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増え続けるインターネット需要を支えるデジタル光通信技術

インターネットを流れるデータトラフィックの総量は、人口減少に突入している日本において現在でも増加している。音声、データ通信の情報がスマートフォンなどから電波となって空を飛び、基地局に到りその先はネットのトラフィックに加わる。ほかにタブレットやPCからのデータも増えている。

これら職場、家庭、学校そして街頭などで使われるインターネット経由の電子メール情報など全てのデータを加えて2010年にトラフィックを流れた情報量の総計は15T(テラ)ビット/秒だったが2020年には300Tビット/秒になるとの予測値がある。この予測は、NTT未来ねっと研究所の富澤博士による。今年の春に横浜で開かれたシステムCジャパン主催の講演で明らかにしている。このような急速なトラフィックの成長をサポートするには既存のギガビットレベルのトラフィック線を少々増設しても追いつくものではない。今や100Gビット/秒の光通信導入が不可欠になって来た。

担当する総務省は平成21年から委託研究を発足させた。題して、「超高速光伝送システム技術の研究開発」である。その基本計画書には目的として一部のみを引用すると以下のように記されている。「ネットワークを流通するデータ通信トラフィックは指数関数的に増加しており、今後もさらに増加が続くことが予想される。増加を続ける通信量に対応するためには、LANおよび光アクセスネットワークからメトロ・基礎光ネットワークに至る全てのネットワーク要素について更なる大容量化が求められている」、としている。

当然ながらこの実現に注意しなくてならないのは、2020年までには300Tビット/秒の予測値があるために十分な開発スピードを上げ時間的に間に合わせること。更に省電力化に配慮したシステムとして地球温暖化並びに低炭素社会への移行と矛盾しないシステムが求められていること、である。

これらを踏まえて総務省は、2015年までにオール光ネットワーク構成技術の確立を目指す旨の政策宣言をそのホームページ(HP)の中で示している。更に踏み込んで国際標準化を見据えて戦略的に推進することになっている。

このシステムの内容は専門性が高くこの紙面で述べることはできないが、イメージとして次のように考えたらどうだろうか?まず情報を通す経路には、すでに敷設されている光ファイバ技術を改良する。従来の光ファイバでは、振幅のビット信号を行き来させていた送信していた。これからは、送信時にレーザー光の位相を変調させる通信方式を利用する。基幹ファイバは国内を北から南までくまなく行き渡っている。受信側には100Gビット/秒のデジタルコヒーレント検波システムを置く。富澤博士によれば、特筆すべきは半導体であって100Gビット/秒の高速で動作する、シングルチップのDSP-ASICだ。ASICは各々の応用に特化した設計のICであり、DSP(Digital Signal Processor)は積和演算を専門に行うマイクロプロセッサである。

さて、上述の委託研究には、NTT未来ねっと研究所、NEC、富士通、三菱電機がグループで委託に応じ富澤博士のリーダーシップの元、既に初期の成果を挙げていてDSP-ASICの試作にも成功している。受託グループは横須賀市のダウンタウンと郊外のNTT Yokosuka R&D Centerの間、約20数キロを光ファイバで結びその現場での実験評価をDSP-ASIC搭載の試作機を使って行った。講演で富澤氏は結果が成功したと述べた。

受信システムに設置する100Gビット/秒のデジタルコヒーレント検波システムには東大大学院電子工学科における張超、森洋二郎、他の諸氏の研究が貢献している。論文の題は、「光時間多重分離機能によるデジタルコヒーレント受信機の超高速化」(参考資料1)である。

この発表をもとに各社が協力して開発したチップ DSP-ASIC を中心に、受託グループは100Gビット/秒のデジタルコヒーレント検波システムを構築した。線幅40nmで作られたこのシリコンCMOS チップの存在は日本の誇りである。データ信号を分周してクロック信号を発生させ、それを使って受信スーパーヘテロダインのLO(局部発振器)信号をパルス化して用いる新発明の手法で約 4 倍の高速化をはかり安定な100G ビット/秒の受信検波性能を実現している。これは斬新な方法であって自明だが分周パルスのクロック故にこのまま同期もとれる。

デジタルコヒーレント受信器はデジタル信号とLOの位相を同期させ任意の光多値変調信号を復調するものだ。課題は処理レートがAD変換器及びDSP回路の速度で限定され高速化が阻まれる。その課題解決のために、繰り返しになるが信号から分周したクロックを使ってLO信号をパルス化する。新手法では従来40Gシンボル/秒のデータ処理速度が160Gシンボル/秒と4倍の速度が達成された。さて、1 シンボル= 4 ビットなので、160Gシンボルは、640Gビットに換算される。

上述の画期的な大学の研究も貢献し委託研究は成果を挙げている。幸いなことに成功裡に収束するめどが見えてきている。光ファイバによる送受信システムはその両端に送受信器を1セットずつ備えるモデルで計算すると、上述の300Tビット/秒をカバーするには100Gビット/秒のファイバ線が3,000本ほど必要になる計算だ。その場合、全国を張り巡らせるための中継局も考慮して多く見積もった時には、20,000セットを考える。保守に20%の在庫を考えても、24,000セットだ。

実際には光通信波長多重法を使うために1本のファイバ線を数回線が共有することが行われる。よって上の計算で波長多重が四重なら計算上はCMOS ICの個数24,000個を4で割り、6,000個が必要となる。量産を何年もする規模ではない。どうしても10倍程度の量産規模にしたいものだ。唯一、期待したいのは国際標準化だ。国際標準化によって、日米欧中国韓国プラスBRICS諸国、加えて、その他中南米アフリカ諸国の30カ国以上がこの技術を使ってくれればありがたいのだが。筆者の願うところである。

参考資料
1. 電子情報通信学会技術研究報告、OCS光通信システム108(189) 41-46 (2008/08/21)

エイデム 代表取締役 大和田 敦之
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