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年収3000ドル未満市場を新ビジネスモデルで開拓する

BOP(Base Of Pyramid)とは、ピラミッドの底辺という意味である。グローバル化によって世界の市場が聖域なく広がった結果、その存在が確認され注目される事態になって来た。収入が多くない底辺の人々にどう売るかという新しいビジネスモデルが出てきている。

国内の市場が狭まる我が国では成長に限界がある。そのために工業国家日本はあまねく世界に市場を見つける必要があるが、BOPが今、注目されている。携帯電話や電子時計などの半導体の応用製品が売れれば半導体メーカーにとって歓迎すべきことにもなる。霞ヶ関も関与し始めた。2010年10月に経済産業省はBOPビジネス支援センターを設立した。その背景として、途上国のBOP層を対象としたビジネスを推進するため、官民連携による持続的かつ効果的な経済協力政策が必要とされていることがある。そして日本企業による海外展開、新規市場獲得を支援する産業政策が必要になっている、としている。

BOP市場で顧客はどのような人か。彼らは一人当たりの年収が2002年購買力平価で、3000ドル以下の階層である。当時は40億人が対象だったが、今やその人数は10億人以上も増えている。世界人口は70億人なので、BOP人口は50億人にもなると考えている。確かに50億人を、世界人口の70%以上もの大市場を、無視してはいけない。販売する会社が何とかしてこの市場から売上げを得るべく努力するのは当然だ。しかしながら、新しいビジネスモデルが必要でイノベーションなしでは成功しない市場でもある。3000ドルは円貨(1$=\80)では、24万円ほどだから月当りは、2万円になる。1日当たり\670ほどだ。両親と子供4人の家族を仮に想定したら何とも厳しい。

エンゲルの法則からもわかるように、この収入で人々が最初に買うのは食糧である。残りをどうするか。洗濯のための粉せっけんやシャンプー、そして吸う人にとってはタバコは優先順位が高い。途上国では、タバコはばら売りもあって1本からでも買える。粉せっけんやシャンプーは3回分など、少量で売られるなら顧客には安い価格で買ってもらえる。

携帯電話は更にイノベーションが進んでいる。電話には半導体とハイテク技術が満載されていて重要な商品だ。データはやや古いが参考資料1によると、フイリピンにおいて、2002年の予想結果では、2008年時の携帯電話の普及予想は国民の30%であったが、実際に2008年になってみると、70%を越えたとされた。電話のニーズは大変大きい。

もちろん、固定電話も使われているが、それは富裕層の家庭と官庁、大企業に限定されてBOPの人々は使えない。理由は回線が不足していて高価だからである。固定電話における筆者の思い出は決して良くない。筆者は昭和50年頃、家に固定電話を導入したが、回線不足で長期間待たされて愉快ではなかった。途上国では固定電話を上記のユーザーが使い、一般大衆は携帯電話を使用する。広い国は電話回線を津々浦々に広げるのは現実的でなく、電波を飛ばす携帯電話とは経済的に競争できない。日本の若者で十分な収入があっても都会の一人暮らしの場合は、固定電話を持たなくても携帯電話があれば困らない。その携帯電話が日本では1円で買える。日本の販売店は新規加入者の獲得に報奨金を出していて、その額が4万円になる場合もある。報奨金の原資は通話料なので顧客は2年の間、買い替えできない。月額の通話料が仮に、2500円なら上記の4万円は16ヶ月で償却できるというモデルだ。

一方、BOP市場での携帯電話事業はビジネスモデルが異なる。理由は月額通話料を2500円分も使う人は少ないからだ。フイリッピンのマカティ市に本社を置くスマートコミュニケーションズ社(Smart Communications, Inc.)はOTA(Over The Air)ソフトを普及させた。OTAは、携帯電話を小口使用できるソフトである。OTA電話は通話時にプリペードカードに通話料をチャージさせる。

利用者は通話時にカード番号とPIN(Personal ID Number)番号を入力する。そして料金は業者がカードからリアルタイムで差し引く。安価なプリペードカードは100ペソ(2.42 米ドル)から買える。ほぼ200円だ。家庭では父親が電話機を管理し、子供たちはそれぞれのカードを管理すれば、電話を皆で使うことができる。都会に住む一人暮らしの若者は、友人の電話機を借りてもよい。自分のカードにチャージするためだ。さもなければ、パパとママが経営する雑貨店に行き、安い使用料を払って電話機を借り、自分のプリペードカードで通話できる。

一方ネットを検索すると、Things heat up in China's OTA market(投稿日17 Oct 2010)、という記事が見つかった。著者はMaggie Rauch、メディアはTravel Daily China誌だ。即ち中国でもOTA電話市場は熱くなってきた。雑誌IT Leadersの2012年11月号によれば、中国の携帯電話契約数は、10億6,203万件である。一人で電話を2台所持する人もいるが、少数であろう。人口13億人のうち仮に1億人を子供などとして除いて分母を12億人とするなら携帯電話の保有者は88.5%の高率になる。一人っ子政策の中国は、両親に子供一人であろうが、携帯電話が既に一家にほぼ2台以上ある計算になる。東南アジア諸国の全てについて調査はしないが、マレーシアやベトナムなどでもOTA電話市場はあるのではないかと思う。

百円ショップと呼ばれる店が日本にはある。ここでは世界中から商品を仕入れて消費税込105円で販売する堂々たる日本のショップだが、筆者の家の近くにもあって相当に繁盛している。思いがけなくホチキス、絆創膏、髭剃り、ブラシ、シャンプーなど種々の製品が105円で買える。ここは、BOP型のショップなのだ。資生堂は高級化粧品を世界の富裕層に販売して成功した会社だが日本経済新聞の本年10月31日版では低価格ブランドを東南アジアで展開すると報じている。そのZa(ズィーエー)と称するブランドを10米ドル相当で今年から前倒し販売する。本年の11月4日の読売新聞は、インド西部ラジャスタン州などでカーストの違う男女が携帯電話で連絡をとりあい、駆け落ちする例が多くなり、社会が困惑していると伝えた。BOP市場の爆発は止まらない。

参考資料
1. Strategic Innovation at the Base of Economic Pyramid

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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