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進む書籍のデジタル化

書籍のデジタル化が進んで来た。デジタル化された本は英語でeBook、日本語で電子書籍などと呼ばれている。内容はデジタルのテキスト文プラス画像によって構成されている読み物だ。中には録音メッセージも入ることがある。”eBook”はオックスフォード英語辞書にも登場した。「印刷に依る書籍の電子版」(筆者訳)と至極簡単な説明文が提示されている。

eBookを作り上げる場合、紙に印刷された既刊の本を土台にする場合が多い。土台にする本は保存状態の良いものを使いその本をスキャンしてPCに採りこみデジタルのファイルを原稿とすればよい。eBookを読むにはリーダーと称するハードウェアが必要だが、リーダーに表示するためのソフトウェアで原稿を処理することになろう。したがってeBookのコストは高いものにはならないはずだ。客は会員登録をして好きな本をネット経由で購入手続きをする。入金はクレジットカード若しくはネット銀行の預金を振込むなどで行う。コンテンツをダウンロードしリーダーで読書を楽しむことが可能になる。普及しているリーダーでよく知られた例はソニーの”リーダー”とアマゾンの”Kindle”だ。

筆者は寡聞にして知らないが、新著を最初からeBookとして出版することを願う小説の作家などはどうするのだろうか?デジタル化の作業は簡単に進むはずだ。小説は主にテキスト文なので原稿用紙に鉛筆もしくはペンで書込んだ後に作家本人あるいは秘書などがPCなどに文章を入力してテキスト文ができあがる。もちろん、原稿用紙を使わずに最初からワープロやPCに入力する作家も存在するだろう。挿絵を画家に頼むならその画家は本文を読み想像をたくましくして挿絵を描く。その絵をスキャナーで取り込めばデジタル画像としてPCに取り込まれる。次はテキストと画像を魅力的に並べて読者に供するプレゼンテーション作業に進む。インターネットのホームページ(HP)は、テキスト文と画像から(音声が入る場合もある)成立するので同様の作業で完成させている。HPは横書きが主流だが、筆者はHPの縦書きを見た事がない。でも日本語の本である以上、著者は縦書きにこだわることも多いはずだ。その場合は小説のテキスト文を縦書きで表現するソフトを使用することで解決するだろう。

世には絶版本が存在するが、上の技術を使えば再生させることも可能だ。ただし、土台にする絶版本を探し出すのは容易ではないかも知れない。そしてせっかく再生させるのだから売れてもらわないと困る。絶版になるくらいだから、その時点で余り売れなかったはずだ。どんな本でもいつかは絶版になる。そのファイルを紙に印刷して製本することで絶版本は再生する。仮に、eBookを所望する読者がいてそのニーズがあればeBookとして再発行して提供してもよい。明治時代に活躍した老舗の出版社が上記のプロセスを進めることは問題が少ないはずだ。

おおむね著作物は著作権法で、著者の没後の50年間(国により70年)はコピー等禁じられている。でも遺族を探し出し話し合って許可を得ることができる。結果、無事に絶版本が再生され売り出されることもできるだろう。eBookの手法で出版社が絶版本を再生することは今後多いにあり得ると思う。一方、絶版本は普通入手困難なので一部読者のニーズは高いはずだ。出版社が上記の方法で進めない時などは、別のグループが同じプロセスを使い著者や遺族に無断で絶版本を再生してしまうことは、著作権法に抵触し許容されずに犯罪行為として糾弾されるだろう。こっそりと、隠しつつこのことを進める輩はいるものだ。これは目に余る事態で「自炊」などと言うらしい。eBookを自炊して作成したら犯罪行為になるだろう。もちろん、紙に印刷しても同じく犯罪だ。

eBookの長所の一つは上で述べた絶版本の再生だ。eBookの長所をさらに挙げるならば優れた携帯性だ。例えばここに半導体の名著がある。ハードカバーのその本「S.M. SZE 著Physics of Semiconductor Devices, Wiley-Interscience, 1972」の場合、厚み3.9 cmかつ重さ1,140グラムで1kgを超える重さだ。この本はハードカバーの平均だと考えるが、このような本を6冊もカバンに入れて持ち歩くのは重労働だ。eBookをiPad型のリーダーで読めば10冊でも運ぶのは簡単で決して重労働にはならない。問題はSZE教授の上記の本はeBook化されていないため、持ち歩きの問題は解決しないことだ。

コンビニエンスショップを全国展開するセブン&アイ・ホールディングスは電子書籍事業に参入すると発表した。2月29日の日本経済新聞朝刊を参照すると、まず小説や漫画など若者が愛好するジャンルを対象に4万5000冊をネットで販売する。年内には、10万冊に増やし、国内最大規模にする。グループ百貨店が扱うギフトカタログも加えて配信する。利用者はネット会員の1000万人がベースになる。eBookは凸版印刷系列のビットウェイから調達する。顧客の利便性を重んじコンテンツはPC、スマホ、タブレット端末に最大で計3回もダウンロードできるようにしている。売上は1億円から早期に10億円規模を目指すようだ。セブン&アイ・ホールディングスのウェブを訪問すると、確かにHPが開設されていて書籍が購入できる仕掛けになっている。例えば東日本大震災での医師の活躍を書いた装丁のしっかりした本がeBookでは1260円で買える。アマゾンでは同じ本の印刷版が1575円の値付けだ。eBookでは送料はネットを使うために、その送付コストは、ほぼゼロのはずだと思われる。もちろんeBookは装丁ナシで、紙を一切使わない。その差を考えると、このケースにおいて同じ本の値段の差が25%、かつ315円というのはどうなのだろうか?正直な話、eBookはもっと安くなっても悪くはない。

この事は米国でも問題になっていて長い歴史を持つハードカバー本がかえって安い例も稀に発生しているらしい。それはハードカバーの本をディスカウントで大量に売る習慣が長く続いている事情もあるらしく、eBookを迎えて今後は事態が流動するのだろうか?やはり大勢はさすがにeBookの方が、いくらか安価で販売されているのが実態のようだ。米アマゾンはオンラインで本を販売する先駆者であってeBookもハードカバーも両方を販売しているが、驚くべきことに2010年7月にはその数において140対100の割合でeBookがハードカバーを凌駕した、と発表した。米国では安く読めるeBookを評価する読者が多いのだろう。日本ではいまだ圧倒的にeBookが少ないが今後どうなるのだろうか?

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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