セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

PVが牽引するクールアース

PVとはPhotovoltaicsの省略形であって太陽電池を意味する。この技術も基盤はわれらの愛する半導体である。PVが大きなブームになって来た。

PVのブームはグリッドパリティの実現に依っている(http://www.semiconportal.com/archive/blog/insiders/oowada/post-100.html)。即ち、PVを家庭に導入したオーナーは経済的に利益が得られるという欧米で実現してきた事情のおかげである。

さて、今回はPVの動作原理のレビューから始めて見たい。代表的なPV素子はシリコンPN接合である。PN接合に太陽光が入射して光電効果を起こさせる。アインシュタインが1907年に発表した正しく美しくわかりやすい原理に依っている。粒子である光エネルギーがシリコンのバンド幅1.1eVより大きければ光はシリコンに作用し光電効果が起こり、電子・ホールの対を作ることができる。元々、シリコンのバンド幅が1.1eVであるのは偶然だが、これが太陽光のエネルギー帯とちょうど一致している。集積回路の主材料として発展し大量生産されている安価な半導体材料のシリコンが、太陽電池として使えるとは!人類は多いに幸運、ラッキーと言わなくてはならない。

光粒子の入射によって自由電子は伝導帯に、自由ホールは価電子帯に発生する。自由電子とホールの源泉は価電子帯を形成しいている価電子の海だ。PN接合には遷移領域があって、そこにおける電界で掃引され自由電子と自由ホール対は分離される。ホールはP型に電子はN型領域にそれぞれ集まる。

例えば外部回路に電球をつなぎ、そのPN接合と結線すると、自由電子は電流になり流れて電球を通過しP型に到達する。この電子はP型の中では少数キャリヤであって多数キャリヤのホールと再結合する。電子は電球を通過して光を発生する、即ち電池が仕事をしてくれたことになる。

この場合、電子流の向きはP型−電球−N型であってPNダイオードにはあたかも逆バイアスが印加されたように働く。実際、太陽光は電圧が印加されたのと同じ効果を作り出す。太陽はこの作用で逆電流を相当に増やしその逆電流は電球を光らせる。

こんな中、世界のビジネスにおける競争は激しさを増してきた。PV事業において中国企業Suntechの生産量が急増している。韓国Jusung Engineering Corp.は、最近薄膜太陽電池の量産用製造装置の供給を開始したと、今年3月に発表した。薄膜を導入して安価にかつエネルギー効率を上昇させるのが狙いだ。台湾のMOTECHやフイリッピンのSunPowerも生産を増やしている。これはPVのグローバル化といえよう。3月19日の三菱電機のプレスリリースによると、同社は、多結晶シリコン太陽電池セルにおいて、世界最高の光電気変換効率となる18.6%(同社従来比0.6ポイント向上)を達成した。これにより、狭小屋根など限られた設置スペースでも、より多くの発電量を確保できるようになった。

グリッドパリティを支援するドイツのFeed in Tariffが地球温暖化対策に有効なことは前回に述べた。PVのオーナーはFeed in Tariffを支える法律によって発電電力を、驚くなかれ商用電力の100%から200%もかさ上げした高値で売ることができる。現在、日本ではこんな制度も法律もない。これでグリッドパリティを達成できる時期が大幅に早まる。

旧通産省はサンシャイン計画をスタートしたが、今や既にサンセットを迎えた。次は何か?と、考えた経産省はこのままでは世界から取り残されると感じたのだろう、「革新的太陽光発電」を打ち出した。クールアースと名付け2月に発表した資料で、経産省はドイツが累積導入量で日本を凌駕したと述べて危機感を募らせている。

現在最高で18%になった多結晶シリコン基板の光電効率は、欲を言えばもちろんキリがなく、さらにその上を狙いたい。今年3月に千葉県で開催されたG20(主要20カ国閣僚級会合)で共同議長を務めた経産省はその場で「革新的」な太陽光発電の計画を発表した。現在のPVを第一世代とし第二世代は主として薄膜素子を考え第三世代は量子ナノ構造に進むとしている。加えて発表したロードマップに依ると、量子ナノ構造のPV開発完了は2040年頃だ。このタイミングでは変換効率が40%でコストが7円/kWhと大胆な予測をしている。

ただ、国民としてはもの足りない。仮に全ての計画が成功裡に進んで2040年に量子ナノ構造で発電コストが7円になっても、その間30年を越える期間の繋ぎはどうしたら良いか?やはりFeed in Tariffに匹敵する支援策が要ることは間違いない。その普及策は何か?経産省は考えているのだろうが、未だ見えて来ない。わが国はどうしてもソフトパワーに弱い傾向にある。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

月別アーカイブ