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福島第一原子力発電所

半導体は電力なしでは製造できない上に使用もできないとの観点から、今の日本が置かれている電力危機について高い関心を持たざるを得ない。ここでは福島第一原子力発電所の危機についてやや深く考えて見たい。事態は刻々動いているが、もちろんこの原稿の内容は、投函時点(4月4日)のものである。

地震についての、気象庁発表文をそのホームページから引用すると、「(3月)11日14時46分頃地震がありました。震源地は三陸沖 ( 北緯38.0度、東経142.9度、牡鹿半島の東南東130km付近)で震源の深さは約10km、地震の規模(マグニチュード)は7.9と推定されます」とある。4月の政府閣議でこの地震を「東日本大震災」と命名した。

しかし後に気象庁はマグニチュードに関して8.8の暫定値と上方修正し、そして9へと訂正した。文字通りの超大地震だ。福島第一原発はこの地震の到来によって、震度6強で揺さぶられたと考えられる。NHKなど報道の情報によれば、地震直後からおよそ30分に一度の割合で津波が東北地方の東海岸を襲った。結果としてこの原発も津波に襲われたと考えざるを得ない。日本経済新聞3月29日の記事では、同日14時46分運転中の1-3号炉が自動的に停止した。この時刻は気象庁の地震発生時間と重なる。従って運転中の1-3号炉は瞬時に自動停止したものと考えられる。原発が地震などの異常事態に遭遇した場合は、まず臨界を止め発電を止めなくてはならない。燃料棒の中の核分裂の連鎖反応を止めるのだ。この点、福島第一原発電は正しく機能した。三つの最重要なアクションの内、「止める」に続く2点は、「冷やす」そして「閉じ込める」だ。だがこの2点に問題が出ている。

上記の日経新聞の記事では、ほぼ1時間後の15時42分1-3号炉の全交流電源が喪失したと書かれている。そして、16時36分1-2号炉の非常用炉心冷却装置が注水不能になってしまった。即ち、ほぼ1時間後に全交流電源が喪失したとの記事だが、その1時間に何が起きたか?2度ほど津波が来たことは容易に想定される。推測だが、津波が配電盤などを直撃したための電源喪失と思われる。電源なくして冷却装置は働かない。NHK等によるとディーゼル機関を使った予備発電も動かず、冷却装置は停止した。

その後の詳報でも、3号炉および1-2号炉の非常用炉心冷却装置は地震後には一度も機能していない。筆者が思うに冷却装置が働くなら燃料棒の周りに水を循環させることができて正常な冷却サイクルが始まるはずだ。冷却装置が働かないことを知った、政府の関与のもと東京電力は自衛隊や消防庁の協力を得て燃料棒などを冷却するために、外部から注水を行う目的で放水をした。圧力容器内で水位が下がり燃料棒が露出しているとの想定の基の放水で、これは一定の成果があったようだ。即ち水位は上昇したと考えれるが、本来の冷却機能が回復していない3月30日現在上で述べた「冷やす」アクションが十分に進行しているとはいえない。事態は膠着していて「冷やす」「閉じ込める」は進展していない。冷やさないと過熱状態になりメルトダウン(炉心溶融)などで炉が破壊される。

やがて、放射能が漏れて環境を汚染した例が出てきた。平成23年3月23 日発表の東京都水道局による「水道水の放射能測定結果について 第17報」を見ると、23区および一部の多摩地域では、乳児が水道水の摂取するのを控えるべく通達がでた。その理由は、東京都立産業技術研究センターの測定結果で3月22日に採水した金町浄水場の飲料水にヨウ素131が混入し放射能読取値が210ベクレルとなって、食品衛生法に基づく指標値の100を越えたからだ。ベクレルは、水や食品が発する放射能の強さを表す単位である。

但し、NHKなどの報道ではこの問題は翌日に改善して乳児も水道水を飲めるようになった。筆者の乏しい知見では首都東京の飲料水が例え1日でも放射能汚染で飲めなくなった事例は他にない。しかも福島県の原発が放射能の原因と考えるなら、200kmを越えてそんなに遠くまで放射能が届くのか、と考えてしまう。

これほどリスクが高いのに、なぜ原発なのか、という疑問は常に湧いてくる。3月26日の讀賣新聞はわが国の発電量の内訳を示した。それによると、原子力発電は、全体100%に対して26%、火力は石油石炭天然ガスを合わせて65%、そして残りの水力、地熱そして太陽光発電は合わせても9%だ。仮に国内の原子力が全くないものとすれば、26%も電力が不足し経済の成長は止まるどころかマイナス成長に陥るだろう。東京電力は、すでに計画停電を始めた。今回の原発の問題に懲りて全国の原発を直ちに辞めるという選択肢は、今の日本にはないかもしれない。一方、平成21年版の原子力白書を読むと、国際的な潮流として地球温暖化やエネルギー安定確保の観点から原子力エネルギーへの期待が高まっている、と書いてある。この国際的な潮流も無視できないのだ。

