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大事な高度IP技術が新興国に流出する危険な構図

3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震によって被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

本年、2月18日のデイリーヨミウリ紙は、インド政府が使用する携帯電話を納入する外国企業はその機種のソースコードの詳細を全て開示するようにとの通達を出した、と報じた。トンデモナイ通達であって日米欧の関連する企業群は強く反対している上、これで貿易戦争になるかも知れないとの意見を表明した一部のアナリスト達もいたと、伝えている。インド政府はその後、騒ぎを静めようとしているらしい。

中国も2009年4月には政府が同様の発表をしているが、中国の場合は携帯電話を含むIT製品全般を指しておりデジタルゲーム機なども含まれているため、もっと広い製品群が影響を受けるはずだ。

中国について詳しくは、2009年4月24日の讀賣新聞が報道しており、中国政府は自国内で生産・販売される外国製のIT製品について、「ソースコード」の開示をメーカーに強制する制度を同年5月に発足させる、とのことだった。

中国でのこの制度の導入はソフトの欠陥を狙ったコンピューターウイルスの侵入防止などが目的であるとしているが、ソースコードが解明されればICカードや現金自動預払機などの暗号情報を解読するきっかけの情報が得られることなどから、中国は技術の内容の入手、かつ学習を狙ったものと筆者は考える。外国からの猛反対を受けその後、中国政府は実施を延期する旨の情報を出して沈静化を図った。

以下にも例示するが、このように大事な高度技術が新興国に伝播する危険な状況が氾濫している。ソースコードは知的財産(IP)であり保有する企業の立場は明確である。代表例をグーグルで見てみると、検索などのサービス利用契約にうたわれているが、ソースコードを含む同社のソフトは、ユーザーの次の行為を禁じている。コピー、修正、二次的著作物の作成、リバース エンジニアリング、デコンパイル、またはその他の方法によりそのソースコードの抽出を試みる行為などである。この禁止行為の位置付けは明快である。

ユーザーはこのサービス利用契約に準じて使用するだけであり、上記のようにリバースエンジニアリング等を禁止していることは当然の処置だ。携帯電話などのデジタル機器を販売する日本の会社においてもグーグルと同じような立場であると考えられる。新技術の開発には相当な努力と人手と時間と経費がかかっている。企業にとっては生命線であり、そのように大事な高度IP技術が新興国などに安易に流出してよいはずがない。

筆者の記憶では、昭和20年代の日本は先進国とはいえなかったが、欧米に追いつくために意欲が高い企業は研究開発に注力していた。国民も政府も決して海外先進企業に対して政府が使用する製品でも決して無償で技術やソースコードを要求したことはなかった、と断言できる。

1960年代になってIBM社がSystem/360と称する当時の最先端のメインフレームコンピュータを開発しているという話が伝わったことがあったが、わが政府が税金を使って1台の360を買い上げてそのOSの詳細を開示させるようにすべきだ、などとは誰も考えなかった。もちろん、わが国の電算機メーカーは、知的財産を尊重する立場を崩さなかった。System/360の噂に戦々恐々としてはいたのだが、政府も国民も良きフェアプレー精神を十分に発揮したことを強調したい。他国や他社の発明や知的所有権を最優先で尊重したのが当時も今も日本人の考えである、といえる。インドも中国も日本や他の立派な国々のこのような態度を見習うべきなのだ。さもないと世界のITの業界に混乱が蔓延するばかりだ。

だが事はそんなに簡単でない事実が発生している。デジタルでもITでもないが高度技術の一翼を担う新幹線の状況だ。3月2日に発行された日経ビジネスオンライン、世界最速!「中国の新幹線」の記事(参考資料1)によると、中国は先進国の技術を“国産化”する「中国的イノベーション」を実施している。

日本が独自開発した高度高速鉄道である新幹線は1964年という早い時期に実用化された。世界的に鉄道インフラの需要が急増する今やその速度や安全運転の実績、過密ダイヤでも定時運行できるシステムの信頼性の高さを誇っている。

その一方で、日本や欧州の技術を導入した「中国の新幹線」が、既に世界最速を記録した。それを中国政府やメーカーは「独自技術」として他国に売り込もうとしている。何ともやり切れない事態だ。日本が中国に新幹線車両を販売した時の歴史的事実をウィキペディアで調べる事が出来た(参考資料2)。これによると、中国では、高速鉄道CRH2型電車が稼動していて、中華の鉄道部が第6次在来線スピードアップのために日本の川崎重工業から購入した高速鉄道車両が使われているのである。日本のE2系1000番台新幹線電車がベースになっている。中国側は当初、このCRHを自国製の高速鉄道車両としてアピールしていくと発表した。これは、中国側の車両購入条件として「中華へのブラックボックスのない完全な技術供与」があり、その技術も含めた購入のため、「自国の技術」と言い換えることができるとしている。大変に奇妙な理屈だ。

ブラックボックスがないことは、大変に有利な契約条件であり、日本側はそんな契約をすれば将来どう扱われるかが見えたはずだ。そして契約は守られ、日本側は透明性の高い情報を全て公開した。その上、中国側が小変更でもすれば、オリジナルとの違いが生まれ中国の国産、即ち中国製となってしまう。

このようにして中華人民共和国への技術流出が現実の姿になった。それに技術供与により次回受注が発生しなくなった。この結果、日本側への継続的な利益が見込めない事態となった。本来、新幹線とは地上設備等も含めた総合システムであるが、そのうちの車両のみを販売しなければならなくなった。以上、ウィキペディアは問題を指摘していて、この指摘は全く正しい。

問題は上記のようにして渡った技術が中国製とされ、日本のライバルとなり他の国に輸出される。人件費が非常に安い中国は圧倒的に有利になる。これは大変、「やりきれない問題」である。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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