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高度医療機器に注目

昨年、内閣が代わり経済再生に力点が置かれるようになった。半導体産業にとっても喜ばしいことだと思う。三本の矢を束ねてなる経済活性化を政権は進めるが、その重要な矢は成長戦略である。発表によると政府はこの4月に医療関連機器やサービスを海外に売り込む新組織を官民共同で立ち上げる予定であった。市場のパイが海外に広がるのは歓迎するべきことだ。

日本の医療機器市場は3兆円を超えるが、この事実は意外にも知られていない。高度医療機器においてはハイテクが駆使され半導体デバイスも相当量使われている、と筆者は感じている。世界規模では年間10%程度の率で伸びることが人口増加によるニーズからは必要とされている。日本は医療費削減圧力が強いが、それでも5%程度の伸びを私は期待する。

厚生労働省の人口動態統計を見ると死因となる病気はがん、心臓疾患そして脳血管障害が多い。したがって今後の医療の重点がこれらの疾患の予防や治療に置かれるべきである。これらの疾病は自覚症状があまりなく、ある日突然に発作が起きて発見される。人間ドックでの健康検査で早期に発見するためには、高性能な医療機器の開発ならびに普及を急ぐことが肝要だ。

X線を使うレントゲン写真は誰しも経験しているが、背中からX線を当てて人体のX線吸収を白黒写真フィルムで見るという原理が使われている。X線強度が高いところは白に、強度が低いところは黒になる。出来上がるのは通常は一枚の平面写真である。一方、Computed Tomography(CTスキャナー)を用いると、断層画像、即ち人体をあたかも輪切りにしたような画像が得られる。

CT スキャナーでは、人の内臓や脳などを含む検査部位を輪切り形状になるように水平に複数方向からX線を照射する。ある一つの輪切りサンプルに対して、照射X線を水平に入射させ、かつ掃引することで得られる吸収X線1次元画像を360度に渡って撮影・合成することで2次元の画像として組み立てる。従って一つのサンプルで角度0のデータ、例えば10度のデータ等々と撮影するケースでは輪切りの写真1枚当り36枚のデータがセットで発生する。30度刻みなら12枚がセットになる。これを1セットとして画像合成すると、図1の中の1枚の輪切り写真となる。これを垂直方向に34カ所の輪切りが得られるように少しずつずらして同様に撮影・合成すると、図1のように34枚のマトリクス状の写真が得られる。


図1 Wikipedia が示したCT スキャンデータの例

図1 Wikipedia が示したCT スキャンデータの例
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Computed_tomography_of_human_brain_-_large.png


単純なレントゲン写真が唯一枚の平面写真にすぎないのと比べてデータ量は膨大になる。CTのハードウェアは、患者を寝かせる可動テーブルとその制御モーター系に加えてX線管を搭載し平行X線を作るコリメーション並びにフィルタリング機能及び掃引操作の仕掛けなどのX線光学系を備える。また、X線ディテクタ(検出器)は種々ある。一例は、70ミクロンサイズのピクセルごとにアモルファスシリコンを備えたフラットパネル検出器。他には、12ミクロンのピクセルを使ったSi CCD(マトリックスは、4K by 7K)も用いられる、とシーメンス社は示している。この領域はシーメンス社が進んでいてウェブ上で資料を公表している。

簡単に述べたがCT スキャナーは、従って膨大なエレクトロニクスを備えてこのような制御機能を供給している。数学理論に基づく再構築プロセスはコンピュータに準ずる専用CPUやGPU、DSPなどのプロセッサチップ、他にメモリーやADコンバータなどが使われる。このため、CT スキャンナーは複雑で高額になり、実勢価格は数千万円乃至数億円にも及ぶ。CT機器の開発と販売を進めている主だった企業は、シーメンス、フィリップス、東芝、GEヘルスケア、日立製作所そして島津製作所であって日本の会社が健闘している。唯、人口が減っている日本で3社もある。今後伸びるためには、広く海外市場に進出するべきだろう。海外市場で競争に勝つには、市場での機器メンテナンス体制、そして高度機器ゆえのアプリケーションエンジニア養成などを効果的に進めることが肝要だろう。

高度な医療機器はCTの他にPETやMRIなどがある。今回は詳しく述べないが、高度医療機器は、半導体の市場としてその成長性が大いに期待される。PETは陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography)で小さい段階のがん細胞にマークを付して発見しやすくする。MRI、磁気共鳴断層画像診断装置(Magnetic Resonance Imaging )は人体に含まれる水素原子の共鳴を使って体の病変を探知する。いずれの装置も半導体の大事な市場になっている。

そして心強いことに、最新医療に関わる半導体応用の新しい芽も見えて来た。大阪大学と奈良県立医科大学は生体計測に特化した新しい半導体デバイスを開発している。デバイスは、MEMSセンシングチップ+プロセッシングチップ+メモリチップ+通信チップなどで構成される。パッケージは、上記複数チップをSIP(System In Package)にまとめる。機能は、圧力、音波、温度などのセンサ信号とヒトの生体情報とを関連させて理解し実用化につなげる。完成の暁には無意識生体計測が非侵襲で達成される。非侵襲とは平たく言えば、計測に際してその人はほとんど気にならなく生活の邪魔にもならないことだ。医療のためのこの計測は奈良先端科学技術大学と同志社大学が担当する。この事業の管轄は文科省であって地域イノベーション戦略支援プログラムとして走っている。このような仕掛けは、新たな市場を作り、半導体の独壇場になるだろう。

エイデム 代表取締役 大和田敦之

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