復興が牽引するスマートシティ構想
3.11大地震の後、膨大な復興需要が沸いている。発表では実に19兆円にもなる。種々の報道があるが、政府が決定した復興基本方針では、当初5年間を「集中復興期間」と位置付けて19兆円を投入する。この額は第1次、第2次補正予算で手当てした計6兆円に加えて13兆円の財源を確保するものだ。
この需要を満たすべく今やスマートシティ構想を被災都市に優先して採り入れるべきではないか?理由は明確だ。スマートシティは従来の都市より利便性が格段に高く、したがって住民のベネフィットは大きいはずだからである。国民は被災者に同情していて寄付等の一定の貢献をしたが被災者の多くは、未だに仮設住宅に住み、多数は買物難民になっている。仮設住宅の近所にスーパーマーケットが存在しない所が多い。日常の必需品は遠くまで買物に行かなくてはならない。このため、自動車が必要だ。しかし仮設の住民が乗用車をすぐに手に入れることは無理な願いだろう。住宅のそばにバス停を設け時間割どおりにバスが来るようにしたい。バスが時刻どおりに来ないと利用者は不安になる。携帯やスマホで運行が知らされてあと10分でバスが来るとわかれば待ちようがある。一部、都バスの停留所はバス到着情報を表示しているが、全ての停留所で行われているわけではない。他の都市、たとえば政令指定都市である、わがさいたま市のバスにはそのようなサービスはあっても広く知れわたっているものではない。まして、被災都市は3.11前も今もバス到着情報とは無縁だ。このようなサービスをしたら赤字になるだろうが、それでも導入は必要だろう。そのための復興予算なのだ。東日本大震災の復興関連予算を一元管理する復興特別会計が2012年に創設されることが11月2日に決まった。このため、予算は管理しやすく、かつ透明性が増すものと思う。
スマートシティは定義上、電力やガスのエネルギー、水、通信、交通、建物、行政サービス等のインフラストラクチャを、クラウド化等ITの力を利用してスマート化するものだ。しかしながら、他の国の事情はわからないが、少なくとも日本では大きな需要が眼の前に見えている状況には、筆者には感じられない。
しかしながら、3.11以降、スマートシティを必要とする需要は湧いてきた、と思う。そのことを以下に述べてみたい。復興はビジネスにならないが、絶対にしなくてはならない。こういった事業に向いているのが、実はスマートシティ構想の実現だ。スマートシティの中心は電力網、即ちグリッドにあるが、そのグリッドに関わる日本固有の事情を筆者なりに考えて見た。元々スマートシティ構想は米国においてサブプライム破綻後の金融恐慌に対してオバマ政権が打ち出した政策で米国の電力グリッドを対象にしている。だが日本では電力会社のサービスはすこぶる恵まれた状況だった、3.11大地震までだったが。電力会社のサービスの中身については、発電と配電が一体化したワンストップサービスでアンペア契約さえすればコンセントに電力が来る。3.11以前は停電も世界一少なかった。大地震の影響が比較的少なかった首都圏の市民にとって最近は停電もなくなり節電と言われながら利便性は戻った。最近はオール電化の宣伝マンが再び元気になった。日本では電力グリッドのスマート化のニーズは庶民にはなかなか見えにくいと言ってよいのではないか。啓蒙活動が大きく進まない事情もあってスマートメータを備え電力使用状況を「見える化」する需要もあまり伸びてはいない。
ただ、ゼロから建て直す被災都市は全く事情が違う。第一に大きな復興需要があるうえに、予算がついた。もちろん、がれき処理などにも同じ予算が使われるので全てがスマートシティに使えるわけではないが、復興予算はガレキを越えてその先の使い方を予算の執行部門は考える段階が来るはずだ。そして、復興を通じて、官民一体でスマートシティビジネスを学習し、米国や世界でビジネスを展開し利益を上げたい企業を応援できる。実践しながらそれに学び、復興需要を満たしながら、その先端を学んだ意欲ある企業群が海外に出て行き今の超円高下でも競争力を保てると信じている。日本の復興需要よりも大きなニーズが他の地域にそうふんだんにあるはずもない。
問題は何から手を着けるか、だろう。がれきを処置し更地を作るのが第一歩だ。その後は、電力やガスのエネルギー、水、通信、交通、建物、行政サービス等のインフラストラクチャを、クラウド化等ITがうまく機能するように整備する。6月24日の産経電子版は、政府が大震災からの復興の理念や実施体制を定めた復興基本法を同日に施行した旨を報道した。内容は、お世辞にも整っているとは言えないが、枠組みを早く作る政府の立場もある。これから実施する復興施策の企画・立案や総合調整に加え、実施権限も持たせた「復興庁」を創設するほか、復興財源としての「復興債」発行や「復興特区」活用が可能となるようだ。筆者は復興にスマートシティの考え方を入れて欲しいと切に願う。
法律の施行に当たってみんなで協力しなくてはならないことは当然だ。復興基本法では被災地を特区にすると唱っており、これは正解だろう。実は経済特区は発展しやすい土壌を最初から持っている。経済成長を遅らせる規制が緩和されるからだ。
世界初の特区で有名な実例は中国の深セン市にある。深セン市は1980年代後半に小平が共産主義市場経済を唱えて、深セン市はモデル地区、一種の特区になった。その後の深センの経済成長は目覚ましく、1988年には経済成長率は30%を越え、落ち着いてきた2000年ごろでも年率15%程度の値を保っている。東北の被災地は全て特区による成長環境と復興需要を合わせてスマートシティ構想を採り入れ、計画的に復興建設を進めてその経済を大きく成長させて欲しい。
11月6日の日本経済新聞は宮城県の村井知事とのインタービュー記事を報じた。村井知事は、「ピンチはチャンスになる。過疎化、少子高齢化、人口減それ等に打ち勝って20〜30年後の日本社会を先取りしたまちづくりを進める…. 」などと力強く語った。優れた指導者はさすがだ。20〜30年後を見て政治を考えている。