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共通番号制度法成立のインパクト

この5月に共通番号制度法が成立した。これは国民全員に固有番号を付す点で既に成立している住民基本台帳法と同じである。ただ、後者は、氏名、現住所、生年月日など四つのデータしか扱わない、ごく単純なものだが、今回成立した通称マイナンバー法は各個人の社会保障や税のデータベースと統合することを目指している。

アメリカ連邦政府は以前から、Social Security Cardを発行し、所得がある人にカードを付与して来た。外国人にあたる日本人でもこのカードを持っている人は多い。このカードを使用して個人の納税や社会保険のシステム等を管理している。

学習院大学の森田朗教授が6月19日、讀賣朝刊の論点欄に投稿した評論を読むと、社会のIT化が世界でも進んでいるとされるバルト三国のエストニアではXロードと呼ぶ共通番号の活用が進んでいる。Xロードは国民の情報流通基盤であり、年金、医療、税、運転免許、自動車登録、預金、電気料金などの個人情報が統合されている。もしこの情報がリークしたら恐ろしい。例えば、個人の事情で大金が入った場合に、リークによって上司にバレてしまい居心地が悪くなるケースを考えると、怖い話だ。

エストニアではXロードに連携して自分のページ、マイページを自身でアクセスして不審もしくは不正なアクセスを監視でき、かつそのような行動をした者を、当局が追跡できるという仕掛けがある。同様な仕組みは、以下にやや詳しく述べるが、わが国の場合も導入されると期待されている。犯罪者の不正な行動は、国民の側からも監視することが大事だ。

住民基本台帳システムとマイナンバーシステムは、できれば相互に乗り入れすることが運用上効率的だと思う。上述したように全ての国民は、市区町村の基本台帳に住民コードで登録されている。ただ、住基カードは役に立たないと考える人が多く2002年の一次稼動から既に10年以上経った今でも500円のカードを保持している人は5%しかいないとされる。住基カードのB版は写真が貼付されていて身分証明に使えるが、実際には運転免許証を使う人が多い。

マイナンバーについて現時点では2015年秋までに国民に番号が交付され、2016年の1月から制度の運用が開始される予定だ。

所得がある個人は法に従い納税する。したがって、税務署は個人の収入を正確に把握しなくてはならない。現実は巷間でクロヨンなどと噂され、ひどい場合は全額の半分もつかめていない。即ち、把握率は業種で変わり、給与所得者の9割、自営業者の6割、農林水産に従事する人は4割と言われる。マイナンバー定着後はこの把握率が格段に上昇すると思われる。理由は、取引発生に応じて記録される法定調書に金額が明記され支払い者のナンバー、受取人のナンバーが明記されるからだ。もちろん、法定調書は税務当局が管理する。だからクロヨンは大幅に改善されるはずだ。不公平が解消され、税収が上がり大歓迎だ。

これら二つの個人番号は一生にわたって変わらないため、一度機械的に付与されると一切、変えることはできない。日本に住民票を持つ人にすべからく付与されるので、外国人でも永住権があれば番号を持つことになる。

日経コンピュータ誌2013年6月13日号(参考資料 1)によると、上述した番号など業務上において個人情報を閲覧する職員は法律および省令などで規制されることになっている。厳正を期する上で運用状況を監視する「特定個人情報保護委員会」を、政府は立ち上げる。この線上に沿って政府は国民向けに「マイ・ポータル」を用意するとしている。ポータルという英語を早い段階で日本に導入したのはこのセミコンポータルなので、我が読者にはマイ・ポータルの意味を周知されていることと思う。

実は政府はマイナンバーを民間の使用に解放するなどの法改正を2019年にすることになっている。そうなれば、法定調書は紙でなくネット経由で会社の担当者が直接入力して提出することになる。源泉徴収票も従業員がマイ・ポータル経由で、閲覧が可能になると思われる。紙の源泉徴収票はなくなる運命にある。また、管理するデータ分野が追加され運転免許証やパスポートなども閲覧が可能になるかもしれない。

日経コンピュータ誌は、失業保険申請手続きの利便性も紹介している。元の勤め先が発行する給与の源泉徴収票、税務署が発行する国税の納税証明書、市町村による地方税の納税証明書が全て今は必要であり、取り揃える時間も労力も大変である。年金を受け取っている人は社会保険事務所にも書類をお願いして作る必要があろう。

マイナンバー制度が始まれば、こういった面倒な手続きが全て不要になる。なぜならハローワークの窓口からオンラインでシステムに直接アクセスして照会し、失業保険金の給付に必要な処理を行うことができるようになるからだ(筆者注)。この利便性は大きい。必要な情報がリアルタイムで連携して処置できる。このオンライン連携を使うと生活保護に関わる不正請求が発生している現状も改善されると期待される。

役所は住基システムに相当の投資を既にしている。ハードとしては、各市町村のサーバー、都道府県のサーバー、全国センターのデータベースサーバー、そしてそれらを結ぶ二重化回線ならびに中継サーバー、ファイアウォール、カードリーダーとライター。更に運用のためのソフトウェアだ。また、コールセンターのビル、オペレータのデスクトップに置くPCと電話のマイク、それにレシーバなどだ。マイナンバーシステムは住基システムに比べ相当に多く情報を取り扱うことから、その投資額は住基システムを大きく越えるはずだ。

日経コンピュータ誌によると、日経連の試算ではマイナンバー導入の効果を、行政分野のコスト削減分のみで、当初3,000億円と見積もった。制度の構築に関わる費用試算では、初期費用が2,700億円、年間運用費が300億円としている。これら初期の導入効果の見積も発生費用の見積りもアバウトな内容に受け取れるが、現段階ではこの程度なのだ。しかし、マイナンバーの構築が現実に進む時点で精度の高い、導入効果・コストの見積もりが明らかにされるだろう。

マイナンバーが実現する結果、半導体やIT業界など関連する業界は、その分の売り上げが増えることは明らかで、利便性と相まって好ましい動きであると考えている。    

筆者注)この部分はマイナンバー法成立後も、ハローワークに一度は出頭して手続きをすることを想定している。筆者の調査では新法運用後の細目について、当局は未定としている。

参考資料
1. 特集「マイナンバー改革に備えよ」、日経コンピュータ誌2013年6月13日号

エイデム 代表取締役 大和田敦之

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