Semiconductor Portal

HOME » ブログ » インサイダーズ » 大和田敦之の日米の開発現場から

わが国の電力政策はどうなるのだろうか

今年3月に発生した大震災の結果、一部の原子力発電所や火力発電所が故障や他の理由で停止している。結果は深刻なものになり筆者が住む東京電力管内では一時、計画停電やむなきに至った。今夏もワーストケースを考えて電力需要が最大になる暑い夏になると想定しなくてはならないだろう。そして、報道によれば最低でも昨年基準で15%の節電を考えなくてはならないようだ。

自由経済において強いられる節電は一種の規制と考えられ、半導体企業も種々の激しい海外との競争にさらされているのに、その上に重要な電力を十分に使えないという制約は問題が大きい。言うまでもなく半導体ファブ工程においては良質の電力が連続して提供されないとロットはダメになる。仮にロットのサイクルタイムが20日であっても1ロットだけを流すのではなく後続ロットを連続して流すのでファブを運営する限り、停電は全く受け入れられるものではない。

このためファブを保有する半導体工場が通常の85%の電力使用で乗りきるには、良質の電力供給の元に事務部門の部屋の照明をLED化し、既にLED化されていれば部屋を暗くする、などして乗り切らなくてはならない。半導体LEDを越える低消費電力の照明はないのだから。節電のために事務部門が時短になって5時に帰宅させられるだろうし、残業する場合でもPCの電源を落とし部屋を暗くするなどが求められるだろう。そうなると、若い社員のやる気を大きく削ぐことになるが、5時で仕事を止めさせるために上司は「ぜいたくを言うな」と叱りつけてしまうかもしれない。

経済産業省は「夏季の電力需給対策の骨格(案)」をこの4月8日にホームページで公表した。それを見ると、予想される電力不足を乗切るために「官民一体となった創意工夫によって、この難局から脱するべく、以下のような認識とそれを踏まえた対策をどう取り進めるかについて、東北、東京電力管内の国民各層や産業界の理解と叡知を集める協力をお願いしたい」と、している。具体例として産業セクターに向けては、
 1 生産プロセスの一層の合理化、設備運用の最適化
 2 省エネ設備の導入
 3 節水の推進
 4 操業時間/日の短縮、シフト
 5 夏期休業の設定・長期化・分散化他
を挙げている。

しかし、今夏の課題を乗切れるなら2012年の夏も同じく進めることができるだろうが、長期的にどうするかが大きな問題だ。原子力を今後どう扱うのか。平成21年版の原子力白書を読むと、国際的な潮流として地球温暖化やエネルギー安定確保の観点から二酸化炭素を出さない原子力エネルギーへの期待が高まっている、となっているが、この白書は大震災以前に作成されたものであり、今や原発は「フクシマ」の名のもとに大きく報道され世界で問題視されているのだ。

ドイツの決定は早かった。3月15日の朝日新聞の記事では、ドイツのメルケル政権が14日、国内の原子力発電所の運転を延長する政策を3カ月間凍結することを決めた。そして3月末の州議会選挙でメルケル政権の連立与党・キリスト教民主同盟(CDU)が敗北した。フクシマが争点になった結果だ。環境政党・緑の党が躍進し、ドイツの「脱原発」路線が加速している。

一方、米大統領オバマ氏の政策は「脱輸入石油依存」と原発推進が、エネルギー政策の車の両輪だが、火ぶたを切ったばかりの2012年大統領選では、民主党支持者に原発反対の声が強いのが頭痛のタネだ、と産経ニュース電子版(参考資料1)は報じている。

米NRG社はテキサス州南部に発電原子炉を2基建設するべく東芝と話して来た。だがデイリー読売紙4月21日の紙面はこのプログラムをNRGが中断した旨を伝えた。NRGは東芝と合弁会社であるNuclear Innovation North America社を2008年2月に発足させて原発事業を進めていた。テキサスの上記の原子炉2基合計で2,700MWの発電容量を持たせる計画であり、その建設費は155M$(約133億円)が確定していた。大震災後の決断は早くて潔かったが、このような国際的な潮流が出て来た事実も無視できない。

しかし、米国には原子力を推進する人々が存在する。ロサンゼルスタイムズ4月18日に掲載されたMark Lynas氏の論文を見てみよう。Lynas氏は英オックスフォードに住む論客で地球温暖化問題の扱いが多い。最近の著書には、Six Degrees: Our future on a hotter planet、(+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ - 寺門和夫訳)がある。そのLynas氏の論文の題名は「Nuclear power is still good choice(それでも原子力発電は良い選択肢だ、筆者訳)」である。その要旨は以下の2点だ。

1 現実には再生可能エネルギーにも節電にも量の問題、コスト高などでの限界が多い。
2 化石燃料を使う道は地球温暖化問題を悪化させるので採用すべきでない。

石炭や化石燃料が発生する温暖化問題は大きい。その結果、地球が暑くなる。原子力には新たな解があるので続けるべきだ。解の一つは20世紀型の古いフクシマの原発を止め、新しい21世紀型最新設計の原子炉、例えばIntegral Fast Reactor (IFR)などに注目して実用化を進めるべきだ、とLynas氏は言う。そうすれば安全な原子力発電が実現するとしている。

専門的になり過ぎる上に紙面の都合もありここでは以下に留めるが、原子炉はIFR(一体型高速炉)/MFC(金属燃料サイクル)モードなら、金属燃料の高熱伝導性を積極的に使うことができる。フクシマ型の混合酸化物燃料よりも数十倍も熱を伝えやすい。このため、冷却プロセスが容易になり原子炉の固有の安全性を向上させることになる。わが政府のIFRに対する見解はわからない。

経済産業省は2010年6月にエネルギー基本計画を策定し発表していた。それを読むと、エネルギーに関して三原則「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」をうたっている。今回のフクシマの事故はその「安定供給の確保」に失敗した。また、放射能を環境に放出したので「環境への適合」にも失敗した。政府は大きな課題を抱えた。三原則は誤りではないが、どう担保してどう確保するのだろうか。今後はこの答えを見つける作業があり関係者は悩みが深い。

参考資料
1. 米大統領選にも影響、原発政策が序盤戦の争点

エイデム 代表取締役 大和田 敦之
ご意見・ご感想