増加する電力消費、グリーンITは期待できるか?
景気が減速している。5月8日の発表で内閣府は「回復の動きに足踏みがみられる」として懸念を表した。原油高が突出しガソリン価格のみならず輸送費や食料品価格などにも波及して来た。
景気の良さは種々の指標に表れるがGDPの要因は大きいと考えている。政府の資料によると我国の2000年から07年にかけて名目GDP値は504兆円から516兆円であってこの間の成長率はわずか2.4%程度しか達成されなかった。一方、電力消費は同じ時期でGDP成長率より大きく13.5%になった。景気が電力使用料を牽引するだけでなく、景気を上回って電力を皆が消費している。なぜだろうか?この間の事情を論じてみたい。
地球規模の温暖化が進んでいるとされるにも関わらず、電力消費は増加の一方で減少する気配はない。このうち家庭の電力消費が問題であろう。日本の家庭には冷蔵庫、エアコン、照明、テレビとDVD録画機、温水トイレ、衣類乾燥機、食器洗浄乾燥機、ファックス、PCなどがある。情報機器も電力消費が多い。PCの増加は大きく、IDC社のニュースによると世界レベルで出荷増加は07年では21.8%にもなった。最近、内閣府はポスターを作って節電を呼び掛けた。この資料によると、今や日本の民生部門が消費する電力は年平均6.6%も伸びている。
インターネットでは、ホームページのページビューが急増している。ページビューと言うのはウェブにおけるアクセス数の単位の一つでウェブサイトの訪問者のブラウザにHTML文書(ウェブページ)が1ページ表示されるのが1ページビューである。以下ページビューをPVと略すると、通常、訪問者はサイト内の複数のページを閲覧するため、訪問者数よりもPVのほうが数倍多くなる。ヤフージャパンの2007年5月度の月間でのPVが318億PVを突破、ついに世界第1位になったことがネットレイティングスのニュースで明らかになった。世界では意外にも日本語のPVが多いと言われている。2位~5位は以下の通りである。
2位:米国Yahoo!……316億PV
3位:News Corp. Online……296億PV
4位:Google……212億PV
5位:Microsoft……155億PV
PVが急増していることはサーバーが増加していることを意味する。ガートナー社の調査によれば、06年のサーバー世界市場において、ブレードサーバーが著しい成長を見せている。報告によれば、出荷台数ベースで33.0%増になった。サーバー全体では金額ベースで2%増、出荷台数ベースで約9%増である。サン・マイクロシステムズ社が推進するのがエコ・イノベーション・コンテナ型仮想データセンターと呼ぶプロジェクトブラックボックスである。これは電力、設置面積、冷却の問題を一気に解決するべくボックス型のサーバー格納箱である。これで作ったデータセンターを地下に設置して発生熱の冷却を効率化することが出来る。
サーバーを構成する主体は半導体である。今や半導体があらゆる電子機器の主体になりホストコンピュータやPCを産みインターネットの原動力になっている。半導体がなければ、今日のインターネットはなかったものと考えられる。工場などの生産現場では照明や動力制御に半導体が相当に使われている。冷暖房も半導体が制御している。新幹線の運転席にあるダッシュボード機器は半導体の塊になっている。ガソリンで走る乗用車も原価に占める半導体率は30%を越えている。その内、電気自動車が普及するであろうが、ますます半導体が乗用車に使われるはずだ。
金額で見た半導体産業の成長率を統計がしっかりしている米国半導体工業会(SIA)の資料で見てみたい。データは世界の半導体売上高である。2000年の154億9000万ドルが07年では201億ドルへと増加し累計で30%の伸長であり、さすがに半導体の成長は高いといえる。一方、この事実は金額に関することであり、半導体の数では断じてない。歴史的に半導体デバイスは値上がりし難いどころか値下がりがあたりまえになっている。
最近はあまり使わないが、人々はそれをラーニングカーブと呼んだ。デバイスの生産量が倍になれば価格はほぼ70%に下がる、と言うものだ。半導体産業に於いてラーニングカーブを達成した原動力は、拡大ウェーハサイズや自動化に代表される生産性向上の力と歩留まりの向上に依存したコストカット効果だった。インテル創始者のムーアが発見したムーアの法則は、インテルジャパンの定義で次のように表わされる、「半導体チップに集積されるトランジスタの数は約2年ごとに倍増する」。よって、ラーニングカーブの存在と併せて考えると00年から07年の8年を2で割り4回転まわるから、一回転の倍増で四回転、即ち2の4乗で16倍のトランジスタ数の恩恵を受けるシナリオである。
したがってこのままでは温暖化ガスが減らない。我々は避けて通れない道に入り込んでしまった。半導体デバイスはこれまでも低消費電力化を進めてきた。しかし、トランジスタ数がこれほどまでに増加してきたため、これまでのような低消費電力技術では間に合わなくなってきている。待機時の消費電力は微細化と共に増加する傾向にある。ゲートリーク電流が増加するためだ。動作時の消費電力はクロック周波数増加と共に増加する。リーク電流に対しては、サラウンドゲートなどの3次元構造によりで減らす。クロック周波数の増加に対してはクロック周波数を上げずに並列処理プロセッサ方式であるマルチコア技術により対処する。
昨今、早くも消費電力の増大に気付いてグリーンITを進める動きが下記のURLなどに出て来たがこのような運動を多いに進めるべきであろう。 http://itpro.nikkeibp.co.jp/green_it/index.html
半導体デバイスの低消費電力化をいっそう進めると共に、冷却技術にも取り組む必要があろう。