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半導体が進める自動車の電子制御

半導体の市場が広がりその需要が更に拡大することを期待している。乗用車が中国など新興国で普及しその絶対数が拡大すること、そしてその上で個別の車が搭載する半導体の数量が増大する。そんなシナリオが進んでいる。

自動車に搭載される半導体は、ECUと称されるElectronic Control Unit(電子制御)に含まれているが、ECUはEngine Control Unit(エンジン制御)という場合もあり混乱する。本稿では前者を意味することにする。ECUはユニットなので個別の超LSIを指すのではなく、通常はプリント基板上に構成される電子回路と考えることができる。ECUを例に搭載数の増大の例を見てみよう。2006年の発売のトヨタレクサスLS460のケースでは100ユニットを越えるECUが搭載されているとしている(参考資料1)。

車の半導体化において初期の実例は、オルタネータ用ダイオードであろう。オルタネータとは充電(発電)装置であり、エンジンと共に回転し発電しながら電池に充電する機器だ。この機器に使うシリコン製のダイオードを筆者が新入社員だった時に同期の友人が担当していた。もちろん、オルタネータ用ダイオードはディスクリートだが、集積回路が現れたのは1970年になってからだ。クルマ1台当たりのECU搭載数は,1992年〜1993年ごろまで30個程度だった(参考資料2)。それが上に述べたように2006年には100ユニットを越えた。

ECUによってエンジンを制御することは自動車の重要課題の一つだ。ECUはCPUを備えたコンピュータであり、各種センサからの情報やデータを認識し最適な情報を送り出す。例えば、エンジンの作動に重要な点火タイミングは制御対象の一つだ。燃費を上げるには点火のタイミングは最適でなくてはならない。平坦な路面を安定した巡航速度で走っているなら、噴射量はなるべく少ないことが好ましい。気温やエンジン温度も重要だ。起動直後とスタート時から30分後では、もちろんエンジン温度が異なるが、ECUは正しく最適条件を作り出しクルマを制御できる。

クルマ1台当たりのECU搭載数が増加している一方、クルマの普及も目覚ましく大きい。平成19年の段階で日本に乗用車は約5,785万台存在するとのデータがある(参考資料3)。なお、ここでは乗用車とは普通車に小型車と軽四輪車を加えたものだ。全人口を1億3000万人とすれば、人口に対する保有台数の比率は実に、44.5%で我が国は自動車王国と言える。

一方、新興国はどうなのか?例を中国に採ろう(参考資料4)。調べると中国の自動車保有数は、7,722万台と、日本を越えてアメリカに次ぐ数だ。同じ資料だが1990年代では200万台程度だったのでこの増え方は爆発的だ。データが少ない中国なので中国産のクルマの半導体搭載数まではわからないが、それでも、中国でのこの増加の勢いは搭載の多い輸入車も相当に多いはずで頼もしい。ルネサスは自動車向けの半導体で競争力が高い会社だが、2014年3月期が増収に転じた背景(参考資料5)にこの様な新興国での自動車の急増が良い方向に働いたことは間違いなかろう。

5月21日の日本経済新聞朝刊は、トヨタが「HV用新型半導体」を開発したと報道している。HV即ちハイブリッド車の燃費を高める新型のパワー半導体だ。この記事によると、トヨタ内で試作段階まで進んでおり既に燃費5%を改善している。将来は10%にまで改善の成果を高める計画だ。これを実車に搭載するのは2020年以降だという。開発にデンソーと豊田中央研究所もかかわった。駆動モーターとそれにパワーを供給する電池からの電力を効率よく制御するPCU即ち、Power Control Unit(電力制御ユニット)の主役である半導体にはシリコンカーバイド(SiC)が採用された。

素材のシリコンカーバイドは化合物半導体である。化合物半導体はガリウムヒ素など、III属とV属の元素の組み合わせもあるが、シリコンカーバイドの場合はIV属同士の組み合わせだ。シリコンの溶融温度は1410℃に対して、シリコンカーバイドの融点は高く2730℃あり、それ故に熱的にも安定な素材なのだ。シリコンカーバイドのバンド幅は、4H型結晶で3.26eVとシリコンの1.11eVと比べてかなり高い。デバイスにした時は整流器でもIGBTでも耐圧が高ければそれだけ高電圧で使用する上で有利になる。これ故シリコンカーバイドを利用するPCUの動作範囲は広くなる。記事ではHV車の場合は無駄に浪費する電力の25%がPCUに由来としているが、もし新型PCUがこれを半分に出来ればその寄与は大きいと思う。

HVの先は、電気自動車(EV)になるはずだ。だがその歩みは一時期の期待よりも下回っている。日産が最初にEVを発表したのが1947年であった。1960年代になると日産はその開発で先頭を走り、種々のニュースが流れた。その記憶が印象に残っていた筆者は、乗用車の10%がEV化する時代は21世紀初頭だろうと感じていた。しかし今は2014年、この読みは外れた。EV化率は10%から未だに遠い。現状から言えばEV化率が10%に達する時は2025年頃になるだろうか?

何しろ現在のEV化率は2%程度だ。EV化の先になると思われる燃料電池車の開発が進むのは間違いなかろう。その理由はEV車が依存する電力は基本的に火力発電であって大震災の後の原発稼働停止の状況を見ると、我が国では当分の間、電力は主に火力に頼ることになるだろう。もちろん、火力の限界は環境に放出する二酸化炭素だ。それ故に燃料電池車が注目される。

5月5日の讀賣新聞の朝刊は東京五輪に水素カーを走らせるという東京都の方針を載せた。究極のクリーンエネルギーである水素を活用し日本の先端技術をアピールすることにしたのだ。五輪では新設の専用レーンを作り選手村と各競技場を走り、世界の選手15,000人を送迎する必要がある。必ず話題になるだろう。水素カーを実現するには、新しい制御のメカニズムが必要で、そのためのユニットに新たな半導体が求められる。資源のない我が国は半導体技術を中心に技術革新で世界と競争し勝つことが求められる。半導体の前途は洋々と広がっていく。 

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

参考資料
1. 匿名Private Communication
2. 電子制御ユニットとは、日経テクノロジーオンライン (2006/03/27)
3.
日本に乗用車は何台あるのか? 今日の疑問は明日の知識
4. 中国の自動車市場の現状と課題、JAMAGAZINE 2012年8月号
5. ルネサス、黒字浮上だが「人員余剰感25%」、東洋経済オンライン (2014/05/12) /YAHOO!JAPANニュースBUSINESS

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