セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

もし、半導体の微細化が止まったら?(1)

|

 昨年、米国テキサス・インスツルメンツや日本のソニーなどが、相次いで45nm世代以降の微細化を行わないことを発表した。また、最先端のArF液浸リソグラフィ装置が立ち上がりつつあるが、次世代の高屈折率液浸開発は頓挫し(注1)、EUVLの量産適用には、技術的にも経済的にも大きな困難が予想されている。さらに、32nm世代以降を量産するためには、Cu配線抵抗の増大や微細トランジスタのばらつき問題を解決しなくてはならない。

 果たして、半導体の微細化はどこまで続くのだろうか?微細化の限界は、いつ、どのように訪れるのだろうか?もし、半導体の微細化が止まったとしたら、どのようなインパクトがあるのだろうか?
 本稿では、半導体の微細化が止まった場合、(1)半導体の品種別に見たインパクト、(2)品種別の市場規模および成長予測から見たインパクト、(3)アプリケーションから見たインパクト、(4)世界人口予測などのマクロ経済から見たインパクト、以上について考察する。


(1)半導体の品種別に見たインパクト
 半導体の品種別の微細加工線幅分布を見ると微細化の最先端を突っ走っているのは、MPUとメモリー、および一部のASIC&ASSPである(図1)。もし、微細化が止まった場合、MPUとメモリには、大きなインパクトがあると予想できる。すなわち、高速化、高集積化、および、低コスト化を一挙に実現する手段がなくなってしまうからだ。
品種別の線幅分布

 インテルがマルチコア化したプロセッサを開発し、サムスン、東芝、エルピーダなどが、TSVを用いたメモリの積層化を手がけ、ザイキューブが提唱した三次元実装技術が多方面で検討されている。これは、現時点で既に、微細化の限界が見え隠れし始めたことに原因があるといえるだろう。
 一方、一部のASICやASSPを除けば、ロジック、アナログ、および、ディスクリートには、微細化が止まったことによるインパクトは、ほとんどない。これらは、既に、品種固有の理由から、微細化する意味がなくなっているからだ。
 このことは、図2に示したウェーハ消費の線幅分布を見ても明らかである。微細化が500nm、350nm、250nm、…、65nmと伸展していっても、全ての半導体が最先端の微細化技術を使って作られるわけではない。65nmの微細化技術が開発されても、500nm以上のデバイス、350nmのデバイス、250nmのデバイス、…、〜90nmデバイスは、依然として製造され続けている。まるで、地層を重ねるように、65nmデバイスが付加的に製造されるのである。ただし、150nmデバイスおよび110nmデバイスのように、何らかの理由で、半導体市場から全く姿を消してしまうものもある。
ウェーハ消費の線幅分布

(2)市場規模から見たインパクト
 微細化が止まった場合、MPU、メモリー、一部のロジックにインパクトがあることが分かった。では、その市場規模はいかほどであろうか?2006年度の品種別の売上高市場規模(注2)を見ると、微細化が止まったとしたら(実際には止まっていないが)、DRAM $33.8B、NANDフラッシュメモリー $11.5B、MPU $33.2Bに影響が出る(図3)。この総和は、半導体市場全体 $262.8Bの30%に相当する。これに最先端のロジックを加えて、半導体市場の約1/3に影響があるといえる。逆の言い方をすれば、2/3には影響がないといえる。
半導体デバイスの金額ベース市場規模(2006年)

 ここまで、(無理矢理)微細化が止まったと仮定した場合の考察を行った。実際には、2010年以降、Cu配線の問題により微細化のスローダウンが始まり、2013年にトランジスタのばらつき問題、およびEUVLの経済的・技術的問題により微細化が止まる可能性がある。
 その時、最も大きなインパクトを受けるのは、どの品種か?品種別市場規模と成長率(2010年/2005年)予測(注3)から、インパクトを受ける品種で、最も大きな市場規模を持つものはMPU、次いでDRAMである(図4)。
品種別市場規模と成長率予測

 一方、最も成長率の高い品種はNANDフラッシュメモリーである。したがって、微細化が止まったことにより成長が最も阻害されるのはNANDフラッシュメモリーであるといえるだろう。ただし、東芝などは、NANDフラッシュメモリーの三次元化やナノインプリント の導入などを検討しており、これらのブレークスルーが成功すれば、更なる高成長が期待できるといえる。

 次稿では、PC、携帯電話、デジタル家電、クルマなど、半導体を中核部品として用いるアプリケーションに、どんなインパクトがあるのかを考察する。


(株)オムニ研究所 オムニTLO イノベーション推進本部 本部長
(株)三電舎およびK square micro solution(株)上級フェロー
長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 客員教授
湯之上隆




注1:5月16日、ニコンは、高屈折率液浸の開発を中止すると発表した。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080516/151861/
注2:VLSI Report SPECIAL SURVEY 42 2007半導体マーケット・企業、プレスジャーナル
注3:アイサプライの予測による。
注4:ナノインプリントは、1995年に米国プリンストン大学(当時はミネソタ大学)のChou教授により開発された。機械プレスをナノパターン形成に用いる技術であり、電子ビーム露光とドライエッチング技術で作製したシリコン酸化膜モールドを用いてポリメチルメタクリレート高分子薄膜に10nmパターンの転写を実現し、この技術がナノ構造デバイスのための量産技術となりうることを示したことで世界的に注目を浴びた。

月別アーカイブ