一方、原発の過去の事故例を見ると、1979年3月28日に米国はスリーマイル島原子力発電所事故を経験し原発の製造をやめている。ソ連はチェルノブイリ原発事故を、1986年4月26日に経験した。その原発4号機が試験中にメルトダウンして爆発し、原子炉建屋が吹き飛んだ。運転員の安全規定違反や、原子炉の構造的欠陥が原因とされる。国連の試算では、この事故に起因する死者数は将来分を含め約4000人、と3月27日の讀賣新聞は報じている。チェルノブイリ原発事故からおよそ25年、福島第一原子力発電所の事故は上記の国際的な潮流にどのような影響を与えるか?全く予断を許さない。

日経ヴェリタス2011年3月27日号の報道では、「フクシマ、世界の原発政策に波紋」との記事を掲げ欧州では原子力推進派が猛烈な逆風下にある。独政府は7基の旧型原発の稼動を中止した。イタリアは新設論議を凍結した、などと報じた。このような状況下で原発システムの輸出を進めようとの、現政権の期待は大きくしぼむことにならざるを得ない。

原発はなぜ冷えにくいのか?このことを理解するには原発の原理に踏み込む必要がある。原発は火力発電や水力発電と同様に発電タービンを回すことで達成される。火力発電では石炭などを燃やして高温高圧の水蒸気を作りそのエネルギーでタービンを回す。原発では原子核の連鎖反応的な分裂が熱を出してくれる。上記の原子力白書などが述べているが、天然のウランの中で0.7%しかないが、不安定で核分裂を起こすウラン235を使う。残りは核分裂をしないウラン238だ。ウラン235のこの濃度0.7%では不足で濃縮プロセスが必要になる。目指すは、ウラン235が4.1%の燃料の素材粉末である。これを直径、約8mm高さ10mmのディスク、即ちペレットになる様にガラスで固めて加工し縦に並べて4メートル高の燃料棒を製造する。鞘の部分はジルコンの合金で燃料被覆管として機能する。

ウラン235は核分裂をしてキセノンなどの低い原子量の高放射物質になる。この時、中性子の発生と共に膨大な量の熱エネルギーが発生するのでこの熱を使って高圧高熱の蒸気を作りタービンを回すのが原子力発電である。燃料棒は数百本が圧力容器に密閉されて格納されている。発電するには核分裂が連続して続く連鎖反応が必要でありこの状態が臨界だ。臨界を止めるには制御棒が必要だがその仕掛けは以下のように構成する。燃料棒と制御棒を上から見るとチェス盤などのチェッカーボード状に交互に配置し構築する。燃料棒は炭化ホウ素の粉末などで棒状に作りその機能は中性子を吸収しそれを止めることだ。中性子が止まれば核分裂も連鎖反応も止まる。制御棒はスライドして上下させることが出来る。制御棒が充填状態なら発電はしない。制御棒をゆっくりとスライドさせて中性子を止めない状況にして臨界を起こさせると、連鎖反応熱で燃料棒を囲み循環する水が加熱され蒸気になりタービンを回し発電が始まる。制御棒の位置などはアナログ的な難しい操作になる。蒸気はタービンを通過し復水器で冷やすが、温排水は海に捨てる。原発を海の傍に作るのは温排水を捨てるためだが、津波の場合はどうするか?

運転中だった原子炉は、莫大な量の放射能を産出し、放射能から生成される中性子を制御棒に吸収させる訳だが、その際膨大なエネルギーが崩壊熱に変換される。臨界を止めても発生する崩壊熱は冷やさないと、温度がどんどんあがり原子炉特有の炉心溶融(メルトダウン)事故につながってしまう。そうなるとフクシマがチェルノブイリに続く事態となり、これは是が非でも避けなくてはならない。メルトダウンになると更に膨大な量の放射能が飛び交うのを防げないだろう。恐ろしい事態だ。

菅首相は国会で発言し「(福島第一原発は設置当時)津波への認識が大きく間違えていたのは否定しようがない(日本経済新聞3/30朝刊)」とした。これは筆者の見解と一致する。温排水を捨てるので海寄りに作る原発は津波対策が必須だ。原発安全神話を広報する以前に福島第一原発は津波対策が必要だった。

事後の問題は、以下の2つがあろうと思う。
1 原発システムを海外に販売する政策はこの事故で事実上頓挫した。
2 日本国民は原爆の洗礼もあって原発に反対しがちだった。今後は原発の新設が最早不可能になるかも知れない。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

[その後の注釈]
4月6日の朝日新聞朝刊では、福島第二原発の問題が軽微なのは第一原発が欠いている、機密性が高い原子炉建屋内に置いて保護した発電機の状況にあると述べている。仮にこれが正しければ第一原発の設計は大きく間違えていることになる。

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