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半導体人口の「減少」を食い止めるために

本年9月に都内で開催されたイノベーションジャパン2008(独立行政法人科学技術振興機構主催)において前総理の安倍議員が元気に基調講演を行い、イノベーションの重要性に触れた。「イノベーションなくして我が国の成長はない」と述べ、特に半導体におけるイノベーションに言及し、半導体技術がインターネットとコンピュータ技術を牽引することを指摘した。続けて、半導体がデジタル技術の基礎になり電子マネー、遠隔医療やJRのスイカ等が実現した、と述べた。

8月に会った知人が言うには「日本の半導体人口は減少している」という。その方は産業界に長く活躍された方で、内外の学会にも頻繁に出席して、自らの経験から述べられている。筆者もその通りだろうと思う。この事態は全く好ましくない。なぜなら日本の半導体産業は繁栄すべきだし、半導体人口減少はその繁栄の方向にブレーキをかけてしまうからだ。ここで述べる半導体人口とは、半導体事業から収入を得ている人々である。そのような人材はデバイスメーカー、装置メーカー、素材メーカー、設計ツールメーカー、半導体商社等で活躍する人々であろう。

確かに就学人口は減っていて私立学校などは経営が大変だ。だからと言って半導体人口が減って良い訳ではない。半導体人口が就学人口にリンクして減るのは、今の半導体産業が非戦略的である証拠であって潮流に流されるまま漂流していることになる。一方フリーターやニートは増加しているらしい。

日本の半導体産業に戦略性を持込み、産業を活性化させなくてはならない。なぜ、活性化させるべきかについては明らかだ。「清く貧しく美しく」を排し、日本は更に豊かになり幸せになる王道を歩くべきだと思うからだ。そのためには日本がビジネス上の競争で世界に勝てる分野を持ち、それを強化する必要がある。日本の強さは間違いなく「ものづくり」であり分野の大きな柱はエレクトロニクスだ。そのエレクトロニクスを支える中核が半導体技術だと言える。

1980年代後半、我が国の半導体は市場シェアの半分を越え世界を制覇した実績を持つ。再び世界一になることは戦略を樹立してプレーヤーが努力すれば可能だと信ずる。私は少々時間がかかるが教育から始めるのが良いと思っている。ノーベル化学賞を受賞した野依博士は日本経済新聞の9月連載記事「私の履歴書」の中で次のように述べている。「将来の展望が描ききれない日本の現状は、大変厳しい。世界が知識基盤社会の競争に邁進する中で存在感が薄い。志ある次世代のリーダーを育成できない高等教育機関など問題は山積する」。即ち、大学院、大学、高専等から改革が必要だ、としている。

SEMIは同じ視点で高校生を対象に教育プログラム「ハイテク・ユニバーシティ」を始めた。見て、聞いて、そして触って、「半導体ってスゴイ」ことを教える。そのすごい半導体事業に参加し盛上げるのはしかし容易ではない。レベルが高い数学、物理、化学そして英語などをマスターしないとおぼつかない。ただし、そのような山を越えれば半導体企業は必ずその門戸を開いて迎え入れてくれる。しかも高給で、としなくてはならない。即ち、半導体企業が改革して競争力をより高めるためにこれまで以上に優れた人材を迎える必要があることと信じている。トップクラスの人材の奪い合いは当然だ。本年8月18日号の日経ビジネス誌は「さらば工学部」と題する特集記事を載せた。工学部が嫌われて入学者が減っている。学科が難しく卒業しても高い給料が払われない、との不満も底にある。

外国が優れているとは必ずしも思わないが、彼等が成功していればその中身を知るべきだろう。筆者が働いた米企業は2社とも卒業学部で初任給に差をつけていた。物理、化学、コンピュータサイエンス等の専攻者の初任給が他よりも高かった。一方、一部の日本人エンジニアは海外半導体企業にスカウトされている。だが逆はほとんどない。「半導体ってスゴイ」だけでなく、インセンティブも必要だ。高給だけでなく職場の魅力も重要である。明るくオープンで働いて充実感や達成感が多く得られることが大事だ。

精神科医、和田秀樹は著書「意欲格差」を著わして人々の意欲減退を指摘した。今の日本に下流に向かう人達がさらに増加している事態をデータで示した。現在の半導体の世界ポジションを含めて競争を回避し見かけの安定に満足すると海外でよりたくましく上昇意欲を持つ競争相手に勝てない、としている。勝つためには心の底にある意欲を刺激して相手以上に努力をすべきだという。

人生を生きて来て意欲があった友人、そうでなかった友人を多勢知ることになったが、和田医師が指摘する意欲格差の問題は正しいと思う。今後、日本はこのような視点からも改革を試み世界のトップを歩む工業国家を目指さないと子孫は下流に流され貧困への道をゆっくりと進むだろう。私のトップクラスの友人には、半導体分野において世界と競争しながら進む人々もいるが、大勢の若い人々が世界レベルの実力を身に着けて日本で活躍して欲しいと願う。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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