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量子ドットを用いた高効率太陽光発電に期待

フクシマにおける原発事故が起きたものの、世界の電力需要は依然として増している。ドイツ等の一部の国々は疑問を強め原子力発電をストップさせつつある。そのために再生エネルギーの開発に向けて期待が高まってきた。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が04年に発表した予測レポートは、PV2030というタイトルが付けられ、世界で最も引用されている稀有な例だ。

予測では、2030年頃に太陽光発電電力の価格はキロワット時当り7円となる、など注目すべきものがある。その上に、発電量が国内向けで年間12GWそして海外向けには35GWで合計47GWにもなるとしている。だが問題はいかにしてこれらのレベルを実現するかに集約される。現在、市場に出ている製品はシリコンを主体にした発電デバイスであってその効率の値は15-18%程度とまだ低い。

東大の荒川泰彦教授は「量子ドット型太陽電池」の原理を1982年に打ち出し、その効率は50%を大きく越える可能性を持つと述べている。この技術を紹介する前に、量子ドット型太陽電池を理解するには現行普及している通常のシリコン太陽電池の効率の限界を理解することが有効であろう。

太陽からのフォトンはシリコンに入射すると価電子帯にある電子を励起し伝導帯に移行させる。この時に電子は禁止帯を飛び越える。シリコン固有の禁止帯のそのギャップ値は1.12eVである。価電子帯にある電子の抜け殻が正孔になり伝導帯に上がった電子と対になる。PN接合の作り付け電位差があるので正孔はN領域に電子はP領域にドリフトし、電流として外部へ流れるため、発電が起きる。禁止帯を飛び越えるには光エネルギーが十分大きく1.12eVを越える必要がある。太陽光のスペクトルの中で1.12eV以下の成分は禁止帯を越える電子を励起させ得ず、従って発電に寄与せずシリコンをただ暖めて終わる。1.12eVのエネルギーは光の波長に換算するとおよそ1,107nmとなる。禁止帯を越える高いエネルギーの電子を励起する光は波長が1,107nmよりも短い光に限られる。

太陽光は可視光を中心に幅広いスペクトルに渡りエネルギーを放出している。1,107nm以上の長波長の光は可視の外だが、エネルギー不足のため電子は励起されずに無駄に捨てられることはもったいない。実際、3,000nmの低いエネルギーの太陽光でも発射しているので有効に使いたいのだが、それはシリコンデバイスでは適わない。

余談だが光の波長について述べるなら、半導体の製造に使われているステッパはその光源がg線の時に高圧水銀ランプの波長は436nmだった。これは青紫に近い色だ。その先はi線、そしてKrFおよびArFレーザー光へと進んできたが、もはや可視光ではない。シリコンの通常の太陽電池はg線436nmで十分に発電する。もちろん i 線やArFの光でも発電する。

荒川教授は禁止帯の中にエネルギー準位を設けた。これはステッピングストーンになぞらえることが可能だ。小さな池を禁止帯となぞらえよう。向う側までやや距離があってどうしても飛べない。そのような時に池の中に踏石があれば踏石伝いに飛んで向こう側に行くことができる。量子力学的なステッピングストーン、即ち踏石が量子ドットに相当する。ノウハウがあり詳しくはわからない部分があるが、量子ドットは半導体の中に導入する10nm程度のサイズの固体であり、電子を閉じ込めることができる。量子ドットの近傍では1,107nm以上の長波長エネルギーの太陽光でも価電子帯の電子を励起し、電子はいったんドットに移ることが可能だ。このため、長波長の太陽光によりドットが電子で満たされると、エネルギー的に伝導帯まで近づくことになる。即ち1,107nm以下の小さなエネルギーの太陽光でも禁止帯を飛越えて伝導帯まで到達できる。小さなエネルギーでも踏石伝いに池の向こう側に跳ぶことができる。

このため、量子ドット太陽電池は量子ドットの量を増やせば「中間バンド型太陽電池」になる。中間バンドとは、踏石が幅広く存在するイメージであり、禁止帯の中にミニバンドを形成する。これによってこれまで使えなかった長波長の光が有効に使えるようになった。即ち、量子ドットを使えば効率が上がるのである。

NEDOの予測は世界中に勇気を与えている。量子ドットを用いた高効率太陽光発電技術において日本がリードできれば太陽光発電産業は、今後大きく飛躍するだろう。このためには量子ドットを利用してミニバンドを安価に効率良く形成し製造するノウハウが欲しい。教授の上記ホームページからたどることができる発表を見ると、半導体としては窒化ガリウムを使用した例があり窒化インジウムガリウムの量子ドットを形成している。要は、シリコンを使っていない。一方、半導体産業新聞の本年9月14日版によると産総研も窒化インジウムガリウムの量子ドットを400層積層した構造を最近試作している。

一方、InGaNを使うとシリコン以上にバンドギャップが大きくなる。ただ、量子ドットが作られるので長波長の太陽光でも心配は要らない。InGaNのpn接合はそのビルトインポテンシャルがシリコンより大きく電池としての発電電圧は大きくなるという利点がある。

太陽電池は確かにエネルギー変換効率が問題だが、その他の面では大変に優れている。まず、火力発電が解決できない二酸化炭素問題がない。タービンなどを使わず可動部分がないためメンテナンスが容易だ。原子力発電とも大いに異なりアイソトープを一切使わない。フクシマの事故後、我が国はアイソトープの除染などの問題や被災民の健康問題に悩んでいるが、太陽電池ではこれらの問題は皆無だ。風力発電は回転翼が必須でこれが可動部分なのでメンテナンスの問題がある。加えて、その騒音も問題だ。

太陽電池の大きな特徴はスタンドアローン性だ。山間僻地や砂漠などは電力供給がされていない無電力地域だ。山の中や海上など無電力地域に必要な観測機器、道路などの標識にベストなのがスタンドアローン型の太陽発電装置だ。無人島に大規模な太陽発電施設を作り家を建てて冷暖房完備にして更にオール電化のキッチンを備え電気自動車と充電設備を持つ。更に無線設備を持てばテレビやインターネットが楽しめる。世界には多数の無人島がある。元気な富裕層の若者なら無人島に住めるだろう。富裕層が管理人を雇い太陽発電装置を備えた無人島にバケーションにやって来る時代が近い。2030年代は無人島バケーションが富裕層の間で広まるだろう。

太陽電池にも欠点であるが、それは光が当たらないと発電しない問題だ。蓄電池があって初めてスタンドアローンになる。蓄電池技術は太陽電池の効率向上には決して欠かせない技術と言える。

最後に量子ドットを用いた高効率太陽光発電の工業所有権について触れる。その基本原理は公知で特許化ができそうもないが量子ドットの製法において、今後、先駆者は工業所有権化を狙うことも可能で、我が国の研究者達に期待したいところではある。 

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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