セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

半導体・エレクトロニクスの大市場を創出する電気自動車

個人が使用する機械でエレクトロニクスのコンテンツの金額が最大なものは何か?筆者が提供する解答は「電気自動車」だ。即ち電気自動車の寄与により市場の拡大が見込まれエレクトロニクスや半導体にとって将来は更に大きな市場になるだろう。

12月に発売予定の日産自動車のリーフ

12月に発売予定の日産自動車のリーフ


今年6月23日に都内で開かれた第21回設計・製造ソリューション展で日産自動車の鈴木伸典氏(企画・先行技術開発本部)による講演を聴講した。演題は、「電気自動車がひらく明日のモビリティ社会」。日産はこの12月に電気自動車「リーフ」の発売を予定している。電気自動車は、二次電池からエネルギーを得て電動モーターを回しガソリンなしで走行するように設計されている。エンジンも変速機もなく構造は至極簡単である。その普及は開始したばかりだ。電気自動車をEVと呼称することが定着したので、以下には本稿でもEVと呼ぶことにする。講演ではガソリン車のエレクトロニクスコンテンツが30%、そしてEVではその値は70%を超えるとした。

電動モーターで走行することを考えれば環境に有害な炭酸ガスの発生を伴わない、という優れた特性も理解しやすいと筆者は思う。余り知られていないが、その燃費性能はガソリン車を大きく凌駕する。鈴木講師は燃費がガソリン車マイナス60%と表現したが、本年のJAF Mate誌7月号では、東京から洞爺湖まで一般道だけを使い859kmを走破して「日本EVクラブ」が取得したデータを示している。それによれば、ガソリン代が6,000円そして電気自動車は三菱自動車工業製のiMiEVを使ったのだが1,700円と大差がついた。ガソリン代はリッター当り20kmというガソリン車のトップデータを使って計算したものだ。ただ、EVには奥の手があってそれは深夜電力を利用することだ。これを使えばもっと差がつき電気代が1/3になる。深夜電力の結果コスト比は、1700対6000が567対6000になるので簡単には深夜電力なら、およそガソリンの1/10で済んでしまう。この大差の理由は、ガソリンにかかる大きな税金だけではなく、エンジンがモーターよりも効率が悪いという事実に基づく。エンジンは、15%を運動エネルギーに変換し、残りは熱として逃がしてしまっている状況にあると、上記のJAF Mateは伝えている。この雑誌は乗用車オーナー達が読む月刊誌だ。

鈴木講師によると電気自動車がつらいのは充電後の航続距離であり、USLA4(EVの航続距離に関わる米国仕様)でのリーフは保証値が160 kmであると述べた。この値は冷暖房オフの時の話しだ。悲しいかなEVでは暖房オンの時は電熱ヒーターによって電池がより多く消耗してしまう。したがって暖房時の航続距離は75kmに低下する。一方、ガソリン車は捨てている廃熱を熱交換することで暖房に使えるゆえに燃費に影響が出ない。

日産リーフの強みは搭載するリチウム電池にあるようだ。リーフの電池は長方形の薄いラミネート状のセルを何枚も重ねてフレームに格納し電池モジュールとする。そのモジュールを複数くみ合わせてバッテリーパックを形成し車に搭載するのだ。日産は1992年からバッテリーの開発を他社に先駆けて開始したゆえ、固有な進歩を遂げたという実績がある。結果、電池はコンパクトであり搭載性が高いといえると鈴木講師は報告した。

一方、トヨタはどうか。今年5月21日トヨタはシリコンバレーのテスラモーター社と提携する道を決めた。トヨタが5000万ドルをテスラに向けて投資することになった。トヨタの発想は明確だ。上記の様なEVの特性から「EVは短距離専用のコミューター、それは電池のエネルギー密度がガソリンの数10分の1 と遠く及ばないのだから」と、トヨタは考えている。したがってトヨタにとって当面はEVではなくハイブリッド車が主役なのだ。しかし、米市場のリコール騒動で信用を傷めたトヨタが米テスラと組んだことの意味は大きい。トヨタの戦略は次のようなものだ。

1 当面、ガソリン車とハイブリッド車で儲ける
2 EVはテスラに投資して委せる、その技術はテスラから学ぶ
3 テスラへの投資で傷んだ信用を取戻すことが出来るだろう

テスラモーターズは2003年に創立されたベンチャー企業だ。EVの研究開発、設計そして製造販売をこなす。2008年にはEV1号車としてロードスターを売出したがこれはスーパーカーだ。E. Musk氏以下の創業者達はIT出身であって電子・電気系の技術者だ。彼等が畑違いのEVスーパーカーを売り出したのは上に述べたようにEVは部品点数が少なく構造が簡単であるという事実に他ならない。EVは電子・電気技術が制御する機械なのだ。この会社が一旦、成功パスに入るや否や、トップクラスの車技術のプロ達が雲の如く集まって来るのが米国の強さだ。テスラモーターズの偉大さは大きなリスクをおかし世界をリードするEV車を売出し多いに売れ始めたことに他ならない。

6月29日、地元紙サンノゼマーキュリーニューズはテスラモーターズの上場を大きく報じた。トヨタとの提携を発表し3カ月を経ずして上場を敢行するなど心憎い演出だ。最初、$17でスタートさせた株価はその日の内に24ドルまで上がった。わずか一日で41%の上昇になった。株主達はトヨタを含めうれしかったに違いない。

昨年NHKは特別番組を組んでテスラモーターズとロードスターを紹介したので日本でも観た人は多いはずだ。ロードスターはゼロから60マイル(96Km)まで3.9秒で達成し、この値はポルシェを越える。EVはモーターなので低速トルクが大きいゆえに低速時の加速性は抜群なのだ。リーフもそうだが走行時にEVは圧倒的に静かだ。静かすぎて傍の歩行者がクルマに気が付かない場合もあり危険だ。このため低速時は人工的な警告音の発生が必須になる。加速時に発するポルシェの唸り声はよく知られているが、ロードスターはずっと静かなのだ。さすがテスラといえるのだがロードスターの航続距離はリーフよりも格段に大きく設計されていてその値は2倍を超える390kmである。このようにリーフとロードスターは全く性格が異なるクルマだ。マーケッテイング戦略上テスラは、ロードスターをスーパーカーに仕立てて売りやすくした。米国の富裕層が欲しいクルマになった。テスラはリスクを取りつつ果敢に市場を攻めている。テスラ社CEOのMusk氏との初対面の時にロードスターを試運転したトヨタの豊田社長はF1ドライバーだが、彼がこのスーパーカーに惚込んだのは考えにくいことではない。

テスラと組み米国のハイテク業界に関与するトヨタだが、日産が米国に喰込んでいないわけではない。充電インフラの整備に向けて米国では活動を始めている。報道によればこの動きで日産は米政府の充電インフラ開発に参加するキップを日産が手に入れた。日産はこのプロジェクトに「リーフ」を5000台ほど無償で提供する権利を得た。日産は米エネルギー省から14億4800万ドルの融資を受けている。ゴーン会長の率いる日産は交渉が上手だ。代わりに米国テネシー州のスマーナ工場で「リーフ」を生産することをコミットしている。米国人を大量に雇うことになる。  

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

月別アーカイブ