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経営者は潮の流れを読むべし

いかなる企業であっても顧客を探し売り上げを計上しなくてはならない。従って顧客とのコミュニケーションが必要だ。顧客がどんな心理で製品を買い求めるかは永遠のテーマである。よってこのテーマを導くトレンド、即ち市場の潮流を見極める力が企業の経営者に必須になる。

トレンドを市場で探る作業をマーケティングと称するが、その認識も手法においても欧米企業が一段と進歩している。1980年代から外資のハイテク企業で働いた私は、職場にセールス部とマーケティング部が共に独立して存在していた事実を経験した。日本の多数の企業なら営業部の名の元にセールスとマーケッティングはひとつの組織が何となく担うことが多いが、欧米企業では小さな会社でも組織を分けることが多い。

残念ながらわが国の企業はマーケティングの理解が甘く重視しない傾向があり、そのために営業部の名の元にセールス活動をしながら何となくマーケティング活動もしているのが実態だ。

もちろん、例外は存在する。それはウォークマンに見るソニーである。1979年にソニーから発売されたウォークマンは当時の盛田会長が発明しトップダウンで開発した。当初は社内で90%以上の営業、即ちセールスのプロが「売れるわけがない」と切捨てた、とされた。

しかし、会長は反対意見を押し切り開発を進めた。盛田氏は真夏に湘南の海岸で最先端のファッションを身につけた美しき若い男女のアルバイトら数10人にウォークマンを貸与し楽しみつつ歩き回らせた。文字通りウォークマンが歩いたのである。結果、口コミが爆発して問い合わせが殺到した。

このような素晴らしいマーケティング手法を盛田氏は考案した。トレンドを市場で探るどころか、近未来の流行のトレンドになるシーズを市場に撒き散らした。こんにち鶏インフルエンザがパンデミック(世界規模で広がっていくさま)に蔓延する、などと言われるが、日本人には未経験だ。でもウォークマンこそ日本の若者が経験した最初のパンデミックと言えよう。

反対した社内の営業部隊に対して盛田氏は圧勝した。その後、盛田氏は逝去され、この事実は永く伝説化した。事例は、マーケティングの本場米国でMBAの教科書にもなった。そのコアである「ウォークマン」は永く類似製品のトップであり「絶対売れる」製品になった。

現在の日本企業の問題は、マーケティングを牽引する能力で盛田氏に並ぶ人材が欠けている事実だろうと考えざるを得ない。

25年後の2004年は当然、潮流が変わっていて当り前だ。潮を読んでiPodを売り出した企業がアップル社だった。この間の時代は進展し、PCが普及しインターネットが広まり携帯電話が当り前になった。いかに伝説の製品でも25年持つ流行性の製品は皆無であろう。ウォークマンよりも軽く携帯性に優れデジタル製品で音楽を安価に手に入れられ数千曲も持ち運べる商品が出現して価格も同程度なら勝負は直ぐに決まる、事実そうなった。ウォークマンとその後継製品はiPodの敵ではなかった。

経営者には市場の潮を読む感覚、センスが必須であろう。半導体の組織であるSEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)にはこの点で優れた経営者が揃っている。SEMIに入会すると優れたネットワークにてグローバルなマーケティング機会が広がる。SEMIの活動では半導体製造装置や材料の国際標準であるSEMIスタンダードを推進している。

例を示せばSEMIは300mmウェーハの一部の仕様を非競争領域に決めた。そしてその国際標準を日本のチームが中心になって開発作成し発行した。結果はここでは競争が排除されウェーハメーカーは別の土俵で勝負する。顧客であるデバイスメーカーは整備された標準化の結果として比較的安価な300mmウェーハを入手することが可能になった。

DVDの世界は日本企業がリードしているが、SEMIに相当する組織がなく潮を読める経営者もいなかったのだろう、300mmに見られるような共通標準を開発する機会はなかった。それゆえに今回は、ソニー対東芝間で2つの規格が提案され消費者を無視した不毛の闘いになってしまった。勝者と敗者が生まれそして迷惑したのは消費者であった。ビデオテープでも同じような戦いが30年前にあったが、ソニーも東芝もこの30年間は学ばずに同じ様な闘いを繰り返し消費者を困惑させてしまった。

現在の潮の流れはブロードバンド化が進むインターネットだろう。よって光ディスクの将来を見れば、VHSテープのような普及の拡大はまずないと思うべきだろう。好例は、上記のウォークマン対iPodだ。潮はどんな製品を示唆するか?たぶん大容量フラッシュメモリー等を備えたデジタル機器でフラットパネルの大画面を備え、ネットからダウンロードして映画を見ることが出来るネットテレビのようなデジタル機器だろう。

アップルには潮を読む経営者がいる。その先進性はネットで音楽信号をダウンロードする仕掛けを早く作ったことにもあったが、映像でも同様な進展が必要になる。日本企業が協力してこの仕掛けでリードして欲しいと願う。この仕事は経営トップの仕事でなければならない。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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