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変遷する半導体製造ビジネスモデル〜ブルーオーシャン戦略が成功を導いた

設備投資額が巨大なインテル、サムスン電子そしてTSMCをメガメジャーという呼び方をして論じるケースが最近出てきた。確かに報道によると上記3社は48〜50億ドルの投資を2010年に敢行するとしている。ただし、筆者が若いころ半導体技術を楽しく学んだ東芝も健全な発展を遂げていると言うべきだろう。

本年3月23日の日刊工業新聞は「東芝、11年3月期の半導体投資を倍増...慎重姿勢は崩さず」と題して、今年の半導体投資額が2000億円を超す、と紹介した。東芝の投資額の2000億円越えを仮に2500億円で計算して見よう。円高の昨今、$ = \85で換算するならば29億ドルになる。他のメガメジャーの60%にもなる大規模投資を慎重に進め健闘する東芝はメガメジャーといえる訳でエールを送りたい。

TSMCはファウンドリでありIDMと違って設計業務を原則的にはやらないゆえにiSuppli社などのランキングデータには掲載されない。そこで2009年の年次報告書を読んで売上高を知ることができた。その値は71億5200万米ドルであった。これを用いてiSuppliのランキングデータに入れて見ると順序はインテル、サムスン電子、東芝、TI、TSMCと並んだ。筆者は投資額とランキングから見てインテル、サムスン電子、東芝、TSMCを改めてメガメジャーと考える。一方、TIは投資額を減らすファブライト路線を進むことになっている。

東芝はフラッシュメモリーを発明したことで知られている。その上に個別半導体、パワー半導体、フラッシュそしてLSIとバランスが良い製品群を持ち、従ってIDMとして理想的だ。サムスンは売り上げこそ東芝を上回るがフラッシュメモリーの製造ノウハウを東芝から導入した歴史を持つ。個別半導体やパワー半導体製造で東芝に一歩譲っている。トップのインテルは、製品のほとんど全てMPU(マイクロプロセッサ)のみに特化するモデルだがそれで良いのだろうか?東芝のように良好なバランスがとれた製品構成でなくて10年後もメガメジャーの地位は問題がないのだろうか?筆者の疑問は解けていない。

2008年5月にこのコラムに寄稿した筆者はTSMCについてやや詳しく書いた(関連記事1)。TSMCは1987年、我が国の半導体産業の絶頂期にTI出身のモリス・チャン氏が中心になって設立したファウンドリ企業である。筆者はTI時代にチャン氏がトップをつとめる事業部にいたこともあり、同氏を1969年から知っているが世界でも最も優秀な半導体事業家の一人であると信じている。TSMCは設立後から順調に成長発展し上述のランキングで5位のメガメジャーに到達している。

どんな戦略であったのか?TSMCは他に類を見ない徹底したブルーオーシャン戦略を採用した。ブルーオーシャン戦略とは存在しなかった市場を創造する企業戦略のことを指し、この企業が、優雅に航行するクールな青い海に例えたものだ。

対して、TSMCの誕生から最近まで半導体市場はホットなレッドオーシャンであったといえよう。それは、半導体各社とも既存のマーケットの中で激しく競争し自社のパイを増やすべく闘っていることを指す。競争相手は増えて利益や成長を達成するには厳しさを増し、そのような環境では製品がコモディティ化する一方になる。レッドオーシャンとは血で赤く染まった海を暗示する。

ブルーオーシャン戦略では、顧客をファブレスやデザインハウスを対象としたファウンドリが競争のない市場で活動する自由を享受する。当然ながら最初の市場は小さかった。しかし市場への参入は相次いだ。そして歴史によれば参入はサプライヤであるファウンドリよりも顧客であるファブレスやデザインハウスの方が圧倒的に多かった。それは起業の容易性を考えれば当たり前といえる。工場が必要な半導体ビジネスは莫大な投資額がなければ起業できない。デザインハウスはワークステーションとそれを動かすCADなどのソフトウエア、そしてオフィスを構え人材を得て起業できる。ファブレスの起業には敷居が同様に低い。

顧客企業の増加はTSMCにとって願ってもない事態だった。IDMまでが顧客となり、顧客が増える一方で、競合他社は入って来ない事態が長く続いた。TSMCにとってオーシャンは紺碧の青を保ち赤い海にはならなかった。もちろん、後からUMCやチャータード、ジャズセミコンダクターなどが入って来たが、人材はTSMCに集中していて投資規模や顧客ベースでもかなわなかった。一方、日米欧からのファウンドリ参入もごく最近までなかった。オイルマネーを引受けた米系のグローバル・ファウンドリーズ社が2009年に参入するまでTSMCは青い海を独占できた。グローバル・ファウンドリ社がどのようにしてTSMCを攻略するのかは今後「見もの」になる。

元NEC会長の佐々木元氏は日本が早い段階でこの市場に入れなかった失敗に関して次のように悔いを述べている。それは2009年4月16日、都内で開催されたシンポジウム「日本を救うイノベーションの力」においてだ。いわく、「ファブレス+ファウンドリのビジネスモデルは1990年代後半に大きく成長したが、日本メーカーはその事業機会を実現させ得なかった」。全くその通りと思う。

ソニーはファブライトの道を進むらしい。CCDを作らせれば世界一のソニーは画像を中心にした製品でブルーオーシャンを実現してほしい。新生ルネサスエレクトロニクスについては今後いかにして市場を攻略して上に進むのかは大変関心があるが、その見通しについては全くわからない。  

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1) TSMCから学ぶこと (2008/05/27)

エイデム 代表取締役 大和田敦之

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