セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

ReRAMの実用化がスタートする

パナソニックはこの5月にReRAMのプレスリリースを発表したが、結果、各紙の5月17日の記事として表れたその内容に注目したい。

これらによると2012年にはReRAMが本格的に実用化される見込みになった。新たなマイコンはシングルチップにReRAMを搭載する。このためにパナソニックは通常のシリコンベースのマイコンにReRAMを混載するためReRAM固有のプロセスを付加する。量産は砺波工場が担当するとのことである。

応用製品は火災報知器だ。各家庭は法律に従い報知器を取付けなくてはならなくなった。筆者も火災報知器を我が家に取り付けた。平成21年5月1日改訂、消防法第一条にはその目的が書かれており、「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減する…」等々の記載がある。そしてこの改訂の眼目の一つは、各家庭に火災報知器設置の義務を課したことにある。日本の総世帯数は4000万強といわれるが、法律ではその全てに火災報知機の設置を課している。したがって、少なくとも世帯数の4000万強の需要があるが、大きな家は複数台を設置するだろう。他にオフィス需要を加えれば国内だけで1億台に近い数が必要になるだろう。加えて輸出市場を考えれば火災報知器市場は相当に大きい。

家庭用の火災報知器では電池駆動方式が普及してきた。火災は頻繁には発生しないので火災報知器の出番はほとんどないはずだ。したがって電池は長持ちして欲しい。仮に5年経過して電池が切れたらその時に、家庭で煙や熱が出ても報知器は動作しない。報知器にはテストスイッチがありテストできる。電池が動作している時にはスイッチを押すなら警告の大音響が出てくれる。だから夜中に万が一煙が出た時、大音響で家人が目を覚まし寝室を出て台所などの火元に駈けつけて消火できれば無事に役目を果たすことになる。

ReRAMを搭載するのは電池寿命を伸ばし、かつ低電圧駆動を狙ったものと筆者は考える。さすがに家電メーカーらしい製品だ。記事によると報知器のみならず、TVやブルーレイ録画再生機、医療機器に応用があるようだ。

ReRAMはフラッシュと同じく不揮発性メモリーだ。SRAMやDRAMは電源が切れると書込まれた情報が消えてしまうので揮発性メモリーだが、不揮発性メモリーならば電源がなくても情報は消えない。報知器のデザインエンジニァはこの特性を使って待機時には報知器のメモリー部分は電力オフとするだろう。そして煙や熱のセンサー部分の電源を常時オンにしておき煙と熱の一方もしくは両方を感知したら瞬時にReRAM部もオンにしてチップを動作させるだろう、と考えられるが、もちろんこれは筆者の推測だが。推測通りなら電池需要をもっと伸ばすことができるだろう。

ReRAMはシャープでも開発が行なわれている。米国特許番号6,531,371を見るとシャープの米国子会社のSharp Laboratories America社の二人の研究員がReRAM発明を出願していて2003年に特許化されている。

ReRAMの原理はおおよそ次のようなものである。まず、特殊な素材CER(Colossal Electro-Resistance)膜を使う。CER効果を利用してしきい値以上の電圧を印加すると大きく抵抗が変化する。即ち、ほぼ絶縁膜であるCER膜の一部に導通経路が形成される。このため膜は低抵抗体になる。抵抗値が大きく変わるのがこのCER膜の特徴だ。この際、抵抗比は100を超えるようにできるのでメモリー回路としては十分に機能する。

CER膜の一例は次のように複雑である。元素記号Prは希土類元素でプラセオジム (Praseodymium)といわれ原子番号59の元素だが、この元素を含みかつCaカルシュウムとMnマンガンの3金属が複雑に結合した酸化膜は頭文字を採ってPCMO薄膜と呼ぶ。1ビットのReRAMはMOSFETのソース電極に直列にPCMO薄膜の抵抗を接続している。

この素子をマトリックスに接続してゲートをワード線としソース電極に直列につながるPCMO抵抗のもう一方の電極を仮にアースとする。ドレインはビットデータ書込みのための信号線にする。この回路はDRAMと似ている。DRAMのセルはスイッチFETのソース電極に容量を直列に接続しているが、その容量をPCMO抵抗に置き代えたのがReRAMになる。このメモリーマトリックスで各行に配置するドレインの信号線はセンスアンプに接続されアクセスされたセルの電位を読む。この電位はセルが低抵抗("0")ならアースになり高抵抗("1")なら比較的高い電位を有する。

ReRAM搭載型マイコンチップは初期には高コストを免れないだろうが、量産されるにつれコストが下がると考えられる。量産がコストを下げるのは長い半導体事業で多く学ばれた事実であり、今回も同じ経過をたどりコストは経験を重ねることで下がるだろう。そうならば激しい競争のもと、好ましい応用製品を見出し開発し優れた製品を先に大量に売り出した企業が勝つパターンに違いない。先行企業が有利になる。実用化に際して多くの工業所有権も産まれるはずだが、日本企業が果敢にトップを保ちつつこの道を歩むことを期待している。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

月別アーカイブ