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半導体の歩留まりと信頼性は高いほど良いか?車載用は故障率ゼロがマストか?

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 5月下旬に関西で開催されるSEMI FORUM JAPANのマニュファクチャリングサイエンスセミナーから「歩留まりと信頼性」に関する講演依頼を受けた。その際、チェアマンとのやりとりの中で、以下のような話が出てきた。 1)歩留まりは高いほど良い、2)信頼性は高いほど良い、3)車載半導体など人命にかかわるものは、故障率をゼロにしなくてはならない。半導体業界において、これらの命題は、当然のことと思われているようである。果たして、それは、正しいのか?

歩留まりは高いほど良いか?
 2004年9月、ある日本のLSIメーカーA社から、あるアジアのLSIメーカーB社に転職したX氏へのインタビューを行った(図1)。その際、歩留まりに関する非常に興味深い話を聞いた。 その当時、あるデバイスについて、日本のLSIメーカーA社の歩留まりは98%、アジアのLSIメーカーB社の歩留まりは83%であったという。その数字を見て、アナリスト達は、日本のLSIメーカーA社の技術力が高いと評価した。しかし、X氏によれば、「そのような評価は全く意味がない」とのことであった。その理由は以下の通りである。

歩留まりは高いほど良いか?


 第一に、B社のチップ面積は、A社の半分近い。従って、12インチウェーハから取れるチップ数は、歩留まり83%のB社の方が、歩留まり98%のA社よりもずっと多い。

 第二に、歩留まりを60%から80%に上げるのは比較的やさしいが、80%から98%に上げるためにはそれとは質の異なる多大な努力が必要となる。つまり、人、金、時間など膨大なコストがかかる。B社は歩留まり80%以上ならビジネスが成り立つので、それ以上の歩留まりを追求する必要がない。つまり、歩留まり向上のために無駄にコストをかける必要がない。

 第三に、B社は、現在量産しているデバイスのシュリンク版について、4世代同時開発を行っている。つまり、現在量産している製品より更にチップサイズの小さなデバイスが、すぐ後に控えている。従って、現在の量産品の歩留まりを必死になって上げる代わりに、よりチップサイズの小さな製品の量産立ち上げを行うことに注力するのである。

 以上のヒアリングから、闇雲に歩留まり向上を追求するのは決して良いことではないということを考えさせられた。極論すれば、歩留まり1%であっても、それで利益が出てビジネスが成立するのならば、それ以上の歩留まり向上にコストをかける必要はないということである。

 もちろん、大した努力をせずして100%近い高歩留まりが出るのであれば、それに越したことはない。しかし、通常、歩留まり向上にはコストがかかる。特に、高歩留まりを目指すほど、そのコストは増大する。従って、自社工場がどの程度の利益(率)を目標にしていて、その利益(率)を実現するにはどの程度の歩留まりが必要なのかを明確に把握しておくことが必要だろう。何事にも費用対効果を考えることが重要であろう。

信頼性は高いほど良いか?
  2005年5月、ある日本のLSIメーカーC社に、D社から出向しているY氏へのインタビューを行った。D社は、あるデバイスのビジネスを打ち切った。そのデバイスの専業メーカーであるC社が慢性的な人手不足であったため、その要請から、D社はそのデバイスのスペシャリストY氏をC社へ出向させることにしたのである(図2)。

信頼性は高いほど良いか?


 C社は、市場シェアアップのために、台湾のファンドリーE社を活用しようとしていた。従って、Y氏は、あるデバイスについて、C社、D社、E社の3社を比較できる立場にあった。ヒアリングの結果は以下の通りである。

 要素技術については、C社が最も優れている。特に微細加工技術については、C社の技術は圧倒的に優れている。インテグレーション技術については、高性能・高品質なデバイスを作る技術はC社が優れている。一方、効率良く、低コストでデバイスを作る技術はD社が優れている。C社はマスク枚数も工程数も多く、“こてこて”である。量産技術については、ファンドリーF社が最も優れている。次がD社であり、C社は最下位である。スループットが悪いため、装置台数もやたら多く、D社の倍くらいあるのではないか?しかも、テスト工程が多すぎる。D社の10倍くらいあるのではないか?PC用のデバイスであることを考えると、このテスト工程の多さは異常としか思えない。Y氏は、最後に、「C社のデバイスは世界一高性能かつ世界一信頼性が高いかもしれないが、世界一高価である」と述べた。

 高性能・高信頼性がデバイスの競争力の源泉となっていて、利益を生み出しているのならば、C社の技術は素晴らしいといえる。しかし、実際には、PC用のデバイスがビジネスの主体であることを考えると、C社の技術には疑問符を付けざるを得ない。

 さらに、昨年からは、低価格PC(通称ネットブック)市場が急拡大している。もし、ネットブック用に、これまでと同じ製造方法および同じテスト工程で、同じ性能および同じ信頼性のデバイスを作っているとしたら、それは早急に改める必要があるだろう。

車載半導体などは故障率をゼロにしなくてはならないか?
 最後に車載半導体などは故障率をゼロにしなくてはならないのかを考察する。確かに、車載半導体の不具合により事故が起き、人命が失われることは問題であろう。車載半導体の故障率はゼロであるに越したことはない。

しかし、どんなに頑張ってみても、人工的な工業製品であるLSIが永久に壊れないということはあり得ない。すなわち、LSIの故障率をゼロにすることは、現実的に無理であろう。このような不可能なことを追求するよりも、万が一LSIが故障した場合でも、大事故にならないようなフェールセーフ機構を、クルマメーカーとLSIメーカーが共同で開発することを考えた方が得策なのではないか?

最小のコストで最大の歩留まり・信頼性を
 本稿では、歩留まり、信頼性、車載半導体の故障率について考察を試みた。簡単に高歩留まり、高信頼性、故障率ゼロが得られるならば、それに越したことはない。しかし、実際には、高歩留まりにするほど、高信頼性にするほど、および、故障率をゼロに近づけるほどコストがかかる。LSIのビジネスを行っているわけであるから、利益が出る最小の歩留まり、許容される最低の信頼性、および、許容される最大の故障率を目指すべきである。そのようなスペックを最小限のコストで実現する技術こそが、真に求められる技術なのではないだろうか?

 あなたの会社では、歩留まり、信頼性、故障率の目標値をどのように設定し、どのようにして実現しようとしていますか?この実現に必要なコストをきちんと見積もっていますか?



長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 客員教授

湯之上隆


筆者は、「歩留まりと信頼性」に関しては素人です。本稿は、言わば、素人から見た部外者の意見です。「歩留まりと信頼性」の専門家の御意見を拝聴したいと存じます。yunogami@gmail.comまでご連絡を頂きたくよろしくお願いいたします。

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