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5G通信のメリットは遅延を保証していること

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James Kimery氏、National Instruments, RF/Comms and SDR担当Director of Marketing
第5世代(5G)のワイヤレス通信といえば10Gbpのデータレートを想起する。しかし、レイテンシ(遅延)が1msと短いことの方がむしろ、IoTなど新応用で重要になる。応答時間を予測できるため、それを考えたシステム設計が必要になる。ソフトウエアベースの計測器メーカー、National InstrumentsのRF通信およびソフトウエア無線担当のマーケティングディレクタ、James Kimery氏は、だからエンジニアは5Gにワクワクしているという。

James Kimery氏、National Instruments, RF/Comms and SDR担当Director of Marketing

James Kimery氏、National Instruments, RF/Comms and SDR担当Director of Marketing


セミコンポータル: NIWeek 2015では、IoTと5Gが大きなテーマになっています。日本では5GはNTTドコモなどの通信オペレータや通信機器メーカーだけが関心を持っている世界となっており、コンシューマにとっては10Gbpsも必要ないような気がします。
J. Kimery: IoTはさまざまな分野に使われるように一般的になってきていますが、5Gはエンジニアにとってワクワクするようなテーマです。携帯電話の歴史は、第1世代(1G)のアナログ方式から、第2世代(2G)のデジタル通信、第3世代(3G)の少しデータ通信とやってきて、第4世代(4G)はブロードバンドデータを扱えるようになってきました。
4Gの世界でわかったことは、ワイヤレス通信は非常にパワフルであること、さらに教育目的やビデオ制御も可能なことです。今までビデオは限られた応用でしたが、IoTや携帯電話、ブロードバンド、スマートデバイスなどさまざまな広い用途に使えることがはっきりしてきました。もはや、ワイヤレス通信に制限がほとんどなくなったといえます。技術的には、マッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output: 送受信アンテナを多数設けるシステム)やミリ波など最先端の通信技術が現実になってきました。5Gのメリットは極めて大きいのです。データは高速化し、ビッグデータを扱え、常にパケット落ちがなく、遅延にも対処でき、ユーザーの能力を高めるようになります。ネットワークはハイバンドデバイスとつながり、センサやアクチュエータを動かします。

セミコンポータル: 5Gは10Gbpsと高速ですが、高速でなければならないデバイスはそれほど多くありません。5Gの魅力は何ですか?
J. Kimery: レイテンシが1ms以下ということが最も重要です。これによって、応答時間が短いだけではなく、予測可能になることです。もし、スマートフォンでビデオを見るときに高いビルディングなどがあると電波がビルで反射されるというマルチパスによって遅延が起きます。IIoTの設計者は、どの程度応答時間を保証すべきなのか、悩んでしまいます。(これが1ms以内とはっきりわかっていればそれを含めた設計をすればよい)
加えて、5Gには様々なデバイスがつながりますので、センサのような低速でかまわないデバイスでさえ、応答時間の短縮によって経済的な価値を生み出すことができます。さらにIoTで独自のワイヤレス通信を使おうとすると高コストになりますが、5G(のような標準的な通信)を使うことで低コストにできるようになります。

セミコンポータル: NIとして5Gに対してどのような取り組みをしていますか。
J. Kimery: まずはRF通信のコードプログラム数を減らすことです。これはCEOのドクターT(CEOのJames Truchard氏)の考えです。そしてRFおよびワイヤレス通信のトップ研究者と一緒に共同研究します。このコラボレーションを通じて、研究者のニーズを理解し、当社の製品を改良します。2010年からいくつかの大学とは共同研究をしてきました。さらに企業とも例えばSamsungとはFD-MIMO(Full Dimension MIMO: 3D-MIMOという言い方もある)やNokia Networksとはミリ波でコラボしてきており、10Gbpsをデモしました。このようなコラボを通じて(設計・検証ツールの)LabVIEWをもっと改良しています。例えば、新らたに開発したLabVIEW Communicationsは5G通信に特化したLabVIEWの新バージョンですが、5G共同開発の成果としてできた製品です(図1)。


図1 ワイヤレス設計用LabVIEW Communicationsツール 出典: National Instruments

図1 ワイヤレス設計用LabVIEW Communicationsツール 出典: National Instruments


もう一つの例は、(通信方式をソフトウエアで変更できる仕組みの)SDR(ソフトウエア無線)製品です。これはPXIの進化として生まれましたが、研究開発チームと一緒に開発した成果です。NIは5Gの設計分野でプロトタイプを開発しましたので、携帯端末や基地局でのそれぞれのテスト手法についても知りたいのです。半導体のテスト手法やワイヤレスのテスト手法においても、(SDRでさまざまなモデム方式に対応できるため)NIはリードできるようになります。さらに、テスト時間やコスト、開発の容易さなどについてもテストエンジニアとして係わります。だから今後2〜3年はワクワクするような発表が出てくるでしょう。

セミコンポータル: これからの5Gに向けてどのようなロードマップを描いていますか。
J. Kimery: 当社は5Gの4つのベクトルと呼ぶ戦略を持っています。(1)マッシブMIMO、(2)ワイヤレスネットワーク、(3)物理層の拡大、(4)ミリ波、のそれぞれの研究です。2010年に大学関係や企業とのコラボを始めて、今は25~30のプロジェクトを手掛けています。公表できない企業も多いのですが、SamsungとNokiaは発表できた企業です。
その成果の一部が、GFDM(Generalized Frequency Division Multiplexing:従来のOFDMに替わる新しい変調方式)であり、2×2 MIMOであり、71-76GHzのミリ波での10Gbpsであることを示した実験です。
例えば、マッシブMIMOでは、6〜8本のアンテナとビームフォーミング技術を使い、セクタライズします。このことで、消費電力を下げ、エネルギー効率を上げ、入出力のスループットやキャパシティを増大します。この2年でアーキテクチャは変わりました。
また、物理層の拡大では、クラウドやより上位のレイヤーにも広げていこうとしています。NTTドコモは3GPPの物理層を得ています。さらにミリ波も含め、NIはこれらのプラットフォームを創りだしていこうとしています。そのためのツールがLabVIEW Communicationsです。ベースバンドやRF、さらにソフトウエアもこれで創ります。LTEやWi-Fiのアプリケーションフレームワークや、5Gでの新しい波形の研究にも使います。GFDMの開発者なら、チャンネルアナライザやコーダ/デコーダなど全てをソフトウエアで開発し、それをPXIやRIOなどの製品で実現することが可能です。研究者は5Gのソフトウエアを書ける環境ができた訳です。

(2015/08/25)

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