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青の奇蹟

半導体開発には波乱万丈の歴史がある。日本には「青天の霹靂(へきれき)」と言う表現があるが、そのように呼んでふさわしいブレークスルーには枚挙に事欠かない。

 青天の霹靂とは、広辞苑によれば、青空ににわかに起る雷に由来し予想を裏切る変動や大事件を意味する。雷は雨を呼び「干天に慈雨」となり豊作をもたらすと考えるのがよい。青天は晴天ではなく青という字が要である。実は英語でも青天の霹靂を表現することができるが、それは、Out of blue! である。日英ともに青を使う不思議さがある。期待しない事態が唐突に発生して相当に驚いてしまうのが、Out of blue! というわけだ。

 青天の霹靂がふさわしい干天に慈雨が産んだ半導体のブレークスルーは何と言っても徳島発の青色LED(発光ダイオード)であろう。青色LEDは日亜化学工業という半導体メーカーではない、徳島県の企業にいた青年の中村修二が1993年に発明した。この意味は深い。単に青い発光を観測しただけと考えてはいけない。これまで、赤や緑を発光するLEDは存在した。これに明るい青が加わりRGB (Red、Green & Blue)が完結する。RGBによりフルカラーの表示ができるようになる。

 存在していたR&Gに加えて今度は青を狙うという野心を持った若い科学者は世界に大勢いた。でも、傑出して成功したのは中村だけだった。

 青い発光が工業的に完成すると人々の生活はどう変わるか?真空管が固体である半導体に駆逐されたように真空封止で作られる白熱電球を、人類は捨てることができる。白熱電球のエネルギー効率は5%と大変低く、投入エネルギーの95%を熱として捨てている。このため電球は熱くて持てない。真空封止で作られる他の照明である蛍光灯は水銀を使う。水銀は水俣病の原因となる有毒物質であり、環境を汚染する元になる。先進国では蛍光灯を安易に廃棄することを禁じている。

 LEDはRGBを加えて白色光を作ることが可能だ。この固体光源はエネルギー効率が相当に高い。したがって大きな省エネが可能になる。照明において白熱電球が捨てる無駄なエネルギーの80%が節約できる。世界中の電力の4分の1を照明が消費するとされているので、25%×95%×80%ということから合計19%を節約できることになる。

 では青い発光を得るにはどうするか?LEDの発光理論からすれば青に相当するエネルギーバンド幅の禁止帯を有する半導体を探すことから始まる。それはIII-V族半導体の窒化ガリウム即ちGaNである。ではGaNをどのようにして作るか?

 中村は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition) という技術で GaN を仕上げた。真正の青の発光には、実はGaの一部をインディウム(In)で置換する必要がある。置換量を微妙に調整して初めて青い光が発せられる。

 GaNなら青色の光が出ることは、理論上わかっていた。しかし、学会でもそうだったが GaNは人気がなかった。難しくて成果が出にくいので論文が書けないからだ。その上にInでGaを置換する、この難しさを克服する必要があった。このことは世界の競争者を減らした。リスクを避けた者達は成功に到らなかった。リスクを取った中村が大きな成果を勝ち取った。

 発光効率を上げるにはどうするか。PN 接合を形成し正バイアスを印加し電子と正孔を注入する場所に有効な量子井戸を作らなくてはならない。有効な量子井戸は欠陥がない良質の結晶であって空間的に狭いことが好ましい。そうすると電子-正孔対は狭い井戸の中で再結合する確率を増やす。しばらくして中村の青い光は発光効率10%を越えて世界はその事実に驚いた。

(次回へ続く)

大和田 敦之 エイデム代表取締役

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