのテーマがある。こういったテーマは、イノベーション側と、もっと重要なアプリケーション技術にフォーカスする。

では具体的にどのように支援するのか。BISでイノベーション策定担当ディレクタ代理のFergus Harradence氏(図1)は次のように言う。「英国の支援策には主に二つあります。一つは税控除で、もう一つは直接、TSBが補助金を出す仕組みです。税控除は、英国歳入関税庁(HM Revenue and Customs:日本の財務省に相当)に税金の還付を申請すれば研究開発経費に関して受けられるものです。研究開発のイノベーションを提供できる大企業、中小企業ともにビジネスへの投資を促進するために行います。税控除の申請はこの12年間確実に増加してきました。毎年10億ポンド以上の価値のあるサポートになります。直接的な補助金は、初期段階では実験や試作品を作るための研究開発費の50%を通常、提供します。援助する分野を決めコンペを行います。コンペを評価するのは産業界と大学の独立系の専門家です。評価は何段階にも渡ります。」という。

TSBへの補助金の申請はたくさんあるが、コンペによりおおよそ7社のうちの1社程度が合格する。これまでトータルで1500件程度のプロジェクトがある。プロジェクトに配布する補助金は数万ポンドから2800万ポンドと広い範囲に渡る。年間予算は3億ポンドだという。小さなベンチャーが始めるプロジェクトから大きな企業のプロジェクトまである。TSBは、市場導入まで3〜5年程度で済むようなプロジェクトを主に選ぼうとしており、ほとんどのプロジェクトはビジネスにつながるテーマになる。海の物とも山の物ともつかないようなプロジェクトは選ばない。

補助金を与えたプロジェクトが始まると、プロジェクトマネジメントとしてモニタリングオフィサーを採用し、進展状況を四半期ごとなど、定期的にチェックする。TSBにはメンバーが120名しかいないため、チェックするオフィサーはパートタイムで産業界経験者に依頼する。主に技術開発に携わってきたが定年退職したようなベテランの経験者などが請け負うことが多い。最先端の技術もよく知っている人間ではないと評価するのが難しいからだ。

政府は、資金を出す企業に対して資本を提供する訳ではなく、あくまでも補助金という形をとる。出資する訳ではない。対象とする企業を所有する訳ではない。国営企業にするつもりはないからだ。政府の資金で開発した技術に対して生じたIP(知的財産や特許)には、政府は一切関与しない。特許などには口も出さないという。例えば、宇宙航空や自動車関連は顧客との関係がありサプライチェーンの中でIPの取り扱いが決まることが多く、政府は関与しない。

補助金の対象となる分野はハイテク関係に絞られているが、あくまでもイノベーションを起こせるテーマでなければならない。健康関連やICT、ナノサイエンス、陸海上の交通、衛星技術、セキュリティ、中小企業、ファイナンスなどがある。

TSB傘下にはKTN(Knowledge Transfer Network:大企業から中小企業、大学関係、個人の人脈を作るための組織)もある。KTNは以前、25ものプロジェクトネットワーク部会があったが、再編した結果15のネットワーク部会に整理した(表1)。できるだけ共通のプラットフォームを作り、人脈を形成できるようにセミナーを開き、交流を図るようにしている。


表1 KTNの15のネットワーク部会 (2012年1月29日現在)

表1 KTNの15のネットワーク部会 (2012年1月29日現在)


KTNには、エレクトロニクス・フォトニクス、ヘルスケア技術などの組織がある。メンバーは5万人弱おり、競争よりもコラボレーションする機会を探している。例えば起業する場合には業界の専門家と知り合うことが欠かせない。セミナーなどのイベントを通して最新のトレンドを知り、専門家同士が顔なじみになり情報交換しやすくする。LTEやインターネットの将来、ブロードバンド通信などのトレンドを知ることができる。KTN同士の協力もある。定期的に合同セミナーを開き、異業種交流を図っている。

参考資料:
1. 特集:半導体に注力する英国株式会社(1) 産官学一体でイノベーションを加速する(2008/03/14)
2. 特集:英国株式会社(9) イノベーティブ企業を生む政府の仕掛け (2008/03/31)

(2012/02/10)

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