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集積回路需要を牽引する応用市場

半導体集積回路の消費量をドライブするのはその応用であることに間違いはない。今後の応用は何が牽引するのだろうか。応用の歴史をみてみよう。最初の集積回路の市場はIBMなどがECL(emitter coupled logic)やTTL (transistor-transistor logic)を大型計算機(メインフレーム)に応用することで始まったものであると考えている。この事実を見て日本の集積回路開発は戦略的に重要なものとされた。

一方TTLなどが全盛の頃、わが国でもMOS技術の研究開発がなされ大きな応用として電卓が浮上した。半導体デバイス製造各社は揃って電卓用のpチャンネルMOSIC開発レースに参入したが、いち早く参入したテキサスインスツルメンツ社がリードした。しかしpMOSが消費電力の少ないCMOSに進展するのに従いシャープなどの市場占有率が増した。卓上計算機はCMOS化で携帯することが可能になりそのため個人で使う電卓は、半導体の消費を大きく増やした。

新らたな応用のドライブは意外な所からやって来る。70年代の最初の石油ショックを契機としてCB(市民バンド)トランシーバの市場が爆発的に広がったことがあった。それは米国で大陸を東西に横断する大型トレーラーで奪い合いになったからだ。ハイウェーパトロールの眼をかすめるのだ。大陸横断大型トレーラーはスピードが命なので随時速度制限を越える。運転仲間の間ではCBトランシーバが情報交換に使われた。「パトロールは今XX地点に居る、YY方面に向かっている、気をつけろ!」と言った情報が飛び交った。この話は当時、筆者が勤めていた日本プレシジョン(NPC)に大量の専用フェーズ・ロック・ループ(PLL) CMOSデバイスを発注してくれたCBトランシーバメーカーのC社社長から何度も聞かされた。CBトランシーバはトレーラーのみかトラックや一般乗用車でも使われていたに違いない。

その後の集積回路の応用市場について思いつくままに、厳密ではないが、ほぼ時系列で挙げてみよう。電卓とCBトランシーバに続いて腕時計と目覚しクロックが電子化された。電卓もそうだが時計など個人が使う製品は数が多く売られるので集積回路の売上高は大きく伸びた。

WALKMANは、ソニーが1979年に発売した世界初の携帯型ステレオカセットプレーヤーである。若者の間で広く普及した。その後、CDプレーヤーが日本の新技術として出現した。CDはレコード店で取扱われるようになった。ずっと遅れて21世紀になってからアップル社がiPodを世に出した。デジタル技術によりネットから楽曲をダウンロードするものでフラッシュメモリーに蓄える曲数は数千曲にもなる。

ビデオテープレコーダを世界で最初に実用化したのも日本企業だ。ソニーのベータとビクターのVHSが競争しVHSがデファクトスタンダードになった。もちろん、VHSテープの録音再生機が多いに売れた。外出していても家でTV番組が楽しめる留守録ができるようになった。

日本メーカーはTVの半導体化において先頭を走った。ICがTVの真空管を駆逐し、TVは固体素子のかたまりになった。最後にはTVのブラウン管ですら液晶画面になり薄型TVが全盛の時代になった。薄型TVはLCDドライバ回路を必要としTVのIC化はさらに進んだ。

アップルコンピュータ製のMacが出現しIBM PCが続いた。これらパソコンにマイクロプロセッサ(MPU)とDRAM が大量に使用された。ウィンドウズOSがデファクトスタンダードになった。そのため多くのPCメーカーが現れた。

日本の各社が先頭を走ってカメラをデジタル化した。写真フィルムがほぼ駆逐された。デジタルカメラも個人使用だから数が多く出る。

日本はゲーム王国だがここでも集積回路が多用される。ゲーム機も個人使用だから数は出る。21世紀のブロードバンド化で日本のメーカーはネット仕様のゲーム機を進展させた。

いつの間にか自動車の電子化が大きく進んだ。ガソリンは電子注入になり速度、温度、上り坂などの条件で燃料注入が自動化され乗用車は集積回路の大きな市場になっている。主導するのはわが日本だ。自動車においてECU (Electronic Control Unit)と称する専用コンピュータを、日本メーカーが先駆けて開発実用化した。

"Digital Video Disc"の略語のDVD(編集室注)は米国映画業界の要求からソニーを初めとする日本企業が開発して実用化した。第二世代の青色半導体レーザーを使ったブルーレイディスクは25GBと記憶情報量が多く、第一世代のDVDの4.7GBよりも数倍多い。

最初にGPSを使ったカーナビを報告したのは、1979年日本の三菱電機の三田研究所であった。1989年にはパイオニアがGPS開発の米トリンブルナビゲーション社と契約し200万円もした価格を10万円程度にするコストダウン化へのチャレンジをスタートして製品化した。

時代はインターネット普及期になりWindows OSのXP版が普及しPentiumが多く使われた。日本が主導しネットはブロードバンド化しWeb 2.0を経てクラウドの時代になった。米企業がリードするサーバーが進展し企業が社内ネットを構築することが出来るようになった。その後データーセンターが多く出現した。データーセンターサービスを提供する会社の競争が激化してたくさんの顧客企業がデーターセンターを使う時代になった。

そして個人が使う携帯電話が世界で爆発的に普及した。i-modeと呼ぶ日本独自の様式をNTTが開発したが世界には普及しなかった。

一種の電子マネーだが個人が使う「スイカ」と呼ぶIC Cardが2001年に現れ大きく普及した。

筆者は、消費量をドライブする新しい半導体の応用はさらに続くと思っている。その有力候補は、本ブログの2009年7月7日版で紹介したスマートグリッドに使うスマートメーターではないかと考えている。

本年11月2日の日経新聞によると経済産業省は次世代送電網「スマートグリッド」に関する国際標準化の日本独自案を今年度中にまとめることになった。先行する米国に対抗して日本企業の海外展開を支援する。経済産業省は標準化案作りに向けた研究会を立ち上げて、来年度にはISOに提案する方針だ。

規格統一することにより日本のみでなく世界市場に進出できる上、コストも下がる。米商務省はこの9月に既に規格案を公表している。内容は膨大で送電網、電気自動車、蓄電池、家電製品、通信方式など77規格を盛り込んだ。一方、野村證券金融経済研究所は2030年までにスマートグリッドへの投資が日米欧累計で1兆2500億ドルに達する、とする紙資料を配布している。

日本が主導した上述の多くの種々応用製品において大きな問題はコモデティ化だ。応用製品は成功すれば普及する。その上アジア諸国で作られるようになるとコモデティ化し安売り競争になってしまい利益が上がらない。コモデティ化は避けられない問題だ。したがってスマートメーターのような世界市場を制する次世代半導体製品を、日本の企業は常に追うことが避けられない。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之


編集室注)JEITAはdigital versatile discと再定義したが、その意味は却ってぼやけたものになっている。

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