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賢者の決断が救ったIDMの危機

繁忙期の半導体の生産現場では熾烈な事態が展開されることは多々あり決して珍しいことではない。本稿では一昔前に起ったB社が経験したケースをフィクションに替えて紹介しよう。B社は、シリコンバレーに本社を置く半導体製造装置会社の日本法人である。クリーンルームを有しデモ機もあって顧客の評判は悪くなかった。

繁忙期に半導体の生産現場で発生する事態の激しさは常に厳しい方向に向かうが、常に適正な解決策が期待されている。半導体デバイスはエレクトロニクス機器のコア部品として搭載されるゆえに、他のものと置換できない。IDM即ちデバイスメーカーは製品の数を揃えて、納期に合わせることが基本的なビジネスである。

しかしながら歩留まりが上下したりして納品時に数の不足を来たすことが、ときどき発生する。他にも装置のダウンが突発することもある。この時もB社製造のウェーハ検査装置がダウンした。IDMの担当者からその日の早朝に報告を受けた担当者のA氏は不吉な予感がした。もしかしたら先日業者さんの問題で在庫が切れて納期が5週間と言われていたあの部品が故障したのではないか?もしそうなら「お手上げ」になってしまう。

不吉な思いは的中するものでB社のA氏はIDMに駆つけてその装置の簡単なテストをしたがやはり故障であった。そして、原因として直ちに不良部品を特定できた。やはりズバリあの部品で先週納期が5週間と言われたものだった。あれからまだ1週間しか経過していない。部品は特急で発注ずみだが、納期は4週後であろう。IDMの生産現場が4週間ダウンしたまま持つはずがない。A氏は本当に困ってしまった。

その部品さえ手に入れば修理にはものの60分もかからない。装置の不良部品をていねいに外して良部品を取付けるだけでよい。後は簡単なテストをして装置の良好な状態を確認すればそれで終わりだ。だから部品さえあれば楽勝なはずだった。お客様に故障を詫びて後、簡単な故障の説明をして「80分程かかります」と、申し上げ60分後に「直りました、どうぞお使い下さい」、と言えばよいのだ。ご担当のお客様であるエンジニァの機嫌が良ければ、「早かったな、ごくろうさま」と、言ってもらえるかもしれない。そして修理報告伝票にサインをもらい意気揚々と引き上げることができる。

しかし部品待ちが4週間もかかるならシナリオは激変する。お客様である担当のエンジニァは製造部長や上層部の了解がなければラインを4週間も止められない、と発言するに決まっている。

現実に、IDMはB社の日本代表以下数人を呼んで製造部長以下、品質管理(QC)部門や営業部門の責任者などが集う対策会議を午前中にもかかわらず開いた。しかし4週間の部品納期をたとえば3日に短縮することはできるはずもない。情報は昼前に太平洋を越えてカリフォルニァのB社の本社に伝わった。そして、日本を担当するバイスプレジデント(V)の耳に素早く入った。VPはファーストネームをアーサーと言った。

アーサーは子会社に電話して代表を呼び出し厳命する、「いいか、カニバリズムは絶対に避けるように」。「カニバリズム?こんな時に判りにくい英語を使わないで欲しい」と、電話を受けた代表は心の中で思った。

カニバリズムとは、英語の辞書にはcannibalism:人肉を喰う行為、とある。アーサーがくぎをさした真の意味は次のようなものである。該当する部品は日本法人のクリーンルームの中に既に存在している。だがその部品を使ってはならない。デモ機からその部品を外してしまえば今度はデモ機がダウンしてしまう。アーサーが言及したカニバリズムとは良好に稼働している装置から部品を外して故障中の装置の修理に使用する行為を意味する。それは人喰いと同じ野蛮な行為なのだから「絶対にしてはイケナイ」と言うのがアーサーの指導だった。

もしここでカニバリズムをすればお客様の装置を修理することは物理的に可能だろうし、それをすればお客様のラインは再び動くだろう。そして、B社の危機も去るだろう。しかし、それでは人喰い人種と変わらない、B社ではカニバリズムはタブーなのだ。B社には人喰い人種はいない。もし仮に今回はカニバリズムで解決してもデモ機は4週間休むのか?新たに発生するデモ機の問題はどうなる?だからそんなことはできない。

その夜10時まで続いた対策会議は問題解決に至らなかった。家に帰ってA氏は眠れない夜を過ごした。しかしながら次の日9時に出社したA氏は仰天した。IDMのラインが動いているとの噂を聞いたからだ。いったいどうなっているのか?

IDMの製造部長の上司にC氏がいた。C氏は若くして役員に昇進していた。その夜、出張から帰った彼は10時に無為に終わった対策会議の30分後にファブにやって来た。製造部長から簡単な報告を聞くやいなや、QC部門の責任者を呼んだ。そしてB社の検査装置がリジェクトしたウェーハが過去3カ月のデータをプレゼンさせた。結果は相当良く、リジェクト率は0.8%であった。C氏はある決断をする。

夜は既に12時近かったが、彼は電話で家にいたアーサーを呼びだした。カリフォルニァはデイライトセービング時間制なので、当日の夜中の12時は向こうが朝8時、ちょうどよかった。アーサーはC氏が好きだった、というより尊敬していた。それなのでアーサーはC氏のことを米国風にチャーリーと呼んだ。先ず教養が高いので、どんな話をしても飽きない、英語でのコミュニケーション力が日本人の中では飛びぬけている。チャーリーはアーサーが楽しめる会話やトピックスをいつも提供してくれた。電話には夫人が出た、「ジュリア、お早う。アーサーを頼む」とチャーリー。「OK, Is this Charlie?? One moment...」とジュリア。そして間もなくアーサーが電話に出た。

アーサーは今回の顛末を手短かに話し詫びた。C氏は部品在庫をしっかり持つように今後は気を付けて欲しい旨を話した。続けてC氏は彼の決断を話した。その決断とは、部品が手に入り検査装置が再び立上るまで検査をしないというものだった。不良率は0.8%なので4週間は目をつむると話した。アーサーは「That's excellent, Charlie. Very good thank you, I will report this to my boss.」、と言って電話を切った。

事件は解決した。後はIDMがワークマンシップに気をつけ現行0.8%レベルのウェーハ不良率を保つ努力を欠かせない。これで事態は解決した、ファブのラインは動いている。そして、B社のA氏は次のように反省せざるをえなかった。今回の失敗を教訓に部品の在庫管理は万全を期すようにしよう。先手、先手で行かなくてはならない、と肝に銘じた。

この物語は筆者によるフィクションであって事実ではないことをお断りする。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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