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東芝の16積層NANDフラッシュにみる技術力

東芝の半導体技術陣の実力は、同社が経営問題を抱えている現在も衰えを見せていない。そのことはこの8月4日に発表した256GBのNAND型フラッシュメモリ(参考資料1)を成功裡に開発したことで伺える。それは、TSV(Through Silicon Via)技術を使って16チップ層を貫通した3D構造である。この16層は、製品としては世界でも最高レベルだ。

シリコンバレーにあるサンタクララにおいて8月11日〜13日の3日間開催された「Flash Memory Summit 2015」でこのデバイスを東芝は展示した。TSVはシリコンウェーハに縦穴を掘り金属を埋め込んで結線を構成する手法で、製造には難しいプロセス技術を必要とするが、東芝はこの技術をマスターしたのだ。

デバイスはこのTSV構造のために配線に伴う寄生容量、寄生抵抗が最小に留められ、結果として速度は同等製品と比べて速く、かつ消費電力は50%程度、削減されている、と東芝は主張している。データ書込み(プログラミング)、そしてデータ消去には、高い電圧が必要だが、これらを実施するコア電源は1.8Vに、そして入出力のI/O電源は1.2Vに抑えられた、と東芝は発表している。

フラッシュメモリは最初NOR型が東芝で開発され、1984年のIEDM(International Electron Device Meeting)において、当時東芝社員の舛岡富士雄(敬称、略)が発表した頃から始まり、東芝には長い歴史がある。1992年、東芝とSamsung Electronicsはフラッシュメモリの共同開発と技術仕様・製品情報の供与契約を締結する。これを機にSamsungは、フラッシュメモリの事業に参入し成功している。NANDフラッシュメモリの世界ランキング(参考資料2)、例えば2014年第4四半期におけるDRAMeXchangeの発表では、売上額が24億4050万ドルで三星がトップ、2位東芝は、19億1490万ドルである。興味ある事実は、SanDiskの存在だ。SanDiskはウェーハファブを保有せずに東芝のファブでものづくりをしている。2014年第4四半期のデータで3位、15億8960万ドルを売り上げた。面白いことに東芝とSanDiskの売り上げを単純に加算すると、35億450万ドルになり、三星を超えて世界一になる。

256GBとは膨大な数である、最近ソフトバンクの社長が2018年には1チップ上のトランジスタ数が300億個を越える旨の予測を発表したが、256GBは16チップのメモリとはいえ、その数を楽に越えた。256GBはメモリービット数だけを計算しても、1ビット= 1 トランジスタなので、トランジスタ数 = 256×1024×1024×1024、即ち27.4878×10の15乗となり、300億 = 3×10の10乗を越える。もちろんデバイスは、センスアンプ、I/Oバッファ、アドレスデコーダ等も含み、各々全てトランジスタを必要とする故に、2018年を前にして問題なく300億個越えが実現した。

東芝はこの技術を完成させるのに際してNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の知恵を借りた、としている。NEDOの関心は、超低消費電力デバイスなので、消費電力が50%程削減されたこのデバイスの成果を議論したのではないか、と筆者は勝手に推測する。

筆者が注目した点は更にあり、それはTSV特許だ。TSV技術はSiemens社が1994年5月に米国に出願して始まった。それは米国特許公告番号US57670001Aで、発明者は、E. Bertagnolliと H. Kloseの2人だ。出願日から20年が無事に過ぎた。全世界の数多の人々が先例などの公知資料を提供して無効審判を試みたはずだが、それに耐えて生き延びた。特許は無事に有効となり、その20年の寿命を2014年に全うした。東芝は幸運だ。なぜなら強かったSiemensの特許が昨年切れ、過去の遺物になったからである。東芝が開発したこの256 GB NAND フラッシュメモリはこれから本格商戦に入るものと期待している。


参考資料
1. 東芝:世界で初めてTSV技術を用いた最大16段積層NAND型フラッシュメモリの開発
2. NANDフラッシュ、大手トップ3社を下位3社が追いかける (2015/02/17)

エイデム 代表取締役 大和田 敦之
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