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450mmウェーハ実用化への挑戦

世界で先頭を走りつつ超LSI製造事業に挑戦する企業は、2015年頃にはTSVによって3D積層構造なども採用すると筆者は考える。設計ノードが10nm台に到るにはEUVが実用化されなければ、道は険しいがEUVはどうなるか?寄生容量を減らす技術手段からは、SOIも考慮されるだろう。これらの路線の大きな問題は高コストに陥ることだ。このためコストダウンできる要因も開発プログラムに加えなければならない。

その確実な道程は450mmウェーハの採用だろう。IBM、インテル、グローバルファウンドリーズ、TSMCそして三星電子の5社は、種々のタイミングで450mmプログラムに参入する旨を公表している。残念ながら我国のデバイスメーカーはそのような立場にないようだ。450mmプログラムにおいて直ちに求められることはその膨大な開発コストだ。今の段階で450mmプログラムの成否は見えないので失敗するリスクがない訳ではない。

1990年頃における300mmウェーハへの移行の時の歴史を思い出すと、一部の日本勢は先行グループの成功事例を見極めた後で本格的に300mmプログラムへ向けて舵を切った。そしてその戦術はうまく成功した。今回の450mmプログラムにおいて過去の成功体験を踏襲するのだろう。この2番手戦術なら確実にリスクは軽減される。万一先頭集団が失敗しても見ているだけなら損害は及ばない。うまく進んだと見極めてからでは少々遅れるが構わないのだろう。上記5社などの成功を見て、それから脱兎の如く邁進すればよいのだ、と考えて450mmプログラムを日本のデバイスメーカーは進めるのではないかと、筆者は考えている。

450mm ウェーハ製造開発プログラムに最初に着手したのは SEMATECH 傘下のISMIだった。ISMI (International SEMATECH Manufacturing Initiative)は、半導体プロセス・生産技術開発コンソーシアムであるSEMATECHの組織下にあり実務を行う部隊になっている。公開されているプレゼン資料によれば、ISMI は300mm の実用化の時の経験に基づき特に有効であったテストウェーハを多用する方針を決めている。

例えば、ISMIと協力関係にある製造装置メーカーが450mm専用の試作機を作ってもその機械を直ちにテストできない。酸化膜つきの450mmテストウェーハなどは入手に苦労する。それでは試作機の試験も改良もできない。この事情を300mmの時の経験から熟知しているISMIは450mmテストウェーハなどを協力関係にある製造装置メーカーに貸与している。このようにISMIは450mmの製造プロセス開発において多数の装置メーカーと協力して開発費の低コスト化と時間の節約を図っている。例として述べた酸化膜つきの450mmテストウェーハのための生ウェーハはもちろんISMIが素材メーカーから調達する。

ISMIは以前、米テキサス州のオースチン市にあったが、ニューヨーク州のアルバニー(Albany)市に移転した。その理由は、アルバニー市在のCNSE (College of Nanoscale Science and Engineering)と共同事業を円滑に進めるためだ。

セミコンポータル(2010年10月29日)や外電が詳しく伝えたが、昨年9月27日、ニューヨーク州が450mm開発プログラムをコンソーシアム形式でスタートさせると、クオモ知事が発表した。予算額は、5年間で44億米ドルであるので円に換算すれば、およそ3,740億円になる。ただし、この金額にはIBMを拠点としたCommon Platform Allianceなど450mm以外の半導体関係のプログラムへの拠出も含んでいる。この企画に直ちに乗ったのが前述の5社で、日本勢は入っていない。予算44億米ドルとは相当の資金だが発表の限りではどのように配分されるのかは定かではない。ただ、州が州立大に資金を拠出し研究開発棟を新築することは優先順位が高いと思われる。

加えて、この5社が、コンソーシアムに拠出する投資額は別にあるだろうと筆者は考える。たとえば、インテル、三星、TSMCの2010年の投資額はそれぞれ52億ドル 、109億ドルそして59億ドルなので3社だけで合計220億ドルに達する。仮の話だが、5年間で5社がコンソーシアムに50億ドル程度を拠出するのは不可能ではないはずだ。こう考えればシードマネーの上記の44億ドルは直ぐに2倍になる。こう考えると450mmウェーハの製造プロセスの開発を達成するのに必要な金額は順次投じられるだろう。アルバニーのニューヨーク州立大学のCNSEはユニークな存在だ。CNSEでは、半導体業界と協力し、経済的に真に競争力のある製造技術を開発するというミッションを掲げている。

ニューヨーク州がこのような政策を実施するのには大きな意味がある。まず世界から超一流の人材をコンソーシアムのために多数集めることができる。一部では数1000人ともいわれる人材は日米欧そしてアジアなどから参加するだろう。彼等は世界から夢と意欲を持って集って来て懸命に働くだろう。そして大きな成果を産み出すのに違いない。彼等の子弟は州の学校に入学あるいは進学するだろう。子弟の質は低いはずもなく学校は活気づくだろう。一部の独身の人達は州で家庭を築くだろう。即ち、海外から参加する人々は人口純増に寄与するので、結果は「人寄せ効果」としても大きい。人口が減少している日本から見ればうらやましい限りだ。彼ら、彼女らは競争力が高い人材であり、高給で報われ消費し税金を払ってくれる。州にとって上級の市民が増えることは間違いなく歓迎すべきことだ。

その上、コンソーシアムの成功率は、CNSEの提携で上がったが、成功すれば半導体技術の開発史に大きなエポックを刻むことができる。近くにグローバルファンドリーズのファブ工場があるが、450mm開発プログラムの成功をもって当地に新しく450mmファブを建設することもあり得る。そうなればこの地が超LSIファンドリーの新しい一極として発展するだろう。米国の製造業の凋落がいわれて来たが、その凋落の動きはこれをきっかけにスローダウンするかもしれない。外電によるとオバマ大統領は3月17日、ワシントン州シアトル郊外にあるボーイング社の工場を視察して各国企業と争う米国の輸出型製造業への金融支援を強化する旨を述べた。オバマ氏は自身が出馬する大統領選を意識したのだろう。

米国のインテル、アップルそしてKLAテンコール社などは世界の有数なエレクトロニクス製造業であり、航空機産業なども併せ米製造業は優れた能力をまだ誇っている、と考えるべきだ。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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