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米国のウェーハファブ企業に転職した頃の想い出

今回は、1970年頃米国半導体ファブ企業に転職した体験を描いてみたい。もちろん、今とは時代背景が全く異なる。集積回路産業は黎明期であり、ICが中心となるエレクトロニクスビジネスが産業のコメなどと言われ、ビジネスの世界をばく進していた。

当時、日本の若者で渡米する人々はまだ少数であり、留学生や商社の社員、旅行者などがいた。筆者のようにいきなり現地会社の社員になる人は少数だった。職場では仕事の時間帯は言うまでもなく、英語漬けになる。昼休みは、商社マンなどは日本人グループだけで過ごし日本語を使えるが、筆者にはそんなぜいたくはなかった。職場にいたのは世界からやって来たさまざまな人たちだった。

当時は転職に踏み切る人も少なく、そのせいか入社に際しては丁寧に扱ってもらえた。タイプされた数頁の英文のレターが入社前に郵送されて来た。その内容は詳細に渡り、給料のことを中心に金額がなぜそうなるのかという詳しい説明があった。それに留まらず、子供二人を含む3人の家族の渡米ビザを、会社の費用で取得するなどと書かれていた。

テキサスインスツルメンツに入社した時の上司は、ドクター ロバート ウエイクフイールドという方で、私がDr. Wakefieldと呼びかけると、「そうじゃない、ボブと呼ぶように」と言われ、ボブに落ち着いた。

米国でも競合企業のことが気になるのか、インテル社の1101なる初期のDRAMを分析する仕事も、その頃に命じられた。この仕事は、私にとって大変に役立ちDRAMの勉強ができた。仕上がりを報告すると、その結果をレポートに書く前に皆の前で発表するように命ぜられた。準備して会議室に行くと聴衆は30人くらいいた。スライドを使ったプレゼンを行い、そのまま終わるのを期待したが、プレゼンの後も解放してもらえずに上司のボブが司会してQ&Aのセッションに移行した。Q&Aでは多数の質問の矢が飛び、答えるのに苦労する場面もあった。そして2時間ほどで全てが終わりほっとした。

ファブで作っていたのは、バイポーラのTTLや、MOS構造のDRAM、そしてMOS電卓チップなどだった。筆者はその内にProduct Engineerといわれた技術職を担った。Productはもちろん、デバイスを意味する製品のことだが、ファブで発生する大問題の一つは低歩留まりに尽きた。ピン数に匹敵する数の探針をチップ上に立ててデバイスが動作するかどうか、その機能を検査するマルチプローブの作業を行い、低い歩留まりのロットが判明した。

歩留まりが10%台だと大変に生産効率が悪い。ウェーハを投入してロットをスタートさせても10%では、ウェーハを大量に投入しても顧客が要求する数量になかなか到達しない。Product Engineerの最重要課題は安定して歩留まりを80%台以上に保つためのロット解析だった。そのためには実際にいかなる不良が多発しているかを知る必要がある。Yield loss mechanism identification(失われた歩留まりのメカニズム解明)と名付けた作業を延々と続けなければならない。この作業を実行して何が悪いのかを突き止めなくてはならない。

例えばコンタクトがオープン不良になる。リソグラフィとエッチングと洗浄作業でコンタクトホールを形成しメタルフィルムで全体を被いそのメタルをパターン化すれば、電流はコンタクトホールを通って流れるはずだ。でもそうはならないことが多々発生する。そうなると歩留まりは急降下してしまう。メタル-シリコン間に意図しない絶縁フイルムが出来て歩留まりを下げるのだ。このような事実を突き止めて低い歩留まりを改善していくのがYield loss mechanism identificationの作業だ。もちろん、他の原因による歩留まり問題も多発する。例えば、MOSICでは、ゲートしきい電圧が不当に大きくても不合格、不当に小さくても不合格になるため歩留まりは低下する。それらが解明されれば、その情報を基に、後はProcess Engineerが対策を打つことが可能になる。

Yield loss mechanism identificationという英語を使ったのは筆者のみであった。この言葉は筆者が必要に応じて使ったわけで、上司や同僚は理解してくれた。でもあまり使う必要がなかったのか使わなかった。これを検索してもおそらく出てこないだろう。理由は筆者のみが1970年頃に勝手に作り米国で導入した言葉だからである。

同様の言葉で米KLA社のRick Wallace氏などが1980年代後半に多用した英語がある。それは、Root Cause Search(歩留まりが低い根本原因の探索)という言葉だ。さすがに洗練されており、大変にわかりやすい。ただ、この言葉は誤解を招きやすいかもしれない。Root Cause Analysisという言葉もあるからだ。後者の言葉は、機器に組み込まれたICが故障する、いわゆる市場不良を意味することが多いようだ。ただし、Rickは、KLAのセミナーでは間違いなく歩留まりの低さを意味してRoot Cause Analysisという言葉を使っていた。だからこそ、言葉は米国人でさえ、曖昧になることがある。技術の議論では、常に言葉の定義を確認する必要があるかもしれない。

注)Analyzing Semiconductor Failures – From Evidence to Root Cause (2013/03/17)

エイデム代表取締役 大和田 敦之

